4 避難するみたいです。
「すみませんすみませんすみません」
自分の吐瀉物をふき取りながら女性は謝罪を繰り返している。
「いえ、気にしなくていいですよ」
できるだけ怖がらせないように優しく声をかける。
「ほんとですか?」
「はい、とりあえずこの話は安全なところでしましょう」
「わかりましたぁ」
彼女は立ち上がって服装を直すと、
「助けていただき、ありがとうございます」
その真っ直ぐな言葉に僕はまぶしいものを見たかのように顔を逸らす。助けるときは気づかなかったが、よく見ると彼女は結構かわいいと思う。低めの身長、短めの黒髪とクリッとした鳶色の瞳、庇護欲をそそられる見た目だ。
そんな彼女の笑顔を見て少し胸が暖かくなる。
「私の名前は桂愛梨です。よろしければ名前を教えていただけませんか?」
「僕は葉暮十影、羽是高校一年です」
「え!、是高なの?あ!、すみません」
自分の口調が崩れていることに気付いた桂さんはあわてて謝る。ちなみに是高とは羽是高校の略だ。
「あー、もう面倒くさいから敬語やめて話そうか」
煩わしくなった僕は普通に話すよう桂に促す。
「そうですね、じゃなくてそうだね。よろしくね葉暮クン」
とりあえず自己紹介を終えたところで安全な場所を探すーーーーー、
「その前に」
「どうしたの?」
「いやこれを取っておこうと思ってね」
僕は拳くらいの大きさの光る玉を指差す。
「それは何なの?」
「おそらくこのゴブリ、子鬼の力の元じゃないかと思ってる」
光球を握ると僕の身体にしみこむようにして消えていく。
「わーすごい」
桂さんは子供みたいに子供みたいに目を輝かせている、子供だが。
「んんっ、じゃあとりあえず学校を目指して余裕があれば救助するということでいいかな?」
わざとらしく咳払いをして桂さんの意識を戻してから今後の方針を伝える
「うん、わかったよ」
心地良い返事を確認してから僕は歩み始める。
「誰かぁ助けてくれぇ」
早速の救助要請に僕は袖を捲りながら気合を入れる。僕は家に押し潰されそうになっている男性に声をかける。
「少し待っていてください、すぐ助けますから」
「うぅ、本当か?すまねえ」
「桂さん、僕が柱を支えてるから、瓦礫を上から取り除いて」
男性に重く圧し掛かっている柱を支える。この柱を退かすには僕の力ではまだ足りないみたいだ。
「任せて」
桂さんの頑張りによってわずか10分ほどで瓦礫がなくなり柱が軽くなったところで柱をゆっくり持ち上げる。
「は、早く」
「マジか、坊主本当にすげぇな」
若干禿げた男性の褒め言葉に少し照れてしまう。
「取り敢えず避難しましょう」
「避難って、どこにだ?」
「僕らは羽是高校ならばある程度の設備が整っていると思っています」
「それなら俺もついていくぜ」
確かにある程度の人数がいたほうができることは多い。
「わかりました、たくさん手伝ってもらいますからね」
「おうよ」
「よろしくお願いします」
僕らは学校を目指した。
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「やっと着いたー」
「ほんと疲れたよ」
桂さんの気だるげな声に僕も同じように返す
ここまで3時間ほどかかった。普通は30分ほどの距離だが途中で数匹のゴブリンと攻防を繰り広げたり、道を塞ぐ瓦礫を取り除いたり、火事の家から子供を救出したりした。ちなみにゴブリンはすべて僕が倒した。まだ他の人にはきつそうだからだ。
途中助けた人を全員連れてきたので今では大体10人程の大所帯になっている。
そして今着いた学校は見たところ誰もいないみたいだ。
「皆、今から学校で使えそうなものを持って3階の3-Ⅽ教室に来て」
「「「おおーーーーーー」」」
皆の控えめの声が真夜中の学校に響く。なぜ3ーⅭ教室にしたのかというとその隣が警備室だからだ。
「誰もいないな」
一人学校の中を歩く誰にも見られていないことを確認してからトイレに入る。そこで用を足さずに壁に向き直る。足は肩幅に開き、拳を強く握りこむ。
「ふんっ」
バン、という破裂音と共に拳を叩きつけられた壁には空洞ができた。
「これ若干人間やめてないかな」
この怪力の原因はおそらくゴブリンから吸収した光る玉のせいだと思う。
「皆にもこうなってもらわないとね」
僕はどうやってみんなに人間をやめてもらおうかと黒い笑みを浮かべた。
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