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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第2部1章
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(5)同族嫌悪?

 セルマイヤー領の跡継ぎや巫女の問題はマグスに任せて、セイヤは自分のことを進めることにした。

 そもそも後継者問題はセイヤが口出しすべきことではない。

 あくまでも、リムセルマとの中継ぎをしただけなのだ。

 ただ、そのお陰でセイヤに必要な強固な地盤が出来たのだから、まったくの無駄だったというわけでもない。

 セルマイヤー家が必ずしもセイヤの味方であり続けるわけではないのだが、少なくともマグスが領主でいる限りはよほどのことが無い限りは協力できると考えている。

 そのためにも、セルマイヤー領には安定してもらう必要があったのだ。

 

 洗礼の儀式を経たセイヤは、大手を振って傭兵として活動することができるようになった。

 そのお陰で、以前から考えていた計画を進めることが可能になった。

 それを行うために、今セイヤは姿を隠さずにスラム街を歩いていた。

 変装を行わずに街を歩けるようになったのも、傭兵としての活動許可を得ることができた恩恵のひとつだ。

 

 傭兵らしい動きやすい服を着てスラム街を歩くセイヤは、時折注目を集めることはあっても、変に絡まれるようなことはなかった。

 少しだけ寂しく思いつつ、セイヤは目的の人物を見つけて近付いて行った。

 その相手もすぐにセイヤのことに気付いたのか、嬉しそうな顔をして向かってきた。

「兄貴! 堂々と来るなんて、珍しいな! 何かあったのか?」

 相変わらずの調子で話しかけてくるアヒムに、セイヤはニンマリとした笑みを浮かべた。

「ええ。ついに正式に傭兵として活動することが認められましてね」

「えっ!? マジか! じゃあ、いよいよ話を進めていいのか?」

「そうなりますね」

 アヒムの言葉に、セイヤはそう返しながら頷いた。

 

 実はセイヤは、アヒムから傭兵団を作らないかと言われていたのだ。

 だが、表立って活動できない以上、まだそれは出来ないと断っていた。

 アヒムはそれを残念そうにしながらも、自分のにとってのリーダーは兄貴しかいないと、他の傭兵団からの誘いを断り続けていた。

 ゴブリンを狩り続けていたアヒムは、セイヤの指導を受けながら確実に実力をつけていき、いまでは若手の中でも五本の指に数えられるほどにまでなっているのだ。

 自分の実力がセイヤのお陰で上がって行ったと自他ともに認めているアヒムは、セイヤが傭兵団を作るつもりだという話を聞いていたのでどこの誘いも受けなかったのである。

 

 アヒムは、セイヤの返事に嬉しそうな表情を浮かべた。

「そうか、いよいよか!」

「ええ。お待たせして申し訳ありませんでした。それで、ボーナはどこにいますか?」

「ボーナか? 今日は狩りには出ていないはずだから、兄貴が来ている話を聞いてそろそろ来るはず……ああ、あれか」

 セイヤに答えている途中で、自分たちに向かって駆けてくる人影を見つけたアヒムが、視線をそちらへとずらした。

 丁度セイヤは背を向けていたので、そちらの方角を見ると、確かにボーナらしき人影が近付いてきていた。

 まったく別の場所にいたはずのボーナが、これだけの時間で来るのだから、スラム街の情報伝達能力は恐ろしいものがある。

 

 そんなことをセイヤが考えている間に、ボーナはあっという間にふたりのところに来た。

「兄貴! 今日は何の用で来たんだ?」

 口を開くなりそう聞いてきたボーナを見て、セイヤはクスクスと笑い出した。

「えっ? な、なんだ!? あたい、何かおかしなこと言った?」

 疑問符を浮かべながらそう聞いてきたボーナを見ながら、アヒムが渋い顔になった。

 そのアヒムが答える前に、セイヤが笑いを抑えながら答えた。

「いえいえ。大したことではありませんよ。ただ、ボーナの言葉が、アヒムとまったく同じものだったもので、面白かっただけです」

 セイヤがそう言うと、ボーナはアヒムとまったく同じような顔になった。

 

 誰がどう見てもそういう関係だと思われそうなアヒムとボーナだが、未だに付き合っているという話は聞いたことが無い。

 それどころか、お互いにライバル視をしているのか、妙なところで張り合ったりもしている。

 以前セイヤに関して、自分が一番に慕っていると張り合ったりしてたところを見だセイヤが一喝してからは、その件に関してはなりを潜めている。

 だが、いまでも妙な意地の張り合いは続いているようで、別の子供からは迷惑そうに告げ口をされたりしている。

 周りから見れば、さっさとくっつけといったところだろう。

 もっとも、そんなことを当人たちの前で言おうものなら、顔を真っ赤にして反論してくるのだが。

 

 このまま続けても話が進まないとわかっているセイヤは、サクッと話題を変えた。

「それで、先ほどアヒムにも言ったのですが、いよいよ傭兵団を作れるようになりました」

「おおっ! ついにか! 勿論あたいもいれてくれるんだよな?」

「当然ですよ。ですので、二人には仲間となるべく信用できる人を集めてほしいです。その中から四人を選ぼうと思います」

 セイヤの言葉に、アヒムが首を傾げた。

「四人? それだけか?」

 セイヤが傭兵団を作るとなれば、集まる者はもっと多くいるだろう。

 人数が多ければそれだけで傭兵団として格が上に見られるだけに、アヒムが疑問に思うのも当然だった。

 

 だがアヒムの疑問に、セイヤははっきりと頷いた。

「ええ。人数が多くなればそれだけ問題も多くなりますからね。最初のうちは少人数で行きます。その分、信用できる人だけを集めてほしいのです」

「なるほどね。信用できるというのは、裏切らないという意味かい?」

 そう聞いてきたボーナに、セイヤはコクリと頷いた。

「ええ。私が作る傭兵団は、いろいろな意味で特殊になりますから。簡単に他人に情報を渡すような者は入れられません」

 セイヤの言葉に、アヒムとボーナが納得の表情で頷いた。

 

 セイヤが小規模な傭兵団を作ろうとしているのは、単に傭兵としての名を上げるためだけではない。

 敢えて悪い言葉で言えば、入ってきた者たちを利用して、魔法を教え込もうとしているのだ。

 だからこそ、仲間以外に情報を漏らすような者は、初期のメンバーとして選べないのである。

 

 アヒムとボーナは、魔法のことはともかく、セイヤの身分に関しては何となく察している。

 勿論、セイヤが不可思議な力を使うことは知っているが、自分たちが使えるようになるなんてことは欠片も考えていない。

 それでも、セイヤの言葉に何かを感じるものがあったのか、それぞれ誰が良いのかと考え始めていた。

 

 その様子を見ていたセイヤは、苦笑しながら二人を止めた。

「今すぐというわけではありませんから、あとでゆっくり考えてください。それよりも、二人とも時間はありますか?」

「俺は問題ない」

「あたいも大丈夫」

 すぐにそう返してきたアヒムとボーナに、セイヤは一度頷いて、

「そうですか。でしたら、付き合って一緒に行ってほしい場所があります」

 セイヤがそう言うと、二人は一も二もなく頷いた。

 

 アヒムとボーナがセイヤと出会ってから数年たつが、当初から抱いていた尊敬の念は、目減りすることなく今でも抱き続けている。

 それどころか、ますます増えて行っているといってもいいだろう。

 なぜそんなことになっているのかは、アヒムとボーナにもよくわかっていない。

 ただ、この人(セイヤ)に着いて行けば大丈夫という、妙な安堵感だけは確信していた。

 また、アヒムとボーナは、お互いにそうだと分かっているからこそ、同族嫌悪ではないが、事あるごとにいがみ合っていたりする。

 それがいい方向に転がってくれれば、最強のコンビになるのではないかと、セイヤもそんなことを期待しているのである。

傍から見れば仲のいい二人ですw

セイヤのことに関しては、お互いに認め合っているからこそ、完全に喧嘩別れになることは無いですしね。

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