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1-2村へ行く前に(1)

「ちょ、ちょっと待ってください。このカードって三枚ともかなり貴重な物ですよね? ただでさえカードが貴重なのに、それを作り出すことができるなんて。そんなもの持ってるって知られたら、相当やばいんじゃないですか?」

「当然じゃな。どれか一つでも持っていることを知られたら敵が魔物だけでは済まなくなるじゃろう」


 良介にとってその言葉はとても厳しいものだった。平和な日本で生まれ、幸運にも誰かと敵対するような状況にさらされることがなかった良介は戦闘の経験どころか、訓練すらもしたことがない。せいぜい授業でやらされる武道ぐらいだ。それもあまり上手くはならなかった。


「人里に出てからではカードの効果を試すのも一苦労になりそうじゃな。このティルエラの森は人里とほどよい距離があるで、迷い人もめったに来ぬ。獣もおとなしいものか臆病な物がほとんどじゃからこのあたりであらかじめ試しておくのも良いかもしれぬな」

「獣、ですか? 俺今までに人どころか動物に襲われた経験もないんですが……」

「まあ、おそらく大丈夫じゃろ。こちらから攻撃を仕掛けない限りほとんど襲われんし、本気で逃げて逃げ切れんことも考えられん」

「本当に?」

「おそらく、としか言えぬな。いかなる場合においても事故はつきものじゃ。最初はわしも同行しよう。カードの効果も気になるからの。とはいえ、これから森に入るにはいささか遅い。今日はここに泊まり、明日試すことにするがよいじゃろ」




 その日の夜、饗された物はパン、大きめの豆が入ったスープ、何かの肉のソテー、木の実だった。


「アーノルドさん、この肉は何の肉なのでしょう?」


 パンは今までに食べてきた物と大きな違いはなく、豆も枝豆と蚕豆そらまめの中間のような食感で大きいだけといったところだ。木の実に至っては見た目も味も枇杷そのままだった。

 食事の中で唯一気になったのが肉だ。鶏肉に近い食感だが近いと言うだけで違うものだということは分かった。


「それは跳ね兎の肉じゃよ。森には結構おってな、人の身長を超すぐらいのジャンプ力を持っている。そのジャンプ力を生かして、顔や上半身を狙って蹴ってくるのが特徴かのう。脚力が強いからそれなりに痛い。しかし、直線攻撃しか出来ぬから厄介な相手ではないな」


 アーノルドは聞かれたことを答えつつ、明日森に入ることを考慮して注意喚起する。

 一方、良介はウサギの肉と知って一瞬顔をしかめたが、もうすでに食べていてなかなかに美味しかったことから食べることに躊躇はしなかった。これが蛇やカエル、ミミズだったら違っただろう。


「そうじゃ、良介殿、わしに≪詳細サーチ≫を使ってみてくれぬか。その効果であれば今からでも確かめることができよう」


 食事の後、アーノルドは良介に自分を対象としてカードの効果を見せるよう求めた。良介は求めに応じ、カードを使おうとするが、どのようにすればいいかわからない。


「そういえば、このカードってどう使えばいいのですか?」


 先に聞いた話ではカードは装備するだけで効果を発揮するということだが、そもそもカードの装備方法が分からない。


「? カードは装備すれば使い方は自然に頭に浮かんでくるということらしいが。……おお、そうか装備の仕方が分からぬのじゃな。まず、パーソナルカードを呼び出して……、ぬう、そもそもそれがわからぬか。異世界人の相手というのもなかなかに大変な物じゃの。この年になって良い経験をした」


 アーノルドはカッカと楽しそうに笑うと右手の袖をまくりあげて言葉を紡ぎ始める。


「古の盟約の下に、我、他者へと自らの情報を開示する。≪自己開示≫」


 アーノルドが言葉を紡ぎ終えると胸元にカードが浮かび上がる。


「うわ、すげえ!」


 生まれて初めて見る魔法に良介は驚きと興奮を隠せない。

アーノルドがカード手に取り手に取り、良介に渡した。そこに書かれていたのは


 アーノルド 人間 男 160歳

 元・宮廷魔導士 LV76

 筋:D  体:D+ 器:B-

 敏;C+ 魔:S+ 信:S-


というものだった。


「あれ? アーノルドってことは、情報を改ざんできるんですか。偽名って言ってましたよね」

「ふむ、その情報のほとんどが偽物じゃよ。正しいのは魔:S+だけじゃな。他人に知られたくない情報もたくさんあるからの」


 良介はネットのプロフィールみたいだと思ったが、面倒なことになりそうなので黙っておく。しかし、良介の認識はあながち間違っていない。


「ところで、パーソナルカードでしたっけ、を呼び出すにはさっきの呪文をいちいち唱えなければならないんですか?」

「いや、そんなことはない。≪自己開示≫はこの世界のものなら誰でも使える簡単な魔法であるから、一度呪文を唱えればその後はいつでも好きな時に呼び出すことができる。ではやってみてもらおうかの」


 促すアーノルドに従い、良介は聞き覚えた呪文が正しいか確認してから詠唱に入る。


「古の盟約の下に、我、他者へと自らの情報を開示する。≪自己開示≫」


 先程アーノルドがやったのと同じように呪文を唱えた。しかし、いつまでたっても一向に変化が見られなかった。

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