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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第1部2章
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(5)初の実戦

 セイヤは、デニルに連れられて街の外へと出ていた。

 セイヤがこの世界で生まれてから街の外に出るのは、初めてのこととなる。

 この世界では、街の子供たちが外に出ることは滅多にないのだ。

 それは、街の外にはモンスターがいるということもあるが、そもそも街の外に出る用事が無いためだ。

 敢えて外に出るような子供は、猟師や傭兵の親を持つ子が、手伝いで出るくらいである。

 

 ちなみに、この世界においての街の外というのは、ふたつある。

 農地と住居がある場所は完全に区切られていて、大きな街だとそこに城壁がある。

 ただ、それだと農地がモンスターや害獣などにやられてしまうので、さらにその外側にも壁が存在しているのだ。

 とはいっても、農地を守るための壁は、内側の壁よりも簡易的にできているのが常である。

 比較的大きな街であるフェイルの街もその法則からは外れておらず、外側の壁は多少頑丈に造られている木の柵が立てられている程度だ。

 それでも、ある程度はモンスターの襲撃も防ぐことができるので、町を語る上では欠かせない物になっている。

 ついでにいえば、町に入るための検問は、内側の城壁に用意されている。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 セイヤは、少し前を歩いているデニルの顔を見ながらどうするべきかと考えていた。

 デニルの顔には「不満」と思いっきり書かれていた。

 そうなっている原因にはセイヤも見当がついているので、直接口にすることはしない。

 いくらアネッサの実の息子といえど――いや、だからこそ、デニルに「母上の頼みは断れないのですね」とは言えない。

 その理由も何となく見当が付いている、というよりも、デニルの態度がとても分かりやすいので、すでに確信に至っている。

 とはいえ、それについては、それこそセイヤが口にするわけにはいかない。

 さすがに、恋に破れた男の想い人の実の息子が、そのことを口にするのは駄目だろうという分別はある。

 もし、そのことをからかうにしても、もっと仲良くなってからのことだ。

 

 そんなわけで、セイヤは気まずい思いをしているわけだが、さすがにこのままの状態で一緒にいるのも精神的に良いとは思えない。

 そのため、セイヤは意を決して、デニルに話しかけることにした。

「あの、師匠?」

「だから、誰が、誰の師匠だってんだ!」

 セイヤの言葉に、反射的にデニルが答えた。

 アネッサに紹介されたセイヤは、最初からデニルのことをそう呼んでいるのだが、デニルは頑なに認めようとはしないのだ。

 それがわかっていて、半分からからうように言っているセイヤもセイヤなのだが。

 

 そんなことよりも、いまのセイヤにとっては重要なことがある。

「あちらの方に、ライトボアが三頭いますが、倒さないのでしょうか?」

 セイヤがあちらと指すと、デニルが訝し気な表情になった。

 デニルが確認できる範囲には、ライトボアがいるようには見えなかったのだ。

 ただの子供の戯言として処理をしてもいいが、アネッサから依頼を受けたときに彼女の顔を思い出したデニルは、すぐにその考えを振り払った。

 あれは、自分に隠し事をしていたずらを仕掛けているときと同じ顔だった。

 

 勿論、セイヤは適当なことを言っているわけではない。

 神から貰った別世界で魔法の訓練をすると同時に、新しい魔法も開発をしていた。

 そのうちのひとつに、自分の周囲にいるモンスターを察知するものもあったのだ。

 具体的には、魔力を薄く広げていき、異物がある場合には魔力が帰ってくるというものだ。

 ただ、それだと他の自然物も反応するので、モンスターだけに感知するように、いろいろと工夫する必要があった。

 そうした紆余曲折を経て、ようやく実際にお披露目になったのである。

 

 セイヤの顔を見ながらデニルは少しだけ考えてから問いかけた。

「……俺にはわからないが、あっちにいるんだな?」

 本当にライトボアがいるとすれば、駆け出しの傭兵が相手をするにはちょうどいい訓練になる。

 もっとも、デニルが見つけていない時点でライトボアを発見する能力がある者を、駆け出しと言っていいかどうかは微妙なところだが。

「はい。間違いないと思います」

 セイヤがはっきりとそう言いながら頷くのを見て、デニルはすぐに決断をした。

「わかった。そっちへ行ってみよう」

 たとえそれが少年セイヤの嘘だったとしても、それはそれでいい経験になる。

 ただ、はっきりと指を指しているセイヤの顔は、とても傭兵になりたての目立ちたがり屋には見えなかった。

 それにデニルの脳裏には、先ほどからアネッサの顔がちらついている。

 どうせ時間はあるのだから、確認するくらいは良いだろうと判断したのだ。

 

 

 周囲の警戒をしながらセイヤが差した方向に進んでいたデニルだったが、さほども経たずに思わず小声で呟いていた。

「おいおい。嘘だろう」

 デニルの知覚にもライトボアが引っかかったことによって、セイヤが言っていたことが本当だったということがわかったのだ。

 デニルは、ライトボアに察知されないように、セイヤを見た。

「……どうやって見つけたんだ?」

 少なくともセイヤが言い出した時点では、デニルにはライトボアがいるとは分からなかった。

 それに、あの時の顔をみれば、ただでたらめな場所を指したのではないこともわかっている。

 だからこそ、デニルには不思議だったのだ。

 

 そんなデニルに、セイヤはわざとらしくにへらと笑みを浮かべた。

「何となく、です?」

「何でこっちに聞いてくるんだよ。……まあいい」

 セイヤの顔を見て、まともに答えを返してくるとは思えないとデニルは判断した。

 それに、自分が持つ能力を隠すのは、傭兵にとってはよくあることだ。

 なぜならそれが、傭兵にとっては飯の種になるからである。

 

 それよりも今は、認識できる場所にライトボアが三頭いることの方が重要だ。

「三頭は駆け出しにはちと多いと思うが、まずはお前ひとりでやってみろ。危ないと思えば、俺が助けに入る。……あいつらは頭が悪いから、逃げ出すこともないだろう」

「はい」

 デニルの指示に、セイヤは気負いうことなく短く答えて頷いた。

 それを見たデニルは、内心で感嘆のため息をついていた。

 大抵、駆け出しの傭兵が初戦を戦うときは、気負いでガチガチになっているか、わざとらしく強がって見せるものだ。

 ところが、目の前の子供にはそれが一切ない。

 モンスターとの戦闘を幾度も繰り返してきたかのように、自然な様子だった。

「よし。じゃあ、行け」

 デニルがそう短く指示を出すと、セイヤは獲物に向かって駆けだしていった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「――――おいおい。とんでもねえな」

 少し離れた場所でセイヤの戦いぶりを見ていたデニルは、思わずそう呟いていた。

 最初は、すぐに手助けできる位置にいたのだが、その必要はないと判断して、逆に邪魔にならない場所まで移動したのだ。

 セイヤの戦いぶりは、一流かといわれればそうではないと即答できるものだった。

 そもそも七才の子供に、一流の戦いを求めるほうが間違っている。

 そうではなく、たった七才の少年が、三頭のライトボアを相手に、余裕をもって対応できることがすでに異常なのだ。

 そして、剣を使ってライトボアに挑むその姿は、どこか少年の実の母親を彷彿とさせるものだった。

「……冗談でも、嫌がらせでもなく、本気だったのか」

 デニルは、対面したときのアネッサの顔を思い出しながら、セイヤの戦いを邪魔しないようにそうつぶやくのであった。

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