7.深まる陰謀の影
憲一は、相変わらず基地の周囲を軽バンで走っていた。ドローン持ち込みの噂は広がり、飛行機ファンに紛れた某国のカメラマンたちの姿も目に焼き付いている。しかし、この町での「常識」は、外の世界とは常に異なっていた。世界的に見れば、アメリカが常に他国から「狙われている」のは、その圧倒的な力ゆえの必然であり、時に原因と結果が逆に見えることもあるだろう。だが、この基地のフェンスの内側では、その緊張感こそが「日常」なのだ。
そんな中、憲一の耳に、さらに不穏な噂が届き始めた。先日、老活動家たちが打ち上げた**「ショボいロケット弾事件」**についてだ。憲一はこれを不法投棄として処理し、揉み消したはずだった。しかし、どうやらその裏には、もっと複雑な事情が隠されているというのだ。
「憲一さん、あのロケット弾のことだが……どうも**裏がある**らしい」
情報源は、基地内の下士官だ。彼は顔色を少し青ざめさせながら、憲一に囁いた。「あれ、単なる老人の悪ふざけじゃなかったって話だ。誰かが、あの老人たちを唆して、わざとああいう騒ぎを起こさせたんじゃないかって……。それで、何かを探ろうとしてた連中がいる、とかなんとか」。
憲一の脳裏に、先日目撃した某国のカメラマンたちの姿がよぎった。彼らが、ただドローンを撮影しに来ただけではなかった、とでも言うのか? ロケット弾の件は、彼らにとって、基地の警備体制や対応を探るための「テスト」だったのだろうか。あるいは、もっと別の目的があったのか。
もしそれが事実なら、あの「取るに足らない」事件は、はるかに大きな陰謀の序章に過ぎなかったことになる。憲一がこれまで処理してきたトラブルは、あくまで個人的な「いざこざ」がほとんどだった。だが、今回の件は、国家間の情報戦や戦略的な思惑が絡んでいる可能性を示唆していた。
憲一は、ハンドルを握る手にわずかに力を込めた。自分の「掃除」が、これまで以上に危険なものになるかもしれない。この基地の町で育ち、ただ「たまたま」エージェントと幼馴染だったことで足を踏み入れたこの裏の世界で、彼は新たな局面を迎えることになる。