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1-6 異世界での門出

更新が遅くなり、申し訳ありません。期待してくださっている方々にはいくら感謝と謝罪をしても足りません。

予定通りチュートリアル終了です。というか、無理に終わらせようとしたために遅く&長くなってしまったのですが。これからは良介君の活躍が少しずつは掛けると思います。ご期待ください(過大でないくらいに。むしろ過少でいいです)。

 家の中に入った良介とアーノルドは、机の上においてあった物の異変に気がついた。


「あれ? 出発するときにはカードだったのに……。アーノルドさん、カードが元に戻るのってよくあることなのですか?」

「いや、わしも聞いたことがない。尤も、多く出回るものではないから、情報が入ってこぬだけなのかもしれぬが。それにしても……」

「もしかしたら、失敗だったのかも知れませんね。初めて使ったものですし。だったら、これも持っておかない方がいいのかな?」


 取り出したカードを指でくるくるやりながら良介は呟く。その言葉にアーノルドは反応した。


「捨てるつもりか? それじゃったらわしが引き取ろう。珍しい物じゃからよい研究材料になるじゃろうからの」

「研究、ですか?」

「うむ。未だ解明されていない謎だらけの物じゃからの。ちょっとしたことでも、役に立つことがわかるじゃろうと思うての」


 これの何を研究するのだろうと、怪訝そうな表情をした良介に対し、アーノルドは真剣そのもの。その中には子供のようなワクワクドキドキといった感情も含まれている。どのような研究を行うか、腹案は既にありそうだ。


「それなら使ってください。カード関連で何か分かれば、封札士として応用が利くこともあるかもしれませんしね」


 良介にとってアーノルドの研究内容はどうでもよかった。というより、いずれ封札士をやることになるかもしれない良介にとって、どんな内容であれ有用であることには変わりない、と言った方が正確だ。


「ふむ、すまんな。ところで、明日以降はどうするつもりじゃ? わしは早速研究を始めようと思うておるで、森へ行くにしても付き合えぬが」

「ああ、そうですね……、だったら、村へ行ってみようかと思います。この辺の相手だったら一人でも何とかなることが分かりましたし。不意打ちを食らわなければですけど。いつまでもここにいられるわけじゃないんで、早い内にこの世界にも慣れた方がいいとも思いますしね」

「わしはずっと居てもらっても一向に構わんがの。しかし、良介殿の目的を考えるとそういうわけにもいかぬか。うむ、そうするのがよいじゃろう。さて、そうときまれば祝宴の準備じゃな。とはいってもささやかなものじゃがの」


 良介の新たな門出にと、アーノルドは張り切って準備を始めた。

 用意されたのはパン、チーズ(のようなもの)、数種類の果物、肉で、全て一口大に切られ、それぞれのさらに盛られていた。良介は実物を見たことがないが、立食パーティーという言葉が頭を通過した。二人しかいないので立って食べる必要はなく、二人ともテーブルについて普通に食べたのだが。


「祝いには何といってもこれじゃろ」


 アーノルドがそう机の上においたのは人の頭より一回りは大きい樽だった。


「これって、酒ですか?」

「うむ。竜酒と言っての、穀物やら果物やらを詰めた樽に竜の牙を入れふたをしてふたに魔法陣を描いて一週間も待てば完成じゃ。実際にはそれから熟成などの作業があるがの。そんなことよりも飲んでみるのが一番じゃ」


 アーノルドは金属製のコップに樽から液体を注ぎ、良介へと渡す。酒と言えば、悪友がジュースと主張する類のものしか飲んだことがない良介でも、直感的によい酒だということが分かった。芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。製法自体が全く違うので実際にはどうなのか分からないが、果物の香りがしないことから、原料は穀物なのだろうとあたりをつけた。


「あ、うまい」


 一口飲んだ瞬間、率直な感想が口をついて出る。良介が今までに飲んだどの酒よりもきつかったが、いくらでもいけそうな気がした。


「ふむ。上手く仕上がったようじゃな。今日この時に出せてよかったわい」


 アーノルド自身も自ら仕込んだ酒の出来栄えに舌鼓を打っている。

 一杯目を飲み終え、二杯目を貰おうか考えていたとき、急に良介の視界がグルグルと高速回転を始めた。ほどなくして良介の意識は深い闇の中へと落ちて行った。




「あれ? 確かさっきまで晩飯食ってたはず……。何故ベッドに? しかも何気に太陽昇ってるし」


 起きぬけで良介の頭は普段の二割も働いていない。時間の経過とともに頭の回転も良くなっていく。


「確か、竜酒とかいうのを飲んで……、だめだ、そっから先思い出せない」

「む、起きておったか」


 いつからいたのかわからないが、アーノルドが声をかけてくる。


「竜酒をあの速さで飲むのはまずかったのう。知らんかったとはいえ、あんなことすればドワーフの酒豪でも昏倒するわい」


 どうも、竜酒を一気に飲んで倒れたらしい。その後、アーノルドが良介をベッドまで運んで今に至る。


「そろそろ、無理にでも起こそうかと思っておったところじゃ。村に行くなら、もう出んと暗くなるまでに着かんくなるでのう」

「そうだった!」


 良介はガバッと起き上がり、急いで荷物をまとめにかかる。とはいえ良介の荷物はアーノルドからもらったものばかりだった。この世界に来る前に持っていたはずの学用鞄は、こっちに来た時にはすでになかった。

 良介の準備が整ったころ、アーノルドが簡単な朝食と数枚の紙の束を持ってきた。

 食事を摂りつつ、紙の方の説明を聞く。


「これは追加の選別じゃ。というより、研究材料提供の報酬じゃ。魔導書と呼ばれるもので、魔法を封じ込めておいて必要な時にキーワードで発動させるというものなのじゃが、発動するのに魔法を必要としないのじゃ。キーワードを唱えるだけじゃからスキルでもないしの」

「あの、それじゃあ魔導書は封札士でも使えるってことですか? それって凄い便利ですね」

「ふむ。まあ、良介殿が得た情報を元に組み立てられた理論上の物ではあるがの。試しに一つ使ってみると良い。封じられておるのは《自己開示》じゃ」

「あ、そうですね。まだ封札士みたいですし。ところで発動のキーワードは何ですか?」


 良介は《自己開示》を念じて、発動しないことによって自分がまだ封札士であることを確認する。


「スキル名そのままじゃよ。魔導書士、魔導書づくりを専門にしておる者たちじゃな。の中にはひねくれたキーワードを使う者もおるようじゃが、そうするのも面倒なものじゃで」

「そうですか。じゃあ早速。《自己開示》!」


 魔導書を一枚手に取り、声高らかにキーワードを唱える。すると良介の目の前に一枚のカードが現れた。何のことはない。ただのパーソナルカードだ。


「成功のようじゃな。今回は今使ったものを含めて六枚しか用意できなんだ。急じゃったからの」


 良介はアーノルドの言葉を聞きつつ、パーソナルカードを操作して【魔法使いの弟子】へと変える。


「いえ、六枚もいただけて十分です。まあ、多いに越したことは有りませんけどね。……。それじゃあ、そろそろ行きますね。ありがとうございました。お世話になりました」

「うむ。折を見てまた来ると良い。その時までにはまたいくらか作っておくでの。無論、タダではないがな」

「はい。また、カードを持って遊びに来ますよ」


 二人ともが冗談めかして別れを言い合う。双方が湿っぽいのを嫌ったというのもあるが、それはたった三日間でもお互いが別れがたい存在になっていたということである。

 意を決して、良介は家から一歩外に出た。何度もくぐった扉だというのに、そのいずれとも違う感覚が有った。期待と不安をないまぜにした門出特有の感覚。

 良介は強制的に連れてこられた異世界で、自らの意思で新たな一歩を踏み出した。

感想等は常時募集しています。我こそはという方、仕方ねーなという方おられましたらよろしくお願いします。

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