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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

親友と一緒に二度も処刑されたので、三度目はループ知識をフル活用して私たちをハメた王子を先に廃嫡しましょう

作者: 羽哉えいり
掲載日:2026/02/10

 鈍い音とともに視界が爆ぜる。

 

 二度目の人生の最期に見えたのは、広場を埋め尽くす民衆の罵声と、処刑台の隣で同じように首を撥ねられた親友、ユーノの無惨な姿だった。


「――お前たちのような悪女は、並んで処刑されるのがお似合いだ!」


 断罪の声を上げたジャスパー王子の勝ち誇ったような、醜い歪んだ笑顔。


 ……あの醜悪なつら、……三度目は、絶対絶対踏み潰してやる。





「――リー、マリー? どうしたの、急に黙り込んで」


 柔らかな陽光と、高価なダージリンの香り。

 マリーはハッと目を開けた。目の前には白磁のような肌に、意志の強そうな金色の瞳を宿した絶世の美女――公爵令嬢のユーノが座っている。


 ここは二人が通う王立学院の東屋。時計を見れば、十七歳の春。

 マリーは震える手でティーカップを置くと、わざとらしくため息をついた。


「……ユーノ、今回のお茶、少し苦くない?」

「あら、一回目の処刑の前の晩に飲まされた毒薬に比べれば、甘露のようですわね?」


 ユーノが事もなげに言った。

 マリーの心臓が跳ね上がる。マリーは身を乗り出し、親友の瞳をじっと見つめた。


「あんたも、戻ったの?」

「ええ、またよ。……マリー、今度は首、繋がってるわね?」

「ユーノこそ。……最悪だったわね、二度目も」

 

 二人は同時に深い深い溜息をつき、それからどちらからともなく「ぷっ」と吹き出した。

 死に戻り二回。通算三度目の人生。普通なら絶望するところだが、この二人には最強の相棒ともがいた。


 マリーとユーノ。

 侯爵家と公爵家という家柄の近さ以上に二人は感性が一致しすぎていた。幼少期からお互いのドレスの趣味から嫌いな男のタイプ、そして「いつか二人で自由に領地を経営して、男に頼らず生きたい」という野望まで、すべてを共有してきた戦友だ。


「さあ、会議を始めましょうか、マリー。なぜ私たちは毎回セットで殺されなきゃいけないのかしら」


 ユーノが優雅にクッキーを砕く。その手つきは、獲物の骨を折る軍師のようだった。


「理由は明白よ。ジャスパー王子の、あのちっぽけで歪んだ独占欲」


 マリーが冷徹に分析する。


「前回分かったけど、あの腐れ王子、婚約者の私が自分よりユーノと一緒にいる時間が長いのが気に入らないみたいね。かと言って、そのユーノが自分に懐くわけでもない。……要は自分を崇拝しない『生意気な女二人』が、自分の手が届かないところで仲良くしていることが、陳腐な男のプライドを傷つけているんでしょうね」

「加えて、私たちの実家が強すぎるものね。二人まとめて『悪女』に仕立てて処刑すれば、侯爵家と公爵家の資産が丸ごと王室――つまりジャスパーの懐に入る。全く……、愛どころか、ただの強盗じゃない」


 ジャスパー王子の顔を思い浮かべ、二人は同時に「おえっ」と吐き捨てる仕草をした。


「マリー、私もう決めたわ。三度目の正直。今回は男なんて捨てる」

「賛成。あんな無能に仕えるより、ユーノと二人で領地経営する方が百倍、いや一万倍楽しそうだわ」


 マリーはテーブルの下でユーノの手を力強く握った。ユーノもまた頼もしい笑みを浮かべて握り返す。


「決まりね。処刑台の並び順なら既に二回経験済みだからもう飽きたわ。……今度はジャスパー殿下の首が落ちる角度を特等席で拝見しましょうか」

「ええ。殿下を王位継承権から引きずり下ろすだけじゃ足りないわ。二度と日の当たる場所に出られないよう、完膚なきまでに叩き潰すわよ」


 マリーには「未来の知識(ループの記憶)」がある。

 ユーノには「公爵家の圧倒的資金力と裏の情報網」がある。


「マリー、あのお馬鹿さんが今、どこで何をしているか知ってる?」

「もちろん。今頃は、例のスパイ女と裏路地の愛人宅で、私たちの実家をどう取り潰すかニヤニヤしながら相談している頃よ」


 決意を固めて二人は立ち上がった。

 可憐な少女の皮を被った、二匹の猛獣が牙を剥く。


「さあ、始めましょうか――。私たちの最後の狩りを」




 復讐の作戦会議から一週間。マリーとユーノの動きは電光石火だった。

 

「マリー、これ。あなたが言っていた『例の隠し場所』の合鍵よ。職人を金で黙らせて一晩で複製させたわ」


 ユーノが扇子の影から差し出したのは、王子の隠し金庫の鍵だ。


「流石ユーノ、仕事が早いわね。私の記憶によれば、ジャスパー殿下は今夜の夜会中、中座して隣国の間諜スパイであるリリアーヌと密会するはずよ」

「あら。あの『真実の愛(笑)』の相手、やっぱり他国の狗だったのね」


 二人は夜会の華やかな喧騒の中、アイコンタクトを交わすと、示し合わせたようにバルコニーへと消えた。

 普通の令嬢なら庭園を散歩する程度だが、二人は違う。


「……マリー、準備はいい?」

「ええ。でもこのドレス、邪魔よね。……せーの!」

 

 二人は周囲に誰もいないことを確認すると、迷うことなく最高級のシルクドレスの裾を膝上まで捲り上げ、ガーターベルトに予備のナイフと記録用の魔導具を差し込んだ。

 さらに、令嬢にあるまじき手つきで庭園の石壁をよじ登り、屋根づたいに王子の離宮を目指す。


「ふふ、二回目の人生で処刑台から逃げようとして、その時あんたに壁登り教わっておいて良かったわ」

「役に立って何よりよ。さあ、あそこの窓よ。あそこから王子の『悪行の証拠』が拝めるわ」


 マリーの予言通り、離宮の隠し部屋ではジャスパー王子が、男爵令嬢に身をやつしたスパイ・リリアーヌと密着していた。

 窓の外、雨樋に掴まりながらマリーとユーノは冷めた目で中を覗き込む。


「――ジャスパー様ぁ、あのお堅いマリー様なんて捨てて、早く私を王妃にしてくださいな。それに公爵家の金があれば、この国なんて思い通りでしょう?」

「ああ、わかっているとも。だがマリーとユーノ、あの二人はあまりに結束が強すぎて気味が悪い。近いうちに二人まとめて反逆罪で処刑し、その領地を我が物にするさ。そうすればお前には最高の宝石を、私には絶対の権力が手に入る」


 部屋の中から聞こえる王子の甘い声。

 ユーノが隣で「反吐が出るわね」と音を立てずに口の形だけで呟き、魔導具での録画を続ける。


「マリー、聞いた? 『二人まとめて処刑』だって。三度目も同じこと考えてるなんて、進歩のない男ね」

「本当よ。でも残念だったわね殿下。あなたが今触っているその女の正体、あなたの父上――国王陛下が最も忌み嫌う『隣国の第一皇女』ですもの」


 ユーノが雇った一流の情報屋によれば、リリアーヌはただのスパイではない。国を転覆させるために送り込まれた隣国の工作員だ。

 さらにマリーは知っている。王子の私室にある絵画の裏には、このリリアーヌとの間に既に設けてしまった『隠し子』の養育費を、国庫から横領して捻出した証拠の帳簿があることを。


「さあ、ユーノ。証拠は揃ったわ」

「ええ、マリー。公金横領に、国家反逆罪に相当するスパイとの通牒。……これ、一発で廃嫡どころか、死罪確定じゃない?」

「そうね。でも、死なせるのは勿体ないわ。一生、暗い牢獄で私たちが幸せに領地を経営している噂話を聞かせてあげましょうよ」


 二人は屋根の上で、そっと拳を合わせた。


「ねえ、ユーノ。壁を下りたら、あそこの厨房から盗んでおいた最高級のワインで乾杯しましょう?」

「賛成。男を売って飲む酒ほど美味しいものはないわ」


 ドレスを翻し、夜の闇に紛れて飛び降りる二人の令嬢。

 その背中は恋に恋する乙女のそれではなく、獲物を確実に仕留める猟師のそれだった。




 ――卒業パーティーの夜。

 きらびやかなシャンデリアの下、その瞬間は訪れた。

 ジャスパー王子が、隣国のスパイとも知らずにリリアーヌの腰を抱き、壇上で声を張り上げる。


「マリー! そしてユーノ! お前たちの悪辣な振る舞いはすべて把握している。私とリリアーヌの仲を嫉妬し、彼女を暗殺しようとした罪、もはや言い逃れはできん! 今この場をもって婚約を破棄し、二人を国家反逆罪で――」

「――あ、すみません殿下。その退屈な前置き、もう三回目……いえ、お腹いっぱいなので遮ってもよろしいかしら?」


 会場が凍りついた。

 マリーは扇子を閉じ、優雅に、しかし氷よりも冷たい笑みを浮かべて一歩前へ出た。

 隣ではユーノが、何十枚もの紙束を抱えた騎士(ユーノが私費で雇った精鋭)を引き連れ、楽しそうに目を細めている。


「な、何だと……!? 衛兵! この不敬な女たちを捕らえろ!」

「あら、衛兵なら来ませんわよ? 彼らには今、あちらで『殿下が国庫から盗んだお金』の運搬を手伝っていただいていますから」


 ユーノが鈴を転がすような声で告げた。


「な、何を……」

「殿下、そんなに震えてどうなさいましたの? さあ、パーティーの余興を始めましょう」


 ユーノが朗々と、その紙束を読み上げ始めた。


「第一王子ジャスパー。過去三年間にわたる国庫横領、総額五億ゴル。使途はギャンブル、及びそちらの隣国の工作員であり第一皇女――リリアーヌ殿下への献上」

「デ、デタラメだ! 証拠があるのか!」

「ええ、もちろん」


 マリーが追い打ちをかけるように、王子の顔のすぐ横を指差した。


「殿下の寝室の、あの趣味の悪い『女神の絵画』の裏。隠し金庫の合鍵は既に国王陛下にお渡ししてありますわ。中にはリリアーヌ様との密約書と、横領の裏帳簿が大切に保管されていましたものね?」


 ジャスパーの顔から一気に血の気が引いた。


「な、なぜそれを……、貴様、泥棒か!?」

「泥棒? 心外ですわ。私たちはただ、三度目の正直で『掃除』をしただけです」


 マリーは冷たく言い放つ。


「殿下、あなたが私たちを疎んだのは、私たちが仲良くしているのが気に入らなかったからでしょう? 自分が入り込めない絆が怖かった。だから権力でねじ伏せようとした。……本当に、お可哀想なほど小物ですこと」

「うるさい! 黙れ! 俺は王子だぞ! この国の王になる男だ!」


 ジャスパーが地団駄を踏み、叫ぶ。その姿には、かつて二人を処刑した時の威厳など微塵もない。ただの追い詰められた鼠だった。


「王? 寝言は寝てからおっしゃってくださいな」

 

 ユーノが冷酷に告げる。


「既に陛下がリリアーヌ様の正体を知り、国境に軍を出されましたわ。殿下、あなたは『真実の愛』のために、国を売った大罪人として歴史に残るのです。……あ、ちなみにリリアーヌ様は、さっき裏口から逃げようとして、私の私兵にボコボコにされてとっくに捕まりましたわよ?」

「た、助けてくれ、悪かった! マリー、ユーノ! 俺が悪かったから!」


 ジャスパーが床に膝をつき、二人のドレスの裾に縋り付こうとする。

 マリーはそれを、汚いものを見るような目で一瞥し、軽やかに避けた。


「お前たちのような悪人は、暗い地下牢がお似合いだ……、でしたっけ?」


 マリーがかつて王子が放った言葉をそのまま投げ返す。


「二度も言われたので、三度目は殿下に差し上げますわ。……衛兵! この『元』王子を連れて行って!」

 

 悲鳴を上げながら引きずられていくジャスパー。会場にはしんと静まり返った後、貴族たちのひそひそ話と、二人の令嬢の凛とした姿だけが残された。

 




 ――ジャスパー元王子が北の果ての塔に幽閉されてから、数ヶ月。

 王都は、前代未聞の「令嬢たちによるクーデター」の噂で持ちきりだったが、当の本人たちはそんな喧騒などどこ吹く風だった。


「マリー、見て。隣国から届いた新しい果樹の苗よ。これ、私たちの自治領で育てたら絶対に流行ると思わない?」

「素敵ね、ユーノ! なら、北側の丘陵地を開拓しましょう。あそこなら陽当たりも最高よ!」


 ここは王都から遠く離れた、海と緑に囲まれた広大な領地。

 マリーの侯爵家とユーノの公爵家が共同で出資し、国王から特例で認められた「女子自治領」――通称『双乙女の園』である。

 二人は今、領地の見晴らし台で大きな地図を広げていた。

 かつての窮屈なコルセットも、重苦しい夜会のドレスも脱ぎ捨て、動きやすい上質な乗馬服に身を包んでいる。その表情は二度の人生のどの瞬間よりも輝いていた。


「……そういえばマリー、昨日も王都から縁談の釣書が山のように届いていたわよ。どこぞの公爵家だの、隣国の第二王子だの……」

 

 ユーノが可笑しそうに肩をすくめると、マリーは豪快に笑い飛ばした。


「結婚? ふふ、今はもう興味ないわ。だって、隣にユーノがいれば一秒も退屈しないもの」

「あら、奇遇ね。私もよ、マリー。男の人とのお喋りより、あなたと次の事業計画を練る方が、何億倍も心臓が躍るわ」


 二人は視線を合わせ、悪戯っぽく笑い合う。

 二度の死を経て、三度目の人生でようやく手に入れた、誰にも邪魔されない自由。


「ねえ、ユーノ。二回も私たちが処刑された時、あんなに泣いていたのが馬鹿らしくなるくらい、今が幸せね」

「本当ね。あんな小物に振り回される人生なんて、もう二度と御免だわ。……私たちは、私たちのために生きるのよ」


 黄金色に輝く夕日が、広大な領地を優しく包み込んでいく。

 マリーが広げた地図の上には、これから建設する学校、病院、そして二人の新しいお城の予定地がびっしりと書き込まれていた。


「マリー、三度目の正直は……」

「ええ、『大成功』ね!」


 二人は夕日に向かって、高く、高く手を繋ぎ上げた。

 かつて首を刎ねられるために並んだ二人の手は、今、未来を切り拓くために固く結ばれている。

 彼女たちの伝説は、まだ始まったばかりだ。

 この楽園には、もう悲鳴も絶望もいらない。ただ、心許せる親友との、絶えない笑い声があればそれでいい。


「さあ、ユーノ。今夜は祝杯よ! とっておきのワインを開けましょう!」

「もちろん! 未来の女領主たちに、乾杯ね!」


 どこまでも続く青い空と、燃えるような夕景の中。

 最強の親友コンビの笑い声が、いつまでも、いつまでも響き渡っていた。



【END】

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


少しでも面白かったと思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を押してもらうと執筆の大きな励みになります。

ブックマークや評価、誤字脱字報告も嬉しいです。


二度の処刑を共に乗り越えた二人の絆は、恋愛よりもずっと深く、そして何よりも強い。そんな「女子の友情って最高だな」と感じていただけたら幸いです。

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