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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第一章

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第八話 誰が得をするのか

沈黙は、もう重くなかった。


考えるための静けさに変わっていた。


リリアナは、広間を一度だけ見渡す。

誰とも目を合わせない。


「ここまでで、確認できたことがあります」


淡々と、整理する。


「私の行為を直接示す記録は存在しない」

「証言は、印象と評価に基づいている」

「神託は、人の手で要約・管理されている」


どれも、新しい話ではない。

だが、並べられると意味が変わる。


「では、次の確認です」


一拍、置く。


「この断罪によって、

 何が変わるのか」


宰相が、警戒する。


「それは……」


「誰が得をするのか、

 という問いでも構いません」


言い切らない。

ただ、問いを置く。


ざわめきが起きる。


「私が有罪になれば」


リリアナは続ける。


「公爵家は失脚します」

「王太子殿下の婚約は解消されます」

「神殿と王権の結びつきは、より強くなります」


誰かが、息を呑んだ。


事実の列挙だ。

だが、鋭い。


「逆に」


少し間を置く。


「私が無罪になった場合、

 誰が困るでしょうか」


答えは、誰も言わない。


言わないが、

思い浮かべている。


リリアナは、名を出さない。


出す必要がないからだ。


「私は、誰かが私を陥れたと主張するつもりはありません」


視線を下げたまま、言う。


「ただ、結果として、

 この断罪は、

 特定の立場を強くし、

 特定の家を切り捨てる」


宰相の指が、わずかに動く。


「それは、政治だ」


低い声だった。


「はい」


リリアナは即答する。


「だからこそ、

 裁きとは切り離す必要があります」


王太子が、苦しそうに口を開く。


「……お前は、

 この場が政治だと言いたいのか」


「いいえ、殿下」


顔を上げる。


「政治が入り込める形の裁きだ、

 と言っています」


否定しない。

だが、逃がさない。


「証拠が曖昧で、

 解釈に幅があり、

 管理が閉じている」


一つずつ、置く。


「その裁きは、

 利用されます」


誰も、反論できない。


リリアナは、最後に一言だけ添える。


「私は、

 誰かを告発していません」


「ただ、

 この断罪は、

 公平に設計されていない」


それだけだった。


だが、その言葉は、

この場の全員に等しく届いた。


――もし、自分が同じ立場なら。


そう考え始めた者が、

確実に増えていた。

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