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本の世界の中の女

作者: yoshimika
掲載日:2026/05/13


なんということもない、短篇です。



あるところに、本の世界がありました。

その世界では本のとおりに物事が繰り広げられます。

人々は読まれる本のとおりの行動をし、言葉を口にします。

「通りに面した喫茶店では、壮年の男性が読書をしながら座っている」

という一文が読まれれば、壮年の男性が喫茶店で座って読書をします。

そのシーンが何度も、何人にも読まれれば、その男性はずっと読書をし続けます。

しかしその男性には名前も顔も、体格も決まりはないので、壮年の男性であれば役割を代わってもらうことができました。

つまり、本を読むのに飽きたら代わってもらうことのできる、比較的楽な役割です。


それに対し、名前も顔も体格も決まっており、役割を代わってもらうことのできない女がいました。

女の役割は、過酷で救いのないものでした。

また一度、本のとおりをすべて終えた女は、永遠に繰り返される理不尽に憔悴し切っていました。

心が辛いのも身体が痛いのも、うんざりでした。

この世界から抜け出して、自由になりたい。

女はまた新たに本が読まれるまでの間に、ありとあらゆるものに祈り、願い続けました。


すると、願いを聞いた気まぐれな本の神様が現れて、慈悲を与え本の結末を変えてくれると言いました。

女が登場する本の、女にとっては救いのないラストシーンのその先、空からは光のはしごが降り、紙吹雪が舞い、神に祝福された女は天に昇ります。

そして波打つ紙面から抜け出し、本の世界から解き放たれて自由になれるというのです。


またひととおりの役割を終えた女は一人、解放される喜びを噛み締め涙しながらゆっくりと紙面に近付き、微笑んでいました。


このお話はここまでです。


私はタブレットの画面を消灯します。

果たして、紙の本として流通していないこの本の世界の女は、救われたのでしょうか。




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