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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第1部4章
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(4)神様たち

 セイヤが文様について納得したところで、今度は老人が話に加わってきた。

「文様の役割については他にもいろいろあるが、それくらいでいいじゃろ。それよりも、いまはセイヤ君に与える文様についてじゃ」

「そうですね」

 老人の言葉にセルマが頷き、なぜかリーゼが右手を上げた。

「はいはーい。勿論、私のを選ぶよね!?」

 どういう理屈でそういうことになるのかは不明だが、リーゼの中ではすでにセイヤが自分の文様を選ぶと思っているらしい。

 だが、セイヤにはその前に疑問があった。

「……自分で選んでいいのでしょうか?」

 セイヤは、洗礼の儀で体のどこかに現れる文様を、自分で選んだという話など聞いたことが無かったのだ。

 

 そのセイヤの疑問に、老人が当然とばかりに頷いた。

「構わぬよ。本来であれば、ふたつ同時に授けることも可能なのじゃがのう。いまのセイヤ君の体だと、耐えきらぬかもしれぬからな」

「ごく稀に、成人の儀のときに渡している人もいるのだけれどね」

「ほとんどといっていいほど気付かないのよねー」

 老人の説明に補足するように、セルマとリーゼが付け加えて来た。

 

 セイヤが知る限りでは、文様が得られるのはあくまでも洗礼の儀であって、他の儀式で得られるなど聞いたことが無かった。

 そんなことを考えていたセイヤは、ふとあることを思いついた。

「もしかして、誕生の儀でも文様は得られるのですか?」

「うむ。そうじゃの。ただ、これも条件があって、子供の体で受け入れられるようになっておらぬと駄目じゃがな」

 セイヤの予想に同意するように、老人が頷きながらそう答えた。

 もっといえば、神の魔力を受け入れられる土壌が育っている必要がある、ということなのだが、実はセイヤはその条件を満たしていた。

 それでもセイヤの誕生の儀のときに文様を与えなかったのは、ただでさえ魔法という力を持って生まれているのに、さらに目立つようになっては駄目だろうという配慮の結果だった。

 

 その説明を聞いたセイヤは、目の前の神々にはバレバレだが、内心でホッとしつつ納得の表情になった。

「そういうことでしたか。確かにあの時点で頂いても困っていたでしょうね」

 転生者ということと、魔法という存在を明らかにしたことだけでも一部で大騒ぎだったのだ。

 その上で、五歳になった時点で文様を得られれば、どんなことになっていたのか想像もできない。

 セイヤは、目の前にいる神々に感謝しつつ、さらに続けた。

「それで、今回は文様を選べるということなのですが、どういうことなのか話を伺っても?」

「それは勿論じゃ」

 セイヤの疑問に、老人は頷きつつ話を始めた。

 

 そもそも文様というのは、生まれた土地の土地神のものが与えられることが普通だったのだ。

 ところが、いつしかその話がゆがめられて、国の守護神という存在が作り出されて、その守護神の文様を得ることが一番だという風潮になってしまった。

 勿論、どの神の文様でも得られれば一定の評価を得ることができるのだが、守護神以外の文様を得ても一段以上下に見られるのはどうしようもない。

 なぜそんなことになったのかといえば、元は文様の管理をしていた教会がその情報を独占してしまい、さらに悪いことに教会自体がその情報を失伝してしまっていた。

 神々の間でも、もう一度きちんと情報を伝えるべきだという意見も出たのだが、魔法自体が認識されていないこの世界で、正確な情報を与えてもしかたないといことで保留になったままなのだそうだ。

 それゆえに、ごく一部(・・・・)を除いては、文様の意味を知っている者はいないということになったのだ。

 

 一部の組織が情報を独占した結果、その情報自体が失われてしまうことなどよくあることだ。

 セイヤは納得の表情になった。

「はあ、なるほど。それで、私にはふたつの文様を得る資格があるというわけですか」

 ひとつはいまも国として存在しているリーゼラン王国の守護神の文様で、もうひとつが過去に国として存在していた土地神であるセルマイヤーの文様だ。

 どちらを選んでも一長一短があるため、セイヤ自身に選ばせることにしたということだった。

「ちなみに、セルマイヤーの文様ということは……」

 セイヤがちらりと視線を向けると、セルマがコクリと頷いた。

「そうね。私の文様になるわ」

「では、そちらで」

「早っ!? ちょっと、少しは悩みなさいよ!」

 セイヤが即答すると、リーゼが抗議の声を上げて来た。

 

 セイヤは、その予想通りの反応に笑みを浮かべつつ、首を左右に振った。

「この場合は、あまり悩んでも仕方ないと思いますので……」

「ふむ。理由を聞いてもいいかな?」

 老人の疑問に、セイヤは頷きつつ続けた。

「はい。といっても話は単純なのですが、私がもともとセルマイヤーの生まれだということと、国に取り込まれたくはないということでしょうか」

「むっ。やはりそうなるか」

 いずれセイヤは魔法の力のことを広めるつもりでいる。

 その上で、リーゼランの文様を持っていれば、それを理由に確実に取り込まれる未来が見える。

 もし文様が、従属神とされているセルマイヤーのものであれば、お茶を濁すことも可能だというのが、セイヤの考えだった。

 

 さらにそれだけではなく、セイヤにはもうひとつ重要なことがあった。

「それに……恐らくですが、生地の文様は、魔法にも大きな影響を与えるのでは?」

 そのセイヤの問いに、老人はにやりとした笑みを浮かべ、リーゼとセルマが驚いたような顔になっていた。

「ほほう。そこに気付くか」

「それはまあ、先ほどあれほどのヒントを頂きましたから。あくまでも予想でしたが、当たっていましたか」

「まあ、そういうことじゃな。……あいわかった。今回は(・・・)、セイヤ君に与える文様はセルマイヤーのものとしよう。セルマ、リーゼ、わかったな?」

 老人の言い回しに少しだけ気になったセイヤだったが、それを無視するように、セルマとリーゼは老人の言葉に頷いた。

 リーゼはセイヤの言葉にはあれだけ反発していたのに、老人の言葉にはこれだけ素直に頷いているだけで、老人の立ち位置がよくわかる光景だった。

 

 老人の言葉に頷いていたセルマが、なぜかつかつかとセイヤの元に近付いてきた。

「セイヤ、手を出してください」

 突然のセルマの言葉にセイヤは首をかしげたが、素直に右手を差し出した。

 するとセルマはその右手を手に取って、その甲に口づけをした。

「なっ!?」

「はい。これで文様が付きました」

 突然の行為に驚くセイヤに、セルマはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

 改めてセルマを見れば、さすがに女神だけあってその美しさはセイヤが知る女性の中でも群を抜いている。

 ちなみに、リーゼは美人というよりは、その背丈もあって可愛いというほうがあっている。

「はあ。ありがとうございます。ですが、そういうことをするときは、出来れば前もって教えていただけると……」

「善処します」

 セイヤの提案に、セルマは何とも言い難い答えを返してきた。

 大抵、この答えが返ってきたときは、守られないということをわかっているセイヤなのであった。

 

 予想外の展開にどぎまぎしていたセイヤだったが、これで終わりかと老人を見た。

 だが、その予想に反して老人は、さらに話を続けて来た。

「まだ、其方に話したいことがあっての。それは――――」

 続いて話された内容に、セイヤはまたしてもこれまでの常識を覆されるような思いを味わうことになる。

 しかも、今回は自分だけではなく、セルマイヤー家にとっても大変な内容であった。


 話を聞き終えたセイヤは、それをどう当主であるマグスに話そうかと頭を悩ませることになるのであった。

無事(?)セルマイヤーの文様を得たセイヤでした。

最後に老人から何を聞いたのかは、次回以降の話になります。


ちなみに、老人の名前がいつまで経っても出てこないのはわざとです。

聞かれても答えられないのでご了承くださいw

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