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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第一章

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第二話 最初の矛盾

大広間は静まり返っていた。


リリアナの「承知しました」という一言が、

思った以上に重く残っている。


宰相ヴィルヘルムは、視線を戻す。


「では、弁明を――」


「いいえ」


遮ったのは、リリアナだった。


声は低く、落ち着いている。

拒絶でも挑発でもない。

ただ、順序を正すような言い方だった。


「弁明の前に、確認が必要です」


再び、ざわめき。


宰相は表情を崩さない。


「すでに確認は済んでいる。証言も、証拠も――」


「それです」


リリアナは言った。


「今のお言葉の中で、“証拠”という言葉が使われました」


それだけだった。


だが、空気が少し変わる。


宰相は続ける。


「複数の証言があり、状況証拠も揃っている」


「承知しています」


リリアナは頷いた。


「では、お尋ねします。その“証拠”とは、

 事実を示すものでしょうか。

 それとも、印象を補強するものでしょうか」


一瞬、間が空いた。


質問自体は、難しくない。

だが、この場で問われるとは思っていなかった。


宰相は答える。


「……事実に基づく証言だ」


「事実、とは」


リリアナはすぐに返す。


「誰が、いつ、どこで、何をしたか。

 そこまで特定できる内容、という理解でよろしいですね」


宰相の口が、一瞬止まる。


皇太子が視線を向けた。


「リリアナ。揚げ足取りは――」


「揚げ足ではありません、殿下」


視線は逸らさない。


「裁きの前提確認です」


再び、沈黙。


宰相は、証人に目を向ける。


「先ほどの証言で十分――」


「では、その中の一つを」


リリアナは言った。


「『不敬だと感じた』という証言がありました。

 それは、“行為”でしょうか。

 それとも、“感想”でしょうか」


証人の一人が、言葉に詰まる。


「……それは……」


「感じた、という表現でしたね」


責める口調ではない。

淡々としている。


「感じたこと自体を否定するつもりはありません。

 ただ、それは“事実”ではなく、

 評価です」


空気が、確実に変わった。


誰も反論しない。

だが、誰も頷けない。


宰相は、口を開く。


「評価であっても、多数が一致すれば――」


「それは“空気”になります」


リリアナは即答した。


「裁きの材料ではなく」


一瞬、ざわめきが起きた。


まずい、と気づいた者もいる。


だが、もう遅い。


「本日は断罪の場だと伺いました」


リリアナは続ける。


「であれば、なおさら確認が必要です。

 何をもって罪とするのか。

 その基準が曖昧なままでは、

 結論だけが先に立ってしまう」


宰相は、すぐに答えない。


それが、答えだった。


リリアナは、それ以上踏み込まない。


今は、十分だ。


彼女は一歩、下がった。


「以上です。

 弁明は、その後で」


大広間に、重い沈黙が落ちる。


誰もまだ、無罪だとは思っていない。

だが。


――この裁き、思ったより脆い。


そう感じ始めた者が、確実に増えていた。

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