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「断罪の令嬢 ― 弁護士の記憶が織りなす逆転劇」  作者: 月白ふゆ
第一章

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転章 余白

冬が明けても、宮廷の空気は完全には戻らなかった。


人は忘れる。

けれど、忘れ方を変えることもある。


以前なら、

「聖女が言った」

「宰相が決めた」

それで終わっていた。


今は、終わらない。


「記録は?」

「誰がまとめた?」

「その言葉は、どこから来た?」


誰も声を荒らしてはいない。

ただ、確認する癖が残った。


リリアナ・ド・ヴァルフォードは、表舞台に出ない。


屋敷に戻り、

社交も最小限にし、

静かに過ごしている。


それでいい。

彼女は、何かを変えようとはしていない。


変えたのは、彼女ではなく、

彼女が置いた問いだ。


宮廷の隅で、誰かがそれを拾う。

神殿の奥で、誰かがそれを思い出す。

宰相府の書類の端で、誰かがそれを写す。


そうやって、

「裁き」は少しだけ遅くなった。


慎重になった。

疑いを許すようになった。


――その分、別のものが動き出す。


裁けなくなった人間は、

別の方法で相手を潰そうとする。


裁きが遅くなった世界では、

“裁き以外”が速くなる。


噂。

取引。

密約。

見えない圧力。


それらは、表に出ないぶん、厄介だった。


そして、春の気配が差し始めた頃。


宮廷の外から、

一つの訴えが持ち込まれる。


誰もが、最初は軽い揉め事だと思った。

いつものように、どこかの家が、どこかの家を叩く話だと。


だが、提出された書類は整いすぎていた。

証言は揃いすぎていた。

話は、美しすぎた。


――まただ。


そう思った者が、少数、確かにいた。


その中に、皇太子も含まれていた。

宰相も含まれていた。

神官長も含まれていた。


そして、屋敷の机で、

リリアナの引き出しの奥に眠る紙もまた、

静かに役目を取り戻していく。


次の裁きは、

次の断罪は、

別の顔をしてやって来る。


だからこそ。


問いは、必要になる。


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