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異世界で魔法を覚えて広めよう  作者: 早秋
第3部第2章
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(3)プルホヴァー家の次男

 クリステルが教室に迎えに来て以降、彼女は毎日のように来るようになっていた。

 当初はどういうことだと騒いでいた学生たちも、数日のうちには大人しくなった。

 それは、ほぼ同時期にセイヤとクリステルの婚約が、正式に発表されたことと無関係ではない。

 しかも王への確認も済んでいるとなれば、普通であれば下手に手を出すことを控えるのは当然だ。

 セイヤとクリステルは、それぞれが当主になるのは継承順位が低いが、公爵家と辺境伯家の結びつきに歓迎する声のほうが多いのも確かだった。

 勿論その中には、セイヤの技術が公爵家に流れるという期待があるのも確かだろう。

 もっとも、当人たちもそうだが、両家の親はあまりその辺りのことを期待していないのは、世間とのギャップがある。

 とはいえ、それが知られるのは、まだ当分先のことになるはずだ。

 

 そうした周辺の事情はともかくとして、セイヤはセイヤで別に考えていることがあった。

「――というわけで、周囲にも十分浸透したと思うので、カイン様にも内気法を教えようと思います」

「それは嬉しいのだが、本当にいいのか? それから、二人が正式に結婚すれば、義兄になるのだから様はいらないぞ?」

 そう言いながらセイヤの前でカカと笑ったのは、クリステルの兄であるカインだった。

 カインは、第一騎士団に所属している騎士で、クリステルからみれば二番目の兄にある。


 ちなみに、長兄はアベルという名で、普段は代官として領地に詰めているので、セイヤは直接会ったことはない。

 というよりも、クリステルの兄弟に会うのは、カインが初めてだったりする。

 これまでは、あくまでも内々での話ということで表に出すことが出来なかったために、直接の交流も控えていたのだ。

 さらにいえば、プルホヴァー家当主であるヘンリーとは、一昨日に会っている。

 その際に、セイヤからカインに魔法を教えると約束したのだ。

 

 様はいらないと言ってきたカインに、セイヤは頷きつつより重要な問いに答えることにした。

「ええ。構いませんよ。本当であれば、もっと自由に教えたいのですが、状況が許してくれませんから」

「むっ。それは、確かにそうだな」

 筋骨隆々という言葉が似合うカインだが、クリステルの兄だけあって頭が悪いわけではない。

 当然、セイヤが置かれている状況もきちんと把握しているのだ。

 そのため、セイヤが言いたいこともきちんと理解している。

 

 少しだけ顔を引き攣らせているカインに、セイヤはもう一度頷いてから言った。

「せっかくなので、カイン義兄上には、騎士団で矢面に立ってもらおうかと」

「ハッハッハ。随分とはっきり言う奴だな」

 きっぱりと言い切ったセイヤに、カインは逆に気に入ったと言わんばかりに、大声で笑ってからそう言った。

 カインは、変に裏でこそこそと計画を立てられるよりは、はっきりといわれた方が好ましいと考える性質なのだ。

 セイヤは、そうした情報をクリステルから仕入れたうえで、こうして話をしているのである。

 

 婚約が発表された直後に、セイヤはクリステルにプルホヴァー家の誰に魔法を教えると良いのかを相談していた。

 そして、様々な事情を鑑みた結果、カインが良いだろうという結論に落ち着き、今に至っているというわけだ。

 騎士団に所属しているカインに教えれば、セイヤが言った通りに矢面に立ってもらうことが出来る。

 さらに、セイヤにとっては、近しいものに教えることによって、技術を独占するつもりはないということを周囲に知らせる意味もある。

 これによってまた周囲が騒がしくなるかもしれないが、それは仕方のないことだとセイヤは受け入れている。

 

 そうした諸々の事情をわかった上で、カインもこの場に来ていた。

「まあ、確かに必要なことだからな。俺も自分のために利用させてもらうさ」

「はい。存分にそうしてください。利用するのはお互い様ですから」

 カインがセイヤから魔法を教わったとなれば、自身の立場を作るためには絶好の餌とすることができる。

 結局のところ、互いに利用できるとわかっているからこそ、カインはセイヤの言い分を受け入れているのだ。

 

 

 セイヤとカインがお互いに笑顔になったところで、ここがチャンスとばかりに話に加わって来た者がいた。

「あの~。カイン様は良いのですが、僕らはなぜここに呼ばれたのでしょうか?」

 恐る恐るという様子でそう聞いてきたのは、キティの隣に立っているイアンだった。

 ちなみに、元気娘のキティは、同じ場にいるのが公爵家の人間ということで、いつもの様子は完全になりをひそめている。

 

 答えを聞きたいけれど、聞きたくないという顔になっているイアンに、セイヤがわざとらしい笑みを浮かべた。

「それは勿論、お二人にも魔法を覚えてもらうためですよ。頑張ってくださいね」

 最後の駄目押しに、何をどういっても逃れられないとわかったのか、イアンが大きくため息をついた。

 逆に、魔法を教えてもらえるとわかったキティが、少しばかり復活したようで、目を輝かせていた。

「ホント!? 私にも教えてもらえるの?」

「ええ。そのために来てもらいましたからね」

 自分の欲求に素直に感情を表したキティに、セイヤはコクリと頷きながら答えた。

 

 一方で、セイヤの思惑を理解しているイアンは、げんなりとした表情になっていた。

 頭が働く彼には、セイヤから魔法を教わるメリットもわかっているが、それ以上にこれから来る受難も想像できているのだろう。

「イアン、そんな顔をしないでください。せっかくですから、貴方もこれを利用すると考えればいいのです。それに、この件に関しては、私の家の名前を出しても構いませんよ」

「ああ、それは我が家もそうだな。父上も許可するだろう」

 セイヤの言葉に、カインも乗って来た。

 

 セイヤから直接指導を受けたものとなれば、それだけ二人の価値は上がるので、身分の上で保護することなど公爵家にとっては大した問題ではないのだ。

 むしろ、セイヤのためになると思えば、その程度のことは安いものである。

 もっとも、辺境伯家と公爵家からのお墨付きを得ることになったイアンは、別の意味で顔を引き攣らせていた。

 一男爵家の次男である自分が、そんなものを持たされることなんてことは、少なくとも学園に入る前は全く考えていなかった。

 それが、とんとん拍子にここまで来たのだから、イアンでなくとも腰が引けるのは当然だろう。

 

 顔を引き攣らせているイアンに、それまで黙って話を聞いていたエリーナとクリステルがフォローをしてきた。

「もし相手が身分を使って強弁してくるのであれば、まずは私の名前を出しなさい。それでもだめなら家の名前を出せばいいのよ」

「そうですね。それに、危ないと思ったなら、生徒会室なりに逃げ込んで来ればいいでしょうし」

 キティとイアンの身に何かがあるとすれば、大体が学園か寮にいるときになる。

 それは、生徒会長と副会長であるクリステルとエリーナの名を出せば、大体は防げるだろう。

 勿論、それでも馬鹿な真似をする者がいないとは限らないが、それこそ公爵家と辺境伯家の名前を使えばいいのだ。

 

 まだ顔が固いままのイアンに、セイヤが続けた。

「どちらにせよ、私と知り合い(友人)というだけで、おかしな真似をする者は出ていますよ。それでしたら最初からきちんと魔法を教わった方がいいのではありませんか?」

「そうだよ! せっかくのチャンスなんだもん! 教わろうよ!」

 セイヤの言葉を聞いてもまだ固かったイアンだったが、完全にやる気になっているキティを見て、大きくため息をついた。

 キティがこうなってしまっては、どう頑張っても巻き込まれるとこれまでの経験からイアンは十分によく理解しているのである。

お兄ちゃん登場!

筋骨隆々タイプが出てきましたよ。(需要があるかはわかりませんがw)


そして、相変わらず落ちに使われるキティとイアン。

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