(10)賊退治(中編)
本日一話目。
山賊の拠点で見張りが出ているのは予測済みだったが、子供までいることは予想外だった。
セイヤは、仲間の山賊が洞窟から出てこないか確認できる場所で、その子供から出来る限りの情報を得ることにした。
怯えている子供を相手に情報を得るのは多少の時間がかかったが、どうにか有益な情報を手に入れることができた。
得た情報の中で予想通りだったのは、事前情報がほとんど正しかったことだ。
勿論、子供が見ることができた範囲でしかないので、間違っている可能性もある。
ただし、山賊たちは子供にはほとんど注意を払っていなかったのか、先ほどの「遊び」で使う以外は、意外と自由にさせていたらしい。
そのお陰で、セイヤたちにとっては有益な情報を得ることができたのだから、(山賊たちにとっては)なにが災いになるのか分からない。
子供から得た情報で一番有益だったものは、出入り口がひとつしかないというものだ。
複数の出入り口があって、別の口から逃げられてしまっては、討伐失敗になってしまう。
それが防げるだけでも十分、動きやすいのだ。
もしかすると子供が知らない、もしくは騙されているということも考えられるが、これについてはセイヤもデニルも気にしないことにした。
可能性を考えすぎて動けなくなっても意味がないからだ。
逆に得た情報の中でセイヤたちに不利な要素となるのが、子供の両親が捕まったままになっているということだろう。
さすがにその情報を聞いてしまえば見捨てるわけにもいかず、さりとて山賊たちがその両親を楯にすることは目に見えている。
「――それで? どうするんだ?」
時間を掛けずに、子供から手早く情報を得たデニルは、セイヤにそう聞いてきた。
人質がいることを想定していなかったため、これからは臨機応変に動かなければいけなくなる。
だが、デニルに問われたセイヤは、特に表情を変えることなく、淡々と答えた。
「どうもこうもありません。まずは人質を助けるように動きます。ただ、師匠は予定通り入り口を抑えてもらえばいいです。後は私が動きます」
「いや、助けるって、一体どうやっ……!?」
慌てて問いかけたデニルだったが、目の前にいたはずのセイヤの姿が見えなくなったところで、言葉を止めて驚いた。
隣で震えていたはずの子供も、それを見て目を丸くしている。
「――こういうことです。まずは、人質の安全を確保してから、予定通りに動きます。それでは」
「それでは……って、おい!」
デニルはセイヤを止めようと手を伸ばしたが、そこにいたはずのセイヤはすでにいなかった。
それどころか、洞窟の入り口に向かってセイヤの気配が近付いて行くことがわかった。
「ったく! 一体、どうなっているんだよ!?」
思わずそう悪態をついてしまったが、残念ながらその答えを持っている者は、危険地帯へと向かっているのであった。
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子供を助けたことで冷静になっているつもりのセイヤだが、実際はそうではない。
なにしろ、後先考えずにデニルの前で、言い訳の効かない魔法を使っているのだ。
ただ、それでも山賊討伐に関しては、冷静に状況を分析しているという傍から見ればわけのわからない状態になっている。
もっとも、それが現状の打破に不利に働いているわけではないので、今のところは大した問題ではない。
問題があるとすれば、あとからどうデニル(+α)に言い訳するかということだろう。
いまのところそのことに気付いていないセイヤは、姿を消したまま時折山賊たちとすれ違いながら洞窟の奥へと進んで行った。
いつか使うかと開発した姿消しの魔法だが、まさかこんな状況で初めての実戦になるとは考えてもいなかった。
それでも、面白いぐらいに山賊たちには気づかれずに、目的地に到着することができた。
洞窟全体に自然に発光している何かがあるせいなのか、暗くて迷うということはなかった。
子供の夫婦がいる場所は、洞窟の奥まった場所のちょっとした小部屋のような広さがあるところだ。
自然にできている洞窟を使っているので、格子なんてものは付いていない。
部屋の入り口に山賊のひとりが付いているだけだった。
セイヤは、見張り役の山賊に気付かれないまま囚われた夫婦のいる部屋に入った。
そして、まずは夫のほうに近付いて行って、見張り役に気付かれないように話しかけた。
「――静かに聞いてください。これから山賊たちを倒します。貴方たちは、絶対にこの場を動かないように。変に動いた場合は、命の保障はできません。私が姿を現したときには騒ぎになっていると思いますので、奥様にも説明をお願いします」
最初の一言目で驚いて声を上げようとした夫の口を軽く塞ぎながら、セイヤはそう簡単に説明した。
それを理解できたのか、夫は口をふさがれたままコクコクと頷いた。
夫の様子を確認して大丈夫だと判断したセイヤは、姿を現して、速攻で見張り役の山賊を倒した。
入り口にいるのはひとりだったが、夫婦の様子を見ていた者はいたようで、すぐに仲間に知らせるように大声を上げながら近くにあった武器を手に取った。
「何者だ、お前はっ!?」
最初に異変に気付いた山賊は、そう言いながら武器を振りかざしながら不用意にセイヤに攻撃してきた。
そもそもセイヤの見た目は、だたのひとりの子供に過ぎない。
いきなり目の前に現れていることから異常事態だということはわかっていても、セイヤ本人が強いなんてことは、まったく考えてもいなかったのだ。
セイヤは、その間抜けな山賊をあっさりと剣で切り倒す。
さすがにそれを見れば、数人の山賊はセイヤの実力が見た目とは違っていることに気が付いたようだった。
「おい! 不用意に近付くな!」
そう警告を出したが、すでにそのときにはふたりの山賊が近付いてきており、それをセイヤはあっさりと倒してしまった。
その後すぐに、セイヤは素早く残りの山賊が十人いることを確認した。
子供を助ける際に倒した人数を合わせれば、全部で十五人おり、情報通りの数だった。
セイヤが山賊の数を確認している間、ちょっとしたにらみ合いになった。
山賊としては、あっさりと仲間の三人を倒したセイヤの実力を計りかねているのだ。
足手まといになりそうな夫婦は、閉じ込めていた部屋が逆に仇になって、セイヤの邪魔にならないように黙っている。
本当ならば子供のこととかも聞きたいだろうに、その心意気にセイヤは感謝して、同時に夫婦に子供のことを伝えていなかったことを思い出した。
「ああ、そうだ、人質のご夫婦さん。貴方たちの子供は、私の仲間がしっかり確保しているので、ご安心ください」
残念ながら山賊たちを注視していたセイヤは見ることができなかったが、その言葉を聞いた夫婦はあからさまにホッとした表情を浮かべた。
逆にその言葉を聞いた山賊たちは、子供を当てにすることができないと知って、顔をゆがめた。
洞窟の出入り口に向かって数名の山賊が走って行ったが、デニルの腕を信用しているセイヤは気にも留めなかった。
その状態を嫌ったのか、あるいはセイヤにいいように場の雰囲気を作られているのが気に食わなかったのか、一際体格の大きな山賊がセイヤの前に出て来た。
「随分と好き勝手に暴れてくれるな」
それを見たセイヤは、山賊たちの要するからこの男が山賊たちの頭だと確信して、同時に内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
これで、どうにか対処が可能だと安心したのである。
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