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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第二章

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第一話 整いすぎた訴え

宰相府に、書類が届いたのは朝だった。


封は王権の印。

扱いは「特別調査扱い」。


つまり、最初から重い。


宰相ヴィルヘルムは、机の前でそれを開いた。

同席しているのは、皇太子ユリウスと、王権直属の調査官アーデルハイト。


三人とも、口数は少ない。


一枚目。


「告発状」

提出者は、地方伯家。

被告は、同じ地方の子爵家の若い夫人。


罪状は、横領と背信。

さらに、神殿への不敬。


二枚目。


「証言録」

証人は四名。

伯家の家令、神官、騎士、そして使用人。


三枚目。


「物証一覧」

帳簿の写し。

手紙の写し。

金貨の記録。


ここまで揃っていれば、普通は終わる。

地方裁判なら、即断もあり得る。


だが、ユリウスは指を止めた。


「……整いすぎている」


宰相も頷く。


「無駄がない。

 筋が良すぎる」


調査官アーデルハイトは、淡々と紙をめくる。


「証言の文言が近い。

 書き方が似ている」


ユリウスが、低く言う。


「また、同じ匂いがする」


宰相は、机の上に書類を置いた。


「地方案件を、ここまで上げてくる理由が必要だ」


「被告の夫人が、王都に縁を持っている」


調査官が答える。


「旧公爵家の分家筋。

 ただし、今は弱い」


ユリウスは、少し黙ってから言った。


「……狙いやすい」


宰相は否定しない。


「問題は、狙いが何かだ」


そこまで言って、宰相が書類の端を軽く叩いた。


「まず、形式を確認する」


調査官が頷く。


「記録の原本確認。

 証言の聞き取り経路。

 帳簿の真正性」


淡々とした言葉だ。

だが、ここに来るまでに一度、国は痛い目を見ている。


ユリウスは、短く言った。


「再審の手順で行け」


宰相は、少しだけ目を細める。


「殿下。

 地方の貴族は反発します。

 “なぜ王都が口を出す”と」


「だからこそだ」


ユリウスは即答した。


「裁きを疑える形にしないと、

 次はもっと酷い形で壊れる」


宰相は、ゆっくり頷いた。


「分かった。

 形式を整える」


そして、書類の最後のページをめくる。


そこに、一行だけ追記があった。


――被告は、以前、聖女フィオナ・セレネの神託に疑義を示したことがある。


空気が、止まった。


ユリウスが、息を吐く。


「……繋げてきたか」


宰相の声が低くなる。


「地方の揉め事に、

 聖女の権威を乗せて、

 断罪を固めるつもりだな」


調査官は、淡々と確認する。


「この追記は、誰が書いた」


「提出者側の付記だ」


宰相が答える。


「つまり、最初から狙っている」


ユリウスは、しばらく黙り込み、言った。


「聖女は、関わっているのか」


宰相はすぐに答えない。


答えられないのだ。


「関わっていなくても、使われる。

 関わっていれば、もっと厄介だ」


調査官が、紙を揃える。


「被告夫人を、王都へ呼びますか」


宰相は、ユリウスを見る。


ユリウスは、短く頷いた。


「呼べ。

 ただし、最初から裁くな」


宰相が、淡々と命じる。


「王権の名で、事情聴取。

 身柄拘束はなし。

 記録保全を優先」


調査官が、静かに言った。


「……同じことは、繰り返さない」


ユリウスは、机の端を見つめたまま答える。


「繰り返させない」


それは、誓いに近かった。


そして、その日の午後。


一通の報告が、宰相府に届く。


被告の夫人が王都へ向かう途中、

道中で襲われたという。


事故ではない。

護衛が一人、負傷している。


宰相は、紙を握り潰しそうになった。


「……裁き以外が、速い」


ユリウスが、低く言う。


「来る前に口を塞ぐ気だ」


調査官が立ち上がる。


「護衛を増やします。

 王権の名で動かせる部隊を」


宰相は頷く。


「急げ」


その場に、短い沈黙が落ちた。


そして、ユリウスが、ぽつりと言った。


「……リリアナに知らせるべきか」


宰相は、躊躇した。


彼女は表に出ない。

それが、今の均衡だ。


だが、これは「裁き」ではない。

裁きに至る前の、暴力だ。


調査官が、淡々と言った。


「彼女は、制度を作る人ではない。

 ですが、問いを置ける人です」


ユリウスは、決めた。


「知らせろ。

 協力を求めるのではない。

 ただ、状況を共有する」


宰相は、静かに頷いた。


「……承知した」


裁きが遅くなった世界で、

別のものが速くなる。


その現実が、はっきり形になった。

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― 新着の感想 ―
これはまた賢しい奴が来たもんだ・・・。 白黒はっきりしないと後々尾を引く事になりそう。
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