26.コーヒーショップにて
憲一は、駅前のコーヒーショップでグルリンと向かい合っていた。カウンターで注文したばかりのコーヒーからは湯気が立ち上っているが、憲一の顔には疲労の色が濃い。グルリンは何故か憲一に強い興味を抱いているようで、彼の話に熱心に耳を傾けていた。
憲一は、情報空間での「掃除」の難しさについて語った。タケシが次々に仕掛けてくるプロパガンダや偽情報に、いくら削除申請を出しても追いつかない現状。まるでモグラ叩きのように、消しても消しても新たな情報が湧き出すことへの苛立ちを隠せない。
グルリンは、憲一の言葉を遮らずに聞き、カップをゆっくりと回しながら言った。
「そうですよねー。消したら増えますよね」
その言葉に、憲一は少し驚いた。彼女は、彼の苦悩を理解しているようだった。
「そういうときは、**仲間に協力を呼び掛ける**んですよ」とグルリンは続けた。「私一人じゃなく、私のフォロワーとか、共感してくれる人たちに一斉に拡散を呼び掛けるんです。そしたら、あっという間にトレンドになっちゃう」
そして、グルリンは意外なことを言った。「それに、目に触れない場所なんて、気にしなくていいんですよ。ネットなんて、元々**ゴミ箱**みたいなもんだから」
憲一は眉をひそめた。彼の「掃除」の概念とは、あまりにもかけ離れた言葉だった。
「そんなことより、私が呼び掛ければ、そんなつまんない噂なんて、**誰も信じなくなりますよ**」
グルリンは自信に満ちた笑みを浮かべた。その言葉には、SNSという広大な情報空間を自在に操る者だけが持つ、独特の力と確信が宿っていた。疲弊しきっていた憲一の目に、一筋の光が差し込んだ気がした。
憲一は、意を決して切り出した。「この街はな、最近**新しいタイプの戦争**に巻き込まれてる」
グルリンはきょとんとした。「戦争? まあ、世界のどこかではそうかもしれないけど、ここでは平和だと思うけど」
「そうだな。この戦争は、**見えない**。そして、気づかないうちに、誰もが**巻き込まれている**。まるで、ちょっと怪しいサイトの話みたいにな」
憲一の言葉に、グルリンは興味津々といった様子で身を乗り出した。「何ですか、それ?」
「これはな、**超限戦**とも言うんだ」憲一はゆっくりと説明した。「あらゆるものを使って、敵は攻撃してくる。もちろん、インターネットもだ。情報、心理、経済、文化……ありとあらゆる手段が武器になる」
「へえー、なんだか面白そうね」
グルリンの瞳は好奇心で輝いていた。彼女にとって、それは危険な戦いであると同時に、自身の力を最大限に活かせる、新たな「遊び場」のように映ったのかもしれない。




