5.不穏な空の噂
憲一の予感は、どうやら当たっていたらしい。
翌日から、基地周辺の空気はさらに重苦しさを増していた。パトカーや警備車両の巡回は相変わらず頻繁だが、それだけではない。地元の人間には見慣れない、迷彩柄の軍用車両がちらほらと町の道路を走っているのが目についた。そして、いつもの情報源からも、新たな噂が憲一の耳に届き始めた。
「憲一さん、聞いたか? 昨日入ってきたデカいヤツ、**ドローン**を運んできたって話だぞ」
喫茶店で顔を合わせた、顔見知りの警察官が、コーヒーを啜りながら小声でそう言った。ドローン、しかも「デカいヤツ」。憲一の脳裏に、昨日の巨大な輸送機のシルエットがよぎる。まさか、偵察用か、それとも攻撃用か。いずれにせよ、それはただの「訓練」で片付けられるような代物ではないだろう。
そして、基地のフェンス沿いに集まる**飛行機ファン**たちの姿も、今日はいつもと違った。彼らは大型の望遠レンズを付けたカメラを構え、輸送機が着陸した滑走路の方向を熱心に撮影している。だが、その中に、明らかに雰囲気が異なる人間が混じっているのを憲一は見逃さなかった。
彼らは、ただ飛行機を撮るにしては、妙に落ち着きがなく、時折、周囲を警戒するように視線を巡らせる。そして、そのカメラのレンズが、一般のファンが向けないような、基地の奥深い施設の方に向けられている瞬間を、憲一は何度か目撃した。
(**某国の人間のカメラマン**か……)
憲一は心の中で呟いた。柵の向こうは、もはや日本の領土ではない。彼らにとっては、ここは情報戦の最前線だ。ドローンの噂が本当なら、彼らはその「証拠」を欲しているのかもしれない。いつもの「掃除」とは違う、国際的なレベルのトラブルの匂いがしてきた。
憲一の軽バンは、今日も黙々と町を走る。しかし、その視線は、いつも以上に鋭く、周囲の異変を捉えていた。この不穏な空気は、一体何をもたらすのだろうか。