閑話 クリステルの思い
ま、間に合った。
突然ですが、本日二話更新になります。
次話はいつも通り20時更新です。
クリステルにとって、セイヤとの出会いは、驚きの一言だった。
何しろ、自分の持つ目を初対面で忌避するような感情をみせなかったのは、セイヤが初めてだったからだ。
ちなみに、家族はクリステルに物心がつく前に慣れてしまっていたので、カウントされていない。
さすがに、自分が生まれたばかりに頃に、家族がどういう感情を抱いていたなんてことは覚えていないのだ。
クリステルが気付いた時には、初対面の人間は、最初に自分の容姿に驚き、ついで嫌悪の感情を示すようになっていた。
あるいは、物心がつく前からすでにクリステルは気付いていたのかもしれない。
そんな感じだったので、いきなり目のことを褒めて来たセイヤは、クリステルにとっては初めての経験だったのだ。
そのときにはどうにか感情を現さずに済んだのだが、クリステルには、そのときの感じが非常に新鮮だった。
そして、エリーナに頼んでお茶会にセイヤをつい呼んでしまった。
後から冷静になって考えれば、あり得ないことなのだが、セイヤと直接話してみたいという思いの方が先に立ってしまった。
ただ、お茶会を後ろから見ていたネネがなにも言ってこなかったので、変に勘繰られるような対応をしたわけではない……はずだとクリステルは思っている。
さらには、屋敷ですれ違ったときに、隠していたはずの感情を読み取られてしまったことも驚いた。
まさか、ネネでさえ気づいていないことに、セイヤが気付くとは思わないだろう。
そのお陰で、クリステルの中では、セイヤの存在がさらに大きくなっていた。
といっても、いきなり恋心になったというわけではない。
……と、クリステルは考えていた。
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セルマイヤー領から戻ったクリステルは、早速父であるヘンリーに呼び出された。
「――ただいま戻りました、父上」
「ああ、無事でよかった」
この時代、いくら多くの護衛をつけているからといって、必ず無事に帰ってこれるという保証はない。
そう返してきたヘンリーの顔は、まぎれもなく安堵の表情が浮かんでいた。
家族にはお転婆で知られているクリステルは、それでも家族からはきちんと心配してもらえるような存在なのである。
一度は家族としての顔を見せたヘンリーだったが、すぐに当主としての顔に変わった。
「それで? セルマイヤー領はどうだった?」
娘のお願いをすぐに聞いてしまうような甘々のヘンリーだが、当主としての役目を忘れているわけではない。
クリステルをセルマイヤー領に行かせたのは、娘のお願いということもあるが、彼の領地の様子を見てきてもらうだめでもあったのだ。
「少なくとも私が通ってきたところは、治世が行き届いているようでした」
「ふむ」
「特に、フェイルのスラム街は、これまで私が見たことが無いものでした」
「……それほどだったか」
クリステルの言葉に、ヘンリーは唸るような声を上げた。
セルマイヤー領のスラム対策は、真面目に領地を経営している貴族には知らない者がいないほどなのだ。
ヘンリーは、領内の街をいろいろと見て歩いているクリステルが、実際にセルマイヤー領のスラムを見てどう感じるのかを知りたかったのだが、その答えは予想以上だった。
「いずれは、自分の目で直接見てみたいものだな」
直接口に出してそう言ったヘンリーだったが、それは中々難しいこともよくわかっている。
公爵家の当主として働いているヘンリーは、辺境に行けるほどの時間を作るのが、非常に難しいのである。
とりあえず聞きたいことを聞けたヘンリーは、真面目モードから一変して、親バカモードになった。
「ところで、セルマイヤー領で何かあったのかい?」
「えっ?」
唐突すぎるヘンリーの言葉に、クリステルは首を傾げた。
「いや、妙に嬉しそうな顔になっているようだけれど? お友達と遊べたのが楽しかったのかい?」
「え、ええ。そうですね」
何とか平静を装ったクリステルは、そう言いながら頷いた。
クリステルとしては表情に出しているつもりはまったくなかったのだが、ヘンリーにはばれていたようだった。
そんなクリステルに、ヘンリーは内心で首をかしげたが、それ以上は問わなかった。
ヘンリーは、自分がつつけばつつくほど、クリステルは意固地になっていることをよく知っているのだ。
「そうか。それは良かった。――戻るなり呼び出して済まなかったね。今夜はゆっくりと休むといい」
クリステルには笑顔を見せながらそう言ったヘンリーは、内心でネネをすぐに呼び出さなければと考えるのであった。
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領地に戻ったクリステルは、時折セイヤのことを思い出しつつ、いつも通りの時間を過ごしていた。
ただ、セイヤのことを思い出していたのは、恋心とかそういうものではなく、初対面の相手に嫌悪の表情を見せられるたびにあの時のことを思い出していただけだ。
――――と、クリステルは思っている。
それに、すぐに学園への入学を控えていたクリステルは、その準備に追われていたということもある。
そして、学園に入学したクリステルは、友人であるエリーナと久しぶりに対面をすることになった。
「エリーナ、お久しぶりですわね」
「クリステル、お久しぶりです」
久々の対面にお互いに喜びを分かち合ったふたりは、すぐにこれまでのことを話し始めた。
ただ、直接会うことはしていなかったとはいえ、手紙のやり取りは続いていた。
そのお陰で、二人は違和感なくやり取りを始めることができた。
一通り近況を話し終えたクリステルは、ふとニヤリとした表情を浮かべたエリーナの表情に気付いた。
「……何かありましたか? 妙に嬉しそうですが」
友人のその顔に何やら嫌な予感を覚えつつ、クリステルは警戒をしながらそう聞いた。
だが、その警戒は、次のエリーナの言葉で、あっさりと崩されることになる。
「私のことはこれでいいけれど、セイヤのことは話さなくてもいいのかしら?」
「っ!? な、なぜここであなたの弟のことが出てくるのでしょう?」
一瞬乱れた表情はすぐにいつも通りに戻したが、残念ながら目の前にいるエリーナには誤魔化すことができなかったようだった。
クリステルの返答に、ますます面白そうな表情を浮かべたエリーナは、
「そう? せっかく弟自慢をしようと思っていたのだけれど……クリステルが嫌なら止めておいた方がいいかしら?」
「え。い、いえ。仕方ありませんから、あなたの話を聞かせてください。貴方から聞く兄弟の話は、とても面白いですから」
どうにかそれらしい言い訳を考えたクリステルに、エリーナは内心で喜んでいた。
どうやら手紙を使っての自分の洗脳(もどき)は、失敗していなかったようだ、と。
このまま順調にセイヤのことをクリステルに刷り込んで行けば、中々面白そうなことになりそうだと、エリーナは考えているのだ。
目の前の(小悪魔の?)友人が、そんなことを考えているなんてことは露知らず、クリステルはエリーナから聞くセイヤ情報に、一喜一憂することになる。
そして、何かがあるたびにセイヤの話をしてくるエリーナに、クリステルはまったく気付かず、いい感じに刷り込まれていくのであった。
ド、ドウシテコウナッタ?
エリーナはもっとおしとやかなお姉様タイプを想像していたのですが、なぜか暴走をし始めてしまいましたw
ちなみに、エリーナが小悪魔モードになるのは、セイヤとクリステルに関することだけです。
…………タブン。
タイトル変えようかといまでも迷ってますw
別タイトル候補「小悪魔誕生」




