11.潜入への道
憲一は、ユミの決意を受け、彼女を危険な組織に送り込むための準備を始めた。相手はただの市民団体ではない。長年の経験で培った彼の直感が、その組織の深淵な闇を告げていた。
「高橋実咲、これが君の新しい名前だ」
憲一は、ユミを自分の作業場の奥にある、誰にも見られない小さな部屋に連れて行った。そこには、彼の「掃除屋」としての裏の顔を支える、様々な道具が隠されていた。憲一は、机の上に用意していた数枚の書類と、一台のスマートフォンをユミの前に置いた。
「これは、**偽の住民票**や、その他諸々の身分を示す書類だ。これからは、この名前で生活してもらう。そして、これは**仕事用のスマートフォン**。通常の通信は全て傍受されている可能性があるから、連絡はこれで取る。決して、自分の本当の名前や、俺との関係を明かしてはいけない。もしバレたら、君の命が危ない」
憲一は、その組織が、表向きは女性支援を謳っているが、実態は全く違うことを説明した。
「奴らは、**ビルを2フロア**持っている。一階が彼らの活動現場で、もう一方が、保護した女性たちの**シェルター**だと称している。だが、それは**実質的には牢獄に近い**。奴らは、保護した女性たちの住民票を取り上げ、身動きが取れないようにする。そして、彼女たちの生活保護費などをピンはねしているらしい。さらに、保護した女性たちを、基地の反対運動に駆り出している。まるで、使い捨ての駒のように」
その組織が、かつてのロケット弾事件を起こした老人たちとも繋がりのある**過激派**であり、さらに**海外の組織と連携している**可能性が高いことも憲一は付け加えた。彼らは、基地を揺るがすためなら、どんな手段も厭わないだろう。
ユミは、目の前の書類とスマホを震える手で受け取った。彼女の協力は、憲一の「掃除屋」としての仕事の範疇をはるかに超える、危険な任務となる。しかし、お腹の子どもを守るため、そして、自分自身の未来のために、彼女は憲一の言葉に頷いた。
「わ、わかりました……高橋実咲、ですね」
憲一は、ユミの顔に浮かぶ不安を読み取った。だが、彼にできるのは、最大限の準備をさせ、彼女の安全を祈ることだけだ。この基地の町で、また新たな「掃除」が始まろうとしていた。




