2-2村での生活(1)
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村は木を斜めに組んだ柵で囲まれていて、所々に出入り口用として可動式の柵が設けられていた。出入り口は開けっぱなしになっていた。昼間は開けたままにしておくのだろう。
「すみません、どこか泊まれる場所は有りませんか?」
良介は村に入ってすぐのところで畑仕事をしている男性に声をかけた。
「旅人さんかい? それなら村長に挨拶しに行くとうわぁ!」
農夫は作業を続けながら話していたが、一段落ついたのか、手を止め良介の方に向き直る。そして腰を抜かした。
「あ、あ、あんた、それどうしたんだ! 狼担いでいるし、血だらけじゃないか」
「これですか? ここに来る途中で襲われたんですけど、何とか倒せました。捌き方とか知らないんでこのまま持って来たんですが、まずかったですか? あ、あとこの血全部返り血ですよ」
「そ、そうか。それが死んでいて、あんたが無事なら良いんだが……。とりあえず村長に挨拶に行くと良い。この村に宿泊施設なんてものはないからな。案内しよう」
「ありがとうございます」
村で一番大きな建物の前まで案内される。一番大きいと言っても、決して大きくない良介の実家と比べても少し大きいかなといったくらいで驚くようなものでもない。
正直良介は、一人で来れないでもないなと思ったが、この格好で一人で村を歩きまわったら村人にいらぬ警戒を与えてしまうかもしれないと、考え直した。
「村長ー! 村長いますかー」
案内してくれた農夫が村長宅の戸をノックし、村長に呼び掛ける。確かに大声で声をかければどこにいても届きそうだ。
ガチャリという音とともに村長が顔を出す。
「ダーレンではないか。何の……、用事はこちらじゃな」
案内してくれた農夫、ダーレンがはいと頷くと、村長はねめつけるように良介の方を見る。ダーレンのように血や狼に驚かないところは流石村長と言ったところだろうか。
村長の表情がふっと柔らかくなる。
「わが村にようこそ、旅の人。私はこの村の村長を務めるザンビア=サッフォーと申します」
「あ、どうも。浅井良介です」
よろしくとと手を差し出された。良介は狼を担ぐ手を左手だけにし、手のひらをぬぐって握手を受ける。
「立ち話も何じゃし、入りなさい。中で話を聞こう。血のついた服のままでは気持ち悪いじゃろ、服を用意させるから着替えなさい。血だけでなく、その服自体も目立つからの」
「えっと、これはどうしましょう」
「村の猟師に任せると良い。ダーレン、すまぬが手配してもらえるか」
狼を下ろし、ダーレンに任せる。ダーレンは恐る恐るといった様子で広場の方へと担いで行った。
良介が中へ入るとまず水場へと案内される。たらいに張った水と手ぬぐい、この世界の服が用意されていた。
着替えを済ませて応接間へ行くと、村長はすでにテーブルについており、向かいの席を勧められる。
「さて、リョースケ殿は何故このような何もない村へお越しになられたのか?」
急に村長の眼光が鋭くなった。表情は柔和のままで、長年村をまとめてきた貫禄と、嘘は許さぬという強い意志を感じる。
「何故ということはありませんが、師匠に世界を見て回って来いと言われまして」
問われたときに戸惑わないようにあらかじめ考えておいた「設定」を、村長をまっすぐ見返しながら話していく。
「ご存知ですか? この先の森の奥にアーノルドという元宮廷魔導士が暮らしているのですが、その人に、森に放置されているところを保護されまして、それ以来そこで暮らしていたのです」
「ほう! ではリョースケ殿はアーノルド様の弟子ということか」
良介の言葉を遮ってまで食いついてくる村長。その目は興味津々といったもので、警戒の鋭い眼光は消え去っていた。
「はい。それで、師匠に魔術の修行には見聞を広めることも大事だと言われまして、今日出てきたばかりなんです。ただ、少し困ったことが有りまして」
「ほう、なんじゃ?」
村長は身を乗り出している。完全に良介のペースだ。尤も、アーノルドにある程度の指南を受けてはいたのだから当然と言えば当然なのだが。
「森に籠っておりましたので、恥ずかしながら世俗や常識に疎いのです。もしよろしければしばらくこちらで滞在させていただきたいのですが、だめでしょうか?」
良介の提案に、村長は乗り出した身を正し、眼光も再度鋭く変わる。
「ふむ。滞在するのは構わんが、長期となると働いてもらうことになるが、それでも良いか?」
眼鏡にかなったのか、表情が緩み、滞在は良介次第だと言ってきた。
「はい! できることはしますし、できないことはなるべくできるようになります」
「その意気やよし! 流石はアーノルド様に認められるだけのことは有る。住むところは二階に空き部屋があるからそこを使うとよい」
「あなた、ディアスさんが見えてますよ。捌いた狼を持って来たと言ってましたが……。あら、あの子が使ってた服を出して来いなんていうから何事かと思えば、こういうことだったのね。はじめまして、私はユーリア=サッフォー。この人の妻よ。よろしくね」
ちょうど話を終えたときに一人の女性が顔を出す。村長の妻を名乗った女性、ユーリアはふくよかな体型と豊かな髪で、少し歳はいっているが「良いお母さん」といった感じだ。髪に混じる白いものの量や、肌の感じから村長よりいくらか若いのだろう。
「あ、はじめまして、浅井良介です。しばらくの間こちらでお世話になることになりました。これからよろしくお願いします」
良介が頭を下げると、ユーリアは驚いたように「まあ、丁寧な子ね。村の若い子にも見習わせたいわ」と感想を述べた。
「ゴホン」
ユーリアとの会話を遮るように、村長がわざとらしい咳ばらいをした。
「ディアスが来ていると言ったな? リョースケ殿、一緒に来なさい」
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