21.基地の町の超限戦(上)
ガサ入れから数ヶ月、基地の町は平穏を取り戻したかに見えた。だが、その裏で不穏な動きが胎動していることを、憲一は敏感に察知していた。あの**ロケット弾じいさんたち**が、再び動き始めたのだ。「不当逮捕」を叫び、彼らは錆びついた拡声器を手に、基地前での抗議活動を再開した。その声は、以前にも増して熱を帯び、町の空気は再びざわつき始めていた。
憲一はいつものように軽バンで町を巡回していた。基地のフェンス沿い、横田通り、そして商店街のあちこちで、奇妙な**「R」の文字**がデザインされたシールが目につくようになった。「Revolution」か、「Resistance」か、あるいは単なる「Rocket」の頭文字か。シンプルなデザインながら、その文字は見る者に不穏な印象を与えた。
何気なく、電柱に貼られたそのシールに憲一が触れようとした、その時だ。微かな金属の光が彼の視界の隅を捉えた。憲一は指先を止め、注意深くシールを観察する。シールの縁、そして「R」の文字の鋭い角には、光を反射する小さな破片が仕込まれているのが分かった。それは、**ガラス片**や、あるいは**カッターの刃**を細かく砕いたものだった。
「…っ」
憲一は思わず息を呑んだ。これは、ただの抗議活動ではない。無邪気な子供が触れれば大怪我をする。通行人が気づかずに手を触れれば、たちまち血が滲むだろう。憲一は、このシールの裏に潜む悪意、そして活動が**単なるデモンストレーションにとどまらない**ことを直感した。
これは、かつての「ショボい」ロケット弾事件とは質が違う。目に見えない形で、日常生活の中に潜む危害。社会不安を煽り、基地への反感を増幅させようとする、周到に仕組まれた工作の片鱗だった。不穏な空気が町全体を覆い始めていたが、憲一はまだ、その背後で誰が糸を引いているのかを知らない。しかし、彼の「掃除屋」としての直感は、この「R」のシールが、大きな変化の始まりを告げていることを告げていた。
憲一は黙々と軽バンを降り、チリトリとほうきを手に、シールの貼られた電柱へと向かった。ガラス片が仕込まれたシールを、一つ一つ慎重に剥がし、回収していく。人知れず、町を「きれいにしていく」憲一の姿があった。彼の「掃除屋」としての新たな戦いは、すでに始まっていた。目に見える汚れだけでなく、人々の心に深く刻まれようとする見えない傷を、「掃除」する時が来たのだ。




