16.起動する希望
夜半、シェルターの薄暗い部屋で、高橋実咲となったユミはベッドの上に横たわっていた。肌身離さず持っているのは、憲一から渡された一冊の聖書だ。キリスト教徒ではないユミにとって、それを開くことには抵抗があった。だが、これを手にしている間は、憲一と繋がっているような気がしたのだ。
部屋の沈黙の中で、憲一の声が脳裏によみがえる。「困った時は、これを開くといい」。
ユミは意を決した。この状況をどうにかしたい。憲一の言葉を信じてみよう。震える指で、ユミはゆっくりと聖書の表紙を開いた。
その瞬間、微かな機械音が聖書の中から響いた。そして、本の中心部がパカッと開き、まるで生き物のように、小さな物体が飛び出したのだ。それは、手のひらに収まるほどの、精巧な作りの**小型ドローン**だった。
ドローンは、音もなく宙に浮き上がると、小さなプロペラを回転させ始めた。その機体は、先日、憲一が基地周辺で見かけた**アメリカから送り込まれた最新の軍用ドローン**によく似ていた。憲一は、こんなものを聖書の中に隠していたのか。ユミは驚きと同時に、憲一の周到さに震えた。
ドローンは部屋の中を静かに旋回し、その小さなカメラのレンズが、シェルターの壁や天井、そして閉じられた扉を捉えていく。ユミは、これが憲一との唯一の連絡手段であり、この「牢獄」から脱出するための唯一の希望だと直感した。




