表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部1章
56/177

閑話 神殿でのやりとり

 セイヤとリムセルマに見送られて別のドアをくぐったマグスは、そのまま長めの階段を上り始めた。

 マグスは、階段を上っている間に、先ほどまでセイヤやリムセルマから聞いた話を、頭の中で整理していた。

 改めて一人になって考えてみれば、とんでもない話であった。

 本心でいえば、嘘だと叫びたいところだが、そうできない事実が揃っている。

 これがセイヤだけだったならともかく、まさかのリムセルマ神がいたうえでの話だ。

 二人(?)がかりでマグスをだましたりはしないだろう。

 さらにいえば、いま上っている階段は、まぎれもなく本物だ。

 これを否定してしまえば、いま現在の自分の正気を疑わなくてはならなくなるのだ。

 

 マグスは上り階段の途中で意識を切り替え、これから起こるべきことを考え始めた。

 リムセルマ神の話では、この先は神殿に出ると言っていた。

 となれば、当然マグスが現れたことに一番先に気付くのは、神殿に務めている神官ということになる。

 その中の誰が出てくるかは分からないので、まずは事情を知っていそうな者と話す必要がある。


 さらに、事情を知っていそうと言っても、その程度の問題もある。

 神殿側が、フェイルの街の神殿に務める神官にどの程度の情報を渡しているのか、それを見極めるのが大事なのだ。

 様々な事情を知っていたうえで、これまでマグスと対峙していたのであれば、それはそれで問題だし、知らなかったのであれば、中央の神殿をつつかなければならなくなる。

 まずは、神殿がどんな体制になっているのか、しっかりと知らなければならない。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 階段の先の部屋は、一般的な広さの部屋だった。

 飾りつけもほとんどない質素な部屋で、あるのは二つの扉だけだった。

 しかも、そのうちの一つの扉は、マグスが部屋に入ったとたんに消えてしまった。

 それを確認したマグスは、その扉が一方通行になっているのだと理解した。

 マグスの感覚でいえば、神の御業で作られた不思議な扉だ。

 

 マグスがその部屋に出たときには、そこには誰もいなかった。

 扉を開けて外に出て神殿内をうろつけば、そのうち誰かに会えるだろうが、知らない間にマグスが神殿に入ったと思われる。

 それでは本来の目的が果たせないので、意味がないのだ。

 さてどうしようかと悩んでいたマグスだったが、すぐにその心配は払拭された。

 というのも、マグスが部屋に出て五分も経たずに、残っていた一つの扉が開いたのだ。

 しかも、その開き方は慌てているように、いきなり開けられていた。

 

 開けられた扉から現れた人物を見て、マグスは半分驚き、残り半分は納得していた。

「なるほど。きちんと其方に知らせるようになっているのか」

 マグスにそう言われたその相手は、フェイルの街にある神殿を束ねている神殿長その人だったのだ。

 普段は神殿の奥で執務をこなしている神殿長が、自ら動くことなどほとんどないはずだ。

 それなのに、いきなりその神殿長が姿を現すとなれば、この部屋の重要性を知っているということになる。

 勿論、この場に来ただけで、本来の意味を知っているとは限らないが、少なくとも神殿長自らが対応するべき案件だとわかっているのだろう。

 

 マグスから話しかけられた神殿長は、何ということはないという表情をしていた。

「おや。これはマグス様。ここは神殿にとっては重要な部屋の一つですが、何かご用でしたか?」

 いきなり現れた人物に対してご用もなにもないと思うが、それでも神殿長はそう言い放った。

 そして、その言葉を聞いたマグスは、同時に神殿長はある程度のことは知っていると判断した。

 

 マグスは見逃していなかった。

 自分から話しかけたときに、神殿長の目が一瞬泳いでいたことに。

 ほとんど顔に表さなかったのは流石に一つの神殿を束ねているだけのことはあるといえるが、それだけで海千山千の貴族と渡り合っているマグスを誤魔化せるはずもない。

 そして、だからこそマグスはこの場での無用なやり取りは省くことにした。

「ご用の内容に関しては、其方のほうがよくわかっていると思うが?」

「はて、どういうことでしょうか?」

 あくまでもとぼけようとする神殿長に、マグスは首を左右に振った。

「別にとぼけ続けるのであれば構わないが、この部屋の重要性を知っている其方が、私がここに現れた意味を知らないはずがないだろう?」

「…………」

 マグスの言葉に、神殿長は沈黙を返してきた。

 ここで迂闊な答えを返せば、自分の首を絞めることになるとわかっているのだ。

 

 黙ったままの神殿長に、マグスは特に表情を変えることなく、淡々と続けた。

「答えはなし、か? まあ、それならそれで別に構わないが、やり取りする相手が中央に変わるだけだと思うぞ?」

 自分は別にそれでも構わないと言外に意味を込めて、マグスはそう言い放った。

 実際、マグスにしてみれば、誰が相手になろうとも構わないのだ。

 これまで自分に対して教会がしてきたことと、神からの正式な手続きを経て領主となったマグスは、教会に対して圧倒的に有利な立場にある。

 場合によっては、神の威光も利用できるのだから。

 

 別にお前など必要ないとはっきりと断言された神殿長は、内心で冷や汗を流していた。

 ここで自分が認めれば、これまで行ってきたことをマグスから糾弾されることになり、今後の立場も危うくなる。

 だが、認めなかった場合も、この辺り一帯を守護する神の意向を無視することになる。

 神殿長は、この部屋にマグスが突然現れたという意味を、きちんと理解しているのだ。

 だからこそ、迂闊なことは言えないと黙っていることしかできないのである。

 

 そして、その神殿長の様子を見ていたマグスも、どうするべきかと悩んでいた。

 ここで神殿長をあっさり無視して、いきなり中央とのやり取りに変えても構わない。

 だが、それは、教会にとっても時間稼ぎになるのだ。

 出来ることなら、時間を掛けずに、これまでの教会の行いを糾弾できるほうがいい。

 

 そう考えたマグスは、自分から動くことにした。

「もし、この場で話を続けるのであれば、私から教会に口添えをすることもやぶさかではないが、な?」

「っ!? そ、それは……」

 マグスが言った意味を正確に理解した神殿長は、はっきりと理解した。

 早い話が、教会の中央と話をして、神殿長の立場を悪いようにはしないと取引を持ち掛けているのだ。

 流石にこのままフェイルの街の神殿に居続けてもらうのはマグスも許さないが、それ以外に神殿長の立場を守る道はいくつもある。

 そのための道を、マグスが教会に打診すると言っているのである。

 

 悩みを見せる神殿長に、マグスはゆっくりと話しかけた。

「まあ、どちらを選ぶかは其方次第だ。好きにするといい。あまり時間はないがな」

 マグスはそう言って、入り口に向かって歩き始めた。

 あとは神殿長の判断次第だ。

 ただ、マグスもそこまで時間を掛けるつもりはないので、一両日中には中央へと話をするだろう。


 敢えてそのことは言わずにこの場を立ち去ろうとしたマグスだったが、部屋を出るか出ないかというところで神殿長から話しかけて来た。

「……お待ちください。まずは、マグス様が正式に認められたことをお祝いいたします」

 その神殿長の言葉を聞いたマグスは、神殿長が自分の言葉を選んだと察した。

 そして、笑みを浮かべたマグスは、神殿長を振り返りながら話を聞く体勢になるのであった。

 

 話し合いの結果、このあと神殿長は、中央付きの神官ということになる。

 役職的には一段上になったということなので、間違いなく栄転ということだ。

 代わりに、フェイルの街の神殿には新しい神殿長が中央から来ることになったが、その人材が以前の神殿長のひも付きであることは、ただの偶然であるはずがないのであった。

「(4)神殿の役割」の続きです。

話的にはセイヤとはほとんど関係が無いので、閑話としました。


神に認められた領主として、最大限権力(?)を使って交渉するマグスでしたw

これでマグスは、中央の神殿にパイプを持って、さらに足元の神殿の神殿長はそのパイプとのつながりを持っている人物が就いたことになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ