(11)賊退治(後編)
本日二話目。
ご注意ください。
大男が前に出てくることを確認したセイヤは、左手で懐からなにかを出すようなふりをしながら、そのまま真っすぐ手を伸ばして魔法を放った。
使った魔法は、小規模な爆発を伴ったもので、たったその一発だけで大男は右腕を吹き飛ばされて倒れた。
一応火の塊らしきものは見えていたのだが、魔法が無いこの世界では、セイヤがなにをしたのかもわからずに避けようとすることすらしなかったのだ。
「な、なんだ!? 何をしやがった!?」
「お、親分!?」
セイヤが持つ剣の攻撃圏内でもないのに突然倒れた大男を見て、仲間の山賊たちが恐慌状態に陥った。
そして、それを見逃すセイヤではない。
一応、夫婦に注意を払いつつ、手近な山賊に向かって駆けだした。
頭が倒されたことにより冷静さを失った山賊を始末するのは、さほど時間がかからなかった。
何人かが逃げ出そうと入り口に向かって走り出したが、そもそも入り口に通じている通路はふたりが横に並んで通るのがやっとで、複数人がデニルを囲むなんてこともできずに倒されていた。
残りの山賊たちはセイヤが倒したのだが、こちらは夫婦を使って人質にしようとする者も出ず、セイヤに順番に倒されていくだけだった。
人質になり得る足手まといがいる以上、時間を掛けてのんびりするわけにも行かなかったのだが、結果として半刻(三十分)もかからずに、山賊を全滅させることができたのである。
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「おーい。どんな感じだ?」
中での騒ぎが収まったのを確認したデニルが、先ほどまでセイヤが戦闘を行っていた広間にやってきた。
そして、そのときのセイヤといえば…………。
「おい? これはどういう状況だ?」
山賊らしき者たちは立っていないが、なぜかセイヤがしゃがみ込んで、夫婦のうちの夫らしき男になぜか慌てて肩を叩かれているという状況に、デニルが首を傾げた。
デニルが(目隠しをしながら)連れて来た子供を、辺りの山族たちを見えないようにしながら嬉しそうに抱き上げて、夫人が説明をした。
「私どももよくわからないのですが、ここにいる山賊を倒したあと、いきなりしゃがみ込んでブツブツ言い始めてしまったのです」
「あ~、なるほどな。よくわかった」
夫人の説明を聞いたデニルは、苦笑しながら頷いた。
色々な意味ではっちゃけてしまったセイヤが、今頃になって反省を始めていたことに気付いたのだ。
「おーい、セイヤ。反省するのは良いが、いまはここを片付けるぞ。いきなりゾンビなんかになられたらたまらんからな」
デニルがそう声を掛けると、セイヤがのろのろと立ち上がり、夫も慌てて山賊たちの処理を始めた。
山賊たちの体は洞窟の外に運び出して、まとめて火をつけて処理をした。
こうしておかないと、この世界の場合は、ゾンビなりスケルトンなりになってしまうのだ。
流石のその間の作業は、子供には見えないように夫人が別の場所で一緒に待機していた。
そうしてようやく洞窟内の探索を始めてみれば、山賊たちが中々に貯めこんでいることがわかった。
「参ったね。これは、さすがに一度に全部持っていくことは不可能か?」
「いえ。山賊たちが使っていた台車があります。これでどうにかなりませんか?」
デニルの言葉に、夫が反応して答えた。
その間セイヤといえば、黙々と山賊たちがため込んだお宝の整理をしていた。
それを見たデニルが、苦笑しながらセイヤに呼びかける。
「おい。いつまで落ち込んでいるんだ! 結果として良かったんだから、もう悩む必要はねーだろ?」
「はあ。それもそうなんですがね……」
「なんだよ? お前は、何に引っかかっているんだ?」
「いえね。初めて人を殺したのに、大したショックを受けていないのが、逆にショックで……」
その説明に、デニルは「あー」と納得した声を上げ、夫はセイヤの初めて発言に驚いていた。
見た目の年齢を考えればありえるのだが、どう考えても戦闘時のセイヤの対処の仕方は、初めてのものだとは思えなかったのだ。
セイヤの発言に少しだけ考える様子を見せたデニルは、
「まあ、それも含めて慣れるしかねえな。……楽しかったというわけではないんだろう?」
「そうですね。さすがにそれはありません」
「だったら、あまり気にしないことだな」
ありがたい師匠の忠告に頷きながら、セイヤは再び作業に没頭し始めるのであった。
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山賊たちの台車にお宝を積み込んだセイヤたちは、そのままアネッサたちのいる拠点の村まで向かうことにした。
その道中、デニルが不意に三人家族に向かってこんなことを言い出した。
「お前さん方も色々と大変だったが、これからもっと大変になりそうだな」
「いえ、ちょっと待ってください。いままで以上に大変なこととは何でしょうか?」
デニルの言葉に、夫――改め、フラビオが僅かに顔を引きつらせつつ、セイヤとデニルを交互に見た。
山賊たちにつかまっていたため憔悴しきっていたが、さすがに一家のことが掛かっているため受け流せなかったようだ。
デニルは肩をすくめて、未だに意気消沈しながら歩いているセイヤを見ながら、
「いや、普通に考えて、あいつがあっさりと山賊を討伐できたのがおかしいと思うだろ?」
「え、ああ……そういえば、そうですね」
フラビオは、助けてもらったという感謝の念ですっかり忘れていたが、デニルの言う通りセイヤの存在は普通ではない。
そもそも、登場の仕方からしておかしかったのだ。いきなり人が現れたように見えたのだから、なにかあると考えるのが自然だろう。
そして、デニルの説明で、裏があるのだとわかった。
さりとて、助けてもらった恩を忘れて、このままお別れするわけにもいかない。
そこまで考えたフラビオは、大きくため息をついた。
「できれば厄介事は避けたいのですが……そうもいかないでしょうね」
「ハッハッ。まあ、多少脅したが、あまり難しく考えるな。それに、受け止め方によっちゃあ、商人であるお前さんにとっては、チャンスかもしれんぞ?」
行商人だったフラビオは、新しい拠点とする街に移住する際に、家族ごと山賊に襲われたのだ。
「チャンス……ですか」
「ああ、そうだ。だがまあ、その話はここまでだな。あとは、向こうに付いてからだ」
フラビオとしては、厄介なことに直面する前に、出来る限り情報を仕入れておきたいところだが、デニルにそう言われてしまった以上、どうすることもできない。
見た目は子供のセイヤから話を聞くことも一瞬考えたが、そもそも助けてもらった恩人なので、おかしな利用はしたくないと考えている。
なにより、そんなことをした際に、妻であるアラナに怒られることになるのが目に見えているので、それがなによりも怖かった。
それでなくとも山賊につかまるという体験をさせてしまったのに、これ以上離婚の危機になるようなことはしたくないのである。
山賊退治を終えて安堵の空気に包まれた一行は、こんな感じで妙な緊張感に包まれつつアネッサが待つ村まで、途中でモンスターに襲われることもなく無事に移動を終えた。
そして、そのアネッサと対面したフラビオとアラナは、セイヤが辺境伯の実子であることに驚くことになる。
さらに、救出の際にセイヤのいろいろを見てしまったがために、フェイルの街まで連れて行かれ、辺境伯の館で(口止めを含めて)様々な話をすることになるのであった。
これで賊退治は終わりになります。
セイヤにとっての初めての人殺しでした。
ある意味定番のネタといえるでしょうか?w
※次話は閑話で明日の8時更新になります。




