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『横ならび』

作者: ミオ
掲載日:2026/08/24

その共同住宅には、妙な序列があった。


全員、ただの「店子」「賃借人」だ。


なのに、古株たちは新人が入ってくると、なぜか急に胸を張った。


「ここ、もう何年いるの?」


新人が尋ねられる。


「まだ入ったばかりで、三か月です」


すると古株は、ふっと鼻で笑う。


「そう。じゃあ、まだ何も分からないね」


まるで入居三か月と十年では、人間としての格まで違うかのようだった。


ある日、新人の佐藤さんが、共用スペースに置いてあった「共用」の備品を使った。


すると、すぐに古株の一人が飛んできた。


「それ、勝手に使わないほうがいいよ」


「え? 共用って書いてありますけど……」


「そうなんだけど、ここでは昔からそういうルールだから」


佐藤さんは首をかしげた。


「そのルールって、どこかに書いてあります?」


「書いてないけど、みんな知ってるから」


――出た。


古株だけが知っている謎ルール。


正式な規約より強い。


法律でもない。

契約書にもない。

ただ、古株たちの頭の中にだけ存在する。


そして新人が少しでも知らないことをすると、


「そんなことも知らないの?」


と笑われる。


しかし、不思議なことに。


その古株たちは、大家さんの前では驚くほど腰が低い。


「いつもお世話になっております!」


「こちらこそ、ありがとうございます!」


「今後ともよろしくお願いいたします!」


さっきまで新人を威圧していた人とは思えない。


新人たちは、その光景を見て気づいた。


なるほど。


この人たちは、偉いんじゃない。


ただ、


店子歴が長いだけだ。


ある日、ついに新人の一人が聞いた。


「すみません。先輩って、ここで何か役職でもされてるんですか?」


古株は誇らしげに答えた。


「いや、特には」


「じゃあ、大家さんの親族とか?」


「違うけど」


「管理会社の方?」


「違うよ」


新人は少し考えてから、にっこり笑った。


「じゃあ、同じ店子ですね」


沈黙。


古株の顔から、ゆっくり笑顔が消えた。


「……まあ、そうだけど」


「ですよね」


新人はペコッと頭を下げた。


「じゃあ、これからもよろしくお願いします。店子同士で」


その瞬間。


建物内に、何とも言えない空気が流れた。


それ以来、古株たちの「先輩風」は少しずつ弱くなった。


というより――


吹かせても誰も涼しくはならないことに、ようやく気づいたらしい。


結局のところ、


十年住んでいようが、

一か月しか住んでいなかろうが、


家賃を払っている立場は同じ。


店子歴は、


肩書きではない。


ただの経過時間である。


そして新人たちは今日も思う。


「先輩って……何の先輩なんだろうか?」


答えは簡単だった。


ただの、先に入った店子、賃借人。


それ以上でも、それ以下でもない。


なのに本人たちは、今日も新人の前で胸を張っている。


まるで、


「私はここに、あなたより十年長くいるのよ」


とでも誇らしげに言っているかのように。

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