1-1 夏蓮さん?が死んだ日っす
サブタイの「〇〇っす」は後に出てくるキャラクターの口癖です。
舎弟的なものをご想像ください。
トス――――――――
ああ、映画やドラマで聞く人が刺される音って、やっぱりイメージでしかないんだなぁ。
胸に刺さったサバイバルナイフから勢いよく血しぶきがあがる。
前触れもなく突然に、しかも記憶にもない男に刺されて、
それでも俺には現実味がないどこかテレビの向こう側の風景に感じた。
あまりに突然だったせいか、特に悔しいだとか悲しいだとかそんな気持ちにはならず。
力を失う四肢を投げ出し、倒れ伏す。
死んでいく感覚ってこんなもんか――――――――
時計の針のように生を刻んでいた鼓動が、ゆるやかに止まっていく。
痙攣する身体がしだいに動かなくなり…。
イヤにあっけない幕切れだった。
だが、俺の意識が閉じる瞬間、世界が動きを停めた。
リンゴーンと、空の彼方から鐘の音が聞こえ、雲の切れ間から光が指す。
どこのパ○ラッシュ?的な展開である。
あれ、もっとなんつーか普通にブラックアウトするもんだと思ったけど。
あんなに綺麗な終わり方じゃなかったしね、正直汚い路上ですし。
あ、ひらひらとなんか降りてきたよ?
天使っすか?
俺クリスチャンじゃないけど、天使降りてきちゃいましたよ?
ふよふよと空の光の中から、赤ん坊に羽根のはえたキューピットが降りてくる。
呆然と見上げる俺をよそに、降りそそぐ光に薄絹のベール、花びらの雨。
ちょっとキリスト信じておけばよかったかなって思ったよマジで。
『キューピットの顔がオッサンじゃなかったらな!』
「おーう坊主、わりぃなちょーっとだけ手違いがあってな」
うわぁ……
ハードボイルドなボイスです本当に以下略。
「あああ…」
「はーっはぁっは、おどろいちゃったかい?
天界もね、最近演出不足ってーことでぇ神様がうっさいのよ。
ま、それはいいとしてだ坊主。
わりぃんだけど、別の女と勘違いして殺しちまったから、別の世界に生まれ変わってくれよ、な?」
…………………は?
なんて言ってくれやがりましたかこいつ。
どこから取り出したのか、葉巻に火をつけプカプカと吸い始めるUMA(こいつはもう天使じゃない)は、
まったく悪びれる様子もなく俺にそういった。
「別の女って…ちょっとまて、俺死ぬ予定じゃなかったって…どういうことだよおい」
幽体離脱?のように半透明の俺が、死んだ身体から抜け出す。
あれ、いつの間にか痛みもない、死んだから当然っちゃ当然だが…。
「そーなんだなぁ、ほれっそこ見てみ」
天使が指さす先、時間の止まった世界に…やじうまに混じって俺そっくりな女がいた。
なん…だと…
「ってーわけよ、あの女のストーカーやってた男に刺されちゃったんだなぁーこれが。
ま、本当は別の所で殺されるはずだったんだけどねぇ。
俺のマブダチの死神ちゅぁんが、あ、女の子なんだけどさぁ。
俺が大人の遊び教えてあげようとしたら逃げちゃってね、
その時はずみでぶっすりと」
「お前のせいかぁーーーーーーーっ!」
殺す! 絶対こいつ殺したる!
立ち上がり殴りつけようとする俺を、馬鹿にするようにUMAはひらひらと躱す。
あーうぜえ降りてきやがれ未確認生物!
プカプカと葉巻をふかしながら、ひらりひらひらと避け、まるでおちょくってるようだ。
いや、どうみてもおちょくっとる!
いつか殴り飛ばしてやると心に誓い、悔しそうに睨む俺へ、UMAはケケケと笑い声を飛ばした。
こいつ実は悪魔なんじゃないか?
「まぁそんなに怒りなさんな。
俺としてもちょーっぴり悪いことしたなっておもってるんよ?
だから、すんごい特典つけて転生させてやっから勘弁してよぉ~」
ちっとも悪いと思ってなさそうなUMAが手を合わせ謝ってくる。
UMAを睨みつけながら、俺は少しだけ考えていた。
これはチャンスではなかろうか?
隠れラノベ信者として、この展開はなかなか美味しい。
よくある転生モノのテンプレ的な流れ。
生まれ変わって「うはっ俺無双すぎwww」という展開になれるんじゃなかろうか。
このまま人生を生きていても、一般家庭の俺が大成できる可能性は多くはない。
それならいっそのこと別の世界でハーレムを築くのも悪くはないのでは?
………俺の腹は決まった。
「…………わかったよ、転生する。
ただし、特典の部分をもう少し詳細に教えてくれ」
「お~、やっとわかってくれたわけねぇそうそう最初から素直に『よけいなこと言わんでいいからとっとと説明しろUMA』
……UMAはちっとおじさん傷ついちゃうなぁもう…」
俺が話を聞くつもりになったからか、ゆっくりと近くの樹の枝に座る。
足を組んでイヤに偉そうなのが癪に障るが。
「んじゃまぁね、特典なんだがぁね。
選べるのは3種類の中から1つだけ『ケチくさいなぁ』
………坊主…結構口悪ぃーなキミ……。
しょーがないでょー、上司命令にさからえないんだ~から。
あーあと、記憶についてはサービスで残すから安心しなよ。
じゃぁまずは、1つずつ説明するわ、一度しか言わないからよぉーく聴くんだぜぇ。
まーず1つ、魔法の才能な。
これは転生した先の世界で一番強い魔力の持ち主の『2倍』魔力が貰えるっつー特典だ、もちろん属性関係なく全てに才能付与するから安心しな。
そんで2つ目、豪運、超ラッキー、運がよすぎて周りが不幸になっちゃうんだなーこれが。
で、3つ目な、不老不死不滅、絶対に死なない、星が滅んでも死なないんだぜー、もう神様だなケケ。
最後の3つ目だけは俺を呼べば解除することができるのよ。
さぁこの中から1つだけ選んでみな~、坊主」
「1つ目で」
俺は即答した。
魔法だぜ!魔法! やべえオラワクワクしてきたぞ!?
ってことは転生物ファンタジーで世界最強じゃないか!
これはまさしく俺無双展開!?
ちょっと豪運にも興味を惹かれたが、UMAの「周りが不幸になっちゃう」発言で論外。
不老不死、不滅? つまり絶対に死なないっていうのは最悪地中に埋められて永遠に苦しむとかありえるからアウト。
もうね、魔法ですよそれだけでwktkが止まらない。
「…おーぅけぃ、じゃささっとな」
ん、一瞬こいつ嘲った気が…?
羽ペンでなにかに書き込んだUMAは、ふわりと宙に飛び、手に持った紙が空に溶けて消える。
その途端、頭の中でバチリと火花が散り、どこかから声が響く。
《神の契約が成されました、事象の書き換えを開始――――――――
5.4.3.2.1―――書き換えが完了しました。
速やかに次元移行シークエンスに移ります》
「ケケ、新しい人生楽しんでくるんだぜぇ坊主よぉ。
『魔法が役に立つかはしらねぇけどな』」
UMAの声は最後まで俺には届かない。
《強制移転、エーテル分解、等価空間の発生に伴い衝撃が発生しま――――――――》
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嘲うUMAに見送られ、
今度こそ本当に俺は意識を手放した。