2-1村への道
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アーノルドの家の周りは森の中でも開けたところにあり、割と明るかったが、今歩いている道は昼間だというのに日の光がほとんど射していない。威力を押さえた《光の爪》のおかげで何とか歩ける程度だ。
「まったく、これが道なんてアーノルドさん、感覚まで規格外だよ」
今良介が歩いているのは獣道と呼ぶことすら躊躇われるような代物で、少しでも気を抜けば道を外れて迷ってしまいそうだ。
少し立ち止まり、周囲の気配を確認する。もちろん良介は、そんな技術を身につけていない。しかし、《詳細サーチ》を発動することで、対象リスト以外に実世界にも対象表示がされ、字の大きさや方向で大まかな位置が分かるようになった。
周囲には点のように小さな対象表示が数個点在しているだけだった。
しばらく道に沿って歩を進めると次第に木々の隙間から光が入ってくるようになった。森の終わりも近いようだ。
「うわっ、眩し!」
暗さに慣れた目に遮る物のない日の光は刺激が強い。光になれるのを待って、良介は目を開ける。そこには背の低い草の生えた平原、先程とは打って変わって明らかな道、そしてやや離れたところにいくつかの建物が有った。
「あれがオールトールかな? ……ま、行ってみれば分かるか」
良介は想像以上に小さい村の規模に戸惑いを覚えながら、ゆっくりと歩を進める。
(何かいる)
先程から急に気配を読むことができるようになったのかと錯覚するほどはっきりと感じる気配。それははっきりと良介に向けられた殺気のせいだった。
(ここが正念場かな)
元いた世界では文章表現以外で使われた記憶のない言葉を普通に使っている自分に苦笑しつつ、良介は対応を考える。
まず《詳細サーチ》を使い、敵の存在を把握する。
狼 ♂ 7才
【はぐれ者】 LV5
筋:C 体:D+ 器:D-
敏;C+ 魔:D- 信:D-
位置:6時方向約20メートル
(狼か。筋と敏が高いか)
比較が簡単なため、ステータス表示は敢えてアルファベットにしてある。固有名がないのは名前による識別が行われないからだろうか。何気に位置とかいう項目が増えているが、不利になるものではないのでスルー。
魔法使い系である良介にとって魔と信がD-なのはありがたかった。対象の魔・信が低いほど魔法の効果が高くなるらしい。
「古の盟約の下、我、今ここに無色の追跡者を招請する」
良介はぼそぼそと、呟くように呪文を詠唱する。魔力が良介に集中しはじめ、本能的にか危機に気付いた狼は一気に距離を詰めてくる。しかし間に合わない。
「《魔法の矢》」
「ギャウン」
一歩及ばず良介の《魔法の矢》が発動する。良介は振り向いていないが追尾式の魔法である《魔法の矢》には関係ない。一条の魔力が狼を貫く。良介自身、一撃で倒せるとは思っていないが軽くない傷を与えたのは確かだ。
良介は身を翻し、その勢いのまま追撃を仕掛けた。木の棒での一撃は狼の側頭部をとらえ、狼は吹っ飛ばされる。
足はぐらついており立っているのがやっとというありさまではあるが、狼は再び立ち上がった。しかもその目はこの上なく怒りに燃えている。
(チッ)
倒せないまでも、戦意喪失させることぐらいはできると踏んでいた良介は、その状況に舌打ちした。
今にも跳びかかろうと後ろ脚を曲げ、溜めの姿勢に入る狼。対する良介は急いで《氷柱の槍》の呪文を詠唱する。しかし、一歩及ばず狼の跳びかかりを許してしまう。
「《氷柱の槍》」
一発もらうことを覚悟しながら魔法を発動させる。跳びかかったことで顕になった狼の腹部に容赦なく3本の氷柱が突き刺さる。
大きく口を開けたまま惰性で飛んでくる狼を避けようとして良介は体をひねるが間に合わず、狼の口が良介の肩に引っ掛かる。絶命していたため噛みつかれるという事態は避けられたが、引っ掛かった狼の牙が重みで食い込んでいく。しかし、かたい肩パッドの入った制服のおかげで皮膚を破るまでには至らなかった。この時良介は初めて高校の制服が学ランで良かったと感謝した。
良介は狼を倒したことで緊張が解け、肩からぶら下げたままその場に座り込んだ。生まれて初めて向けられた殺気に、今更ながら恐怖が湧きあがってくる。
「俺が殺したんだな……」
森で獣を倒しても感じなかった生き物を殺したという感覚が、殺気を向けてきた狼に対して初めて感じられ、戸惑い、恐怖、罪悪感がより一層重くのしかかった。未だに非現実のものとしてとらえていた部分が殺気を向けられた恐怖で、やっと現実のものとしてとらえられるようになったからかもしれない。
どのくらいそこでそうしていただろうか。西の空は赤く染まり、東の空は濃紺に覆われ始めている。夜は凶暴な獣が多くなると聞いた。今は止まっているがずっと浴び続けていた血の匂いは猛獣の恰好の的となるだろう。
背筋に冷たいものを感じた良介は、多くの獣を虐殺にも近い形で殺しておきながら死にたくないと思っている自分に自嘲じみた笑みを浮かべ、言うことを聞かない脚や腰に鞭うって村への歩を再開させた。狼は肩からはずし、担いである。結構重いが、いざとなれば捨てて逃げられるかもしれない。
村への道は思っていたより短く、太陽が沈みきる前には着くことができた。
今回は自分でもちょっとおかしいかなと思っています。おかしいと感じましたら是非感想をお送りください。もちろんその他の感想も大歓迎です。