1-5村へ行く前に(4)
ユニークが150を超え、PVも400に迫る勢いで、感激の嵐です。標準ペースがどの程度のものかわかりませんが、私には早すぎるスピードでしたので正直驚いています。あと、今回からスキル表示を≪≫から《》に変えました。
「称号は【封札士】じゃったな?」
「はい。《封札》を使ってからパーソナルカードを開いていませんし」
「ならば、【封札士】をつけてから魔力は確認したか? 【科学文明人】のように0補正ではなかったか?」
「……それは、確認していません。すみません」
先程魔法が使えなかったときと違い、アーノルドはとても狼狽している。
「古の盟約の下、我、他者へと自らの情報を開示する。《自己開示》」
良介はすぐにパーソナルカードを開こうとする。しかし何も起こらない。《自己開示》を念じて開けなかった時点で気付くべきだったが、断ち切れなかった。アーノルドの指摘にこたえられなかった負い目もある。
「よい。古の盟約の下、我、自らの開示を拒む弱者に強制的な開示を求める。《他者開示》」
再度アーノルドにパーソナルカードを開いてもらう。アーノルドのアーノルドの反応は良いものではなかった。
「む、魔力は正常か。であれば、何が原因なのじゃ」
温厚そうなアーノルドの表情が歪んでいる。良介はそのアーノルドの想いがうれしく、また心苦しくもあった。アーノルドからパーソナルカードを受け取って、苦し紛れに《詳細サーチ》を使おうとしてみるが、やはり発動しない。先程使ったときはまだ【封札士】をつけていなかった。
【封札士】を外すと、同時に[封札]も外れる。改めて《詳細サーチ》を使う。対象は【封札士】カード。改めて使ったことで対象がアーノルド以外にもあることに気付いた。
《詳細サーチ》を通して【封札士】カードを見ると今までに見た情報の他に新たな情報が得られた。
(隠し効果:《封札》、《解札》以外のすべてのスキルが使用不可。装備可能枠が称号3、アイテム5に増える)
「アーノルドさん、分かりました。【封札士】のせいです。【封札士】に《詳細サーチ》を掛けてみたんですが、隠し効果というのが有って、《封札》と《解札》以外のスキルが使えなくなる代わりに、装備可能枠が増えると言うものみたいです」
「ふむ、そうか。外しておる今は使えるというわけじゃな」
「はい、【封札士】をつけている間は指南書カードでつけたスキルも使えないみたいです。外す前に《詳細サーチ》を使ってみたのですが、無理でした」
「ふむ、そうなると今後の方針に影響してくるな。魔法使いとしてやっていくのか、それとも封札士か。当面はそのどちらかじゃろうな」
「そうですね……、どうせなら封札士を目指したいですけど、今の時点ではさすがに魔法使いでしょうね。《解札》があればまた違うのかもしれませんけど」
「そうじゃのう。封札士は《封札》と《解札》の両方が有って初めて真価を発揮するものなのじゃろう。魔法使いなら後から封札士に変えることもできるしの」
とりあえず、今後の方針が決定したところで良介は魔法の練習を再開した。魔力がCということもあり、本に書かれていた魔法の発動はもちろん、制御にも問題はなかった。
「この様子なら、一人で森に行かせても問題はなさそうじゃな。無論、明日は同行するが、それ以降は良介殿次第じゃな」
アーノルドの言葉は良介を勇気づけた。今まで戦う手段が全くなく、森に入るのですら不安に感じていたところに、相手が低級とはいえ、倒すのに問題がないと言われたようなものだ。勇気づけられないはずがなかった。
良介はそんな想いを胸に、期待と不安をないまぜにして、異世界での初めての眠りを迎えた。
翌日目が覚めると良介は眼前に広がる見知らぬ天井に驚いた。寝ぼけた頭をフル回転させて出た結論は、
(夢じゃなかったんだな)
もし本当に夢だったとしたら、夢は願望を映し出すともいうくらいだから、自分は思っていた以上に厨二的だったのかとショックを受けたことだろう。しかし、夢じゃなかったときのショックに比べれば何倍もましに思えた。
朝食の後、魔法の調整を行い、森へ出かける準備を整える。
「良介殿、おそらく称号欄に新たな称号が増えているはずじゃ。確認しておくといいじゃろう」
アーノルドに促され、称号一覧を確認すると確かに見覚えのない称号が増えていた。
【魔法使いの弟子】
良介はこれを目にしたとき、【一般人】より恰好がつくと考えなしに変えようとしている自分に気づき、咄嗟に手を止める。カードではなかったので使えるかどうかは分からなかったが、念のため《詳細サーチ》を掛けてみることにした。
結局のところ、保持称号にも効果ありで、【魔法使いの弟子】の効果が分かった。表向きには魔法威力の微上昇だけだったが、隠し効果として魔力成長補正があった。その他にはとくにデメリットとなるようなことも見当たらず、良介はやっと称号を変更できた。
出発を目前に、アーノルドが確認をしてくる。
「良介殿、昨晩作成したカードがテーブルの上におかれたままじゃが、よいのか?」
「ええ。構いませんよ。あれはもともと俺の物ではありませんし、持っていったところで使い方が分かりません。落としても面倒ですので、おいて来たんです」
「そうであったか。それは失礼した。では、出発するかの」
「はい」
二人はティルエラの森の奥へと歩を進めた。
「古の盟約の下、我、今ここに無色の追跡者を招請する。《魔法の矢》」
《魔法の矢》で本日九匹目の敵を屠る。内訳は跳ね兎が5匹、隠れ狸と小判猫が各2匹。最初は敵の動きに戸惑ったり、良介自身が無駄な動きをしたりで何発かもらったが、三匹目を倒す頃には上手く動けるようになり、最終的には敵の攻撃をかわしながら魔法詠唱をするという高度なことまでさせられ、できるようになった。
「よし、良介殿。次で最後にしておこう」
「あ、それなら最期の一匹は《封札》を使わせてもらえないでしょうか? 生物をカードにしたらどうなるか知っておきたいので」
「ふむ。しかしそうなると魔法で対処できなくなるが、それでもやるのか?」
「はい。今までのでこのあたりの獣の動きは大分把握できました。時間はかかるでしょうが肉弾戦でも勝てる自信はあります」
「そうか。それならばわしは反対する理由はないのう。《他者開示》も苦になる術ではないでな」
「ありがとうございます」
探し始めて数十分、見つかったのは跳ね兎だ。
こちらに気づいて逃げようとする跳ね兎に、良介は先程拾った石を投げつける。上手く当たり、ひるんだすきに接近する。跳ね兎は反転して攻撃を仕掛けてくる。それをかわし、隙の大きな跳ね兎に向かって一発目の《封札》を放つ。しかしあえなく失敗。
まだ体力が残っているからだとあたりをつけ追撃に出る。ミス。良介の攻撃をかわした跳ね兎がキックで反撃に出る。体を転がして何とか避ける。
何度目かの攻防の後、再度《封札》を放つ。呪符の時とは比べ物にならないくらいの激しい脱力感に襲われるが、それと同時に跳ね兎がカードへと姿を変えていった。
「ふむ、できたようじゃな。さて、帰るとするか。古の盟約の下、我、風を司りし精霊に願い奉る。その優しき息吹きに依りて、我らを根拠の地へと送り返したまえ。《帰還の法》」
アーノルドの詠唱が終わるや否や、あたりに風が吹き荒れ二人を包み込む。良介は外が見えないほどの竜巻に包まれながら、これが優しき息吹きなのかと疑問に思った。
竜巻がはれるとそこはアーノルドの庵の前だった。
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