第十五話 断罪のあとで
再審が終わってから、宮廷は静かだった。
騒ぎがないわけではない。
ただ、誰も大声で語らなくなった。
噂は、囁きに変わる。
断定は、疑問に変わる。
リリアナ・ド・ヴァルフォードは、
元の屋敷に戻っていた。
処分は凍結された。
名誉は、完全には戻っていない。
だが、失脚もしていない。
――宙に浮いた立場。
使用人たちは、以前と変わらぬ態度を保っている。
それが、かえって重かった。
「お嬢様」
老執事が、静かに言う。
「来客は、当面お断りしております」
「ええ、それでいいわ」
答えは短い。
今は、誰とも会いたくなかった。
部屋に戻り、窓を開ける。
冬の空気が、ゆっくりと流れ込む。
静かだ。
裁きが終われば、
何かが解決すると思っていた。
だが、現実は違う。
何も戻らない。
ただ、進み方が変わるだけだ。
神殿では、聖女フィオナが姿を見せなくなった。
罰を受けたわけではない。
だが、以前のように語ることもない。
神託は続いている。
ただし、言葉は減った。
神官たちは、
記録を残す前に、
何度も確認するようになった。
それが、今回の“結果”だった。
宰相ヴィルヘルムは、
表舞台に立ち続けている。
だが、
以前のように断定はしない。
判断は、常に複数人で行われるようになった。
王太子ユリウスは、
しばらく人前に出なかった。
そして、再び現れたとき、
言葉遣いが変わっていた。
即断しない。
確認を求める。
小さな変化だが、
確かなものだった。
リリアナは、それらを遠くから見ている。
関わらない。
干渉しない。
ただ、覚えている。
――裁きは、
誰かを救うためにあるべきだ。
罰のためではない。
その夜、
机に向かい、紙を一枚取り出す。
書き始めたのは、
法律でも、神託でもない。
「判断の手順」
前世で、何度も使ったものだ。
事実確認。
根拠の整理。
解釈の範囲。
責任の所在。
この世界に、
完全に合うとは思っていない。
だが、
考える道具としては、十分だ。
書き終えた紙を、
引き出しにしまう。
今は、使わない。
けれど、
いつか必要になる。
そんな予感がしていた。
断罪は終わった。
だが、
彼女の役目が終わったわけではない。
静かな冬の夜。
リリアナ・ド・ヴァルフォードは、
ただ、次に備えていた。




