(8)全身強化、部分強化
全員が魔力を感じ取れるようになった次は、魔力を体内で自由に動かせるようにするための訓練だ。
これができなければ、内気法も外気法も魔法を発現することができない。
とはいっても、いきなり自由に動かすようにするのは難しいので、まずは体内で魔力を薄めながら広めるように指示した。
これの後で魔力が自由に動かせるようになれば、内気法はほとんど出来たも同然である。
というと簡単そうに思えるが、実際にはそう簡単にできるわけではない。
全身に薄く魔力を広げることができたとしても、薄まった魔力で身体を強化してもほとんど意味がないからだ。
実践レベルで使えるほどの魔力がないと、内気法は行っても意味がない。
だからこそ、いきなり全身に魔力を回すのではなく、好きな場所に魔力を送って、特定の部位での強化を行うのが効率的なのだ。
「――というわけで、まずは全身に魔力がいきわたるようにしてほしいのですが…………聞いていますか?」
滔々とアヒムたちに語っていたセイヤだが、彼らが眉を寄せつつ目を閉じていることに気付いて、そう問いかけた。
どうやら彼らは話の途中で、魔力を広げる訓練を始めてしまったらしく、ほとんどセイヤの言葉を聞いていなかったらしい。
自分の言葉にほとんど反応していないのを確認したセイヤは、ひとつため息をついてから、シェリーを除く全員の頭をパコンパコンと叩いた。
シェリーだけが除かれているのは、彼女がきちんとセイヤの話を聞いていたからである。
勿論叩く力は加減してあるが、しっかりと身体強化をしているので、移動は一瞬で全員を叩くのにもほとんど時間がかかっていない。
無駄に魔法という技術を使ってきたセイヤに、代表してアヒムが口を尖らせた。
「兄貴、痛い」
「文句があるなら、まずは人の話をしっかりと聞いてからにしましょうか」
セイヤの言葉に、シェリー以外の全員がついと視線を逸らした。
誰もが自分が悪いとわかっているので、それ以上文句を言ってくることはない。
ここで、彼らの集中力が切れたと判断したセイヤは、これ以上は説明しても無駄になると考えて、自由に訓練をするように言った。
ここでシェリーもようやくセイヤが言った通りに、魔力を広げる訓練を始めた。
ちなみに、メンバーの中で全身に魔力を行き渡らせることが出来るようになったのは、シェリーが一番だった。
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全員が全身に魔力を行き渡らせることが出来るようになるまでに、一月ほどの時間がかかった。
その後は、前にも言った通り、特定部位の強化ができるようにする訓練を始めたのだが、その際にセイヤはひとつ付け加えて言った。
「今回覚えた全身に魔力を行き渡らせることは、毎日必ず行ってください」
「何か意味があるのですか?」
そう問いかけて来たシェリーに、セイヤは勿論ですと頷いた。
「毎日毎日これを繰り返していくと、そのうち体に行き渡らせる魔力が増やすことが出来るようになります。……なぜかわかりますか?」
セイヤは、敢えて答えを言わずに皆にそう問いかけた。
一から十まですべてを教えるのではなく、魔法や魔力に付いて自分で考える力を付けさせるためだ。
セイヤの問いに答えたのは、やはりというべきか、シェリーだった。
「薄まった魔力を補充しようとするため?」
「おっ! さすがシェリーですね。正解です」
セイヤの返答に、シェリーがニコリと笑顔を返した。
その顔には、セイヤに褒められて嬉しいとはっきりと書いてある。
それはともかく、セイヤは他の面々を順に見て言った。
「この訓練は地味で面倒に思えるかもしれませんが、必ず将来の自分のためになりますので、欠かさずに行ってください」
ここでセイヤは一度言葉を区切って、全員が頷くのを確認した。
「魔力が増えればそれだけ強く強化が出来るようになりますし、あとで教える魔法も多く強大なものが使えるようになります」
魔力の増加がどのくらいまで行えるのか、実はセイヤもまだわかっていない。
というのも、セイヤ自身の魔力もまだまだ増え続けているからだ。
年齢によって成長が止まるのか、あるいは訓練すればするだけ増えるのか、それはこれから見極めていかないといけない課題の一つである。
セイヤは、魔力を全身に行き渡らせる方法を単純に瞑想と名付けた。
いちいち「魔力を全身に行き渡らせる」と言うのが面倒なのと、わざわざ新しい名前を考えるのが面倒だったのが合わさった結果だ。
そして、全員が瞑想をできるようになったころから、セイヤは本格的に傭兵団『旭日』の活動を行うことを許可した。
ここまで彼らはずっと収入なしで訓練と学習を行っている。
その間の生活費は、全てセイヤからのポケットマネーから出されていた。
ちなみに、傭兵団の命名もセイヤの発案だが、正式に決まるまでにひと悶着あったことだけは、付け加えておく。
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アヒムたちが魔力の部位移動の訓練を始めるようになって数カ月ほどが経った。
この日、彼らは珍しく緊張した雰囲気に包まれながら拠点の庭で訓練を行っていた。
その理由は、
「ふむ。確かによく訓練されているようだな」
「そうですか? 母上にそう言ってもらえると、安心できますね」
セイヤは、自分の隣に立っているアネッサにそう笑みをこぼした。
元が一傭兵とはいえ、現在は辺境伯の第二夫人であるアネッサに注目されて、緊張しないはずがない。
しかも彼らは、元はスラム街に住む住人だったのだ。
いくら事前にセイヤから自分の実母だと聞いていても、緊張しないはずがない。
アネッサがこの日彼らの訓練を見学に来ているのは、セイヤが本格的に他人に魔法を教え始めたと聞いていたからだ。
本来であればもっと前に来たかったアネッサだったが、きちんと形になるまでは駄目だとセイヤに止められていた。
そして、ようやくセイヤから許可が出たために、こうしてお披露目となったのである。
今彼らが行っている訓練は、体の特定の部位を強化して、それぞれが扱っている武器を使うためのものだ。
各々に武器の素振りを行っている面々をじっと見ていたアネッサは、納得の表情になった。
「なるほど。事前に話は聞いていたが、こういうことなのか」
すでにアネッサは、全身強化を行うことができる。逆に、部分強化は出来ない。
これが、自然に魔力強化を覚えた者たちの当たり前の感覚なのだが、それには一つ大きな問題がある。
それが何かといえば、全身強化を実践レベルで使いこなせるようにするためには、かなりの魔力が必要になるということだ。
セイヤは、この問題が一般的に『壁』と言われる原因になっているのではないかと推測している。
しばらく彼らの訓練を見ていたアネッサは、さすがというべきか、すぐに部分強化の問題点を発見した。
「それぞれの部位の強化ができれば確かに便利だが、いろいろと問題も起きそうだな」
例えば、腕を強化して剣をふるっても、足腰などが付いてこれないことも多く発生する。
その他にもいろいろと問題が起こるのだが、アネッサはそうしたことをすぐに見抜いたようだった。
「それはそうですが、母上の場合、すでに実践レベルで全身強化ができていますからね。部分強化は、まだそれが出来ない人たちのためのものです。それに、全身強化をした上で、更に部分強化ができるようになれば、いろいろと小細工もできますよ」
「ああ、なるほどな」
セイヤの言いたいことをすぐに理解したアネッサは、納得の表情で頷いた。
たった一言ですぐに理解できるアネッサもまた、紛れもなく天才と言うべき才能の持ち主なのである。
本格訓練開始です。
まず、内気法から始めたのは、体で直接感じられるものなので分かり易いという理由からです。
あとは、外気法の魔法は、普通に見られるものではないので、いきなり想像でやれといわれてもなかなか難しいということもあります。
魔法が一般的になれば、目にする機会もあるので、どちらが先でも構わない、という設定になっていますw




