第十二話 伝言は、必ず歪む
調査は、淡々と進んだ。
次に机に並べられたのは、
神託そのものではない。
伝達の記録だった。
調査官アーデルハイトが、書類を整理する。
「神託は、聖女フィオナが受け取る」
「それを神官が聞き取る」
「要約し、文書にする」
「宰相へ提出」
「王太子へ報告」
指でなぞりながら、順に示す。
「この五段階を経ています」
誰も異論はない。
「では、確認します」
視線が、聖女へ向く。
「聖女様。
神託の内容を、
その場で全文、
言葉通りに話しましたか」
フィオナは、少し考えた後、頷いた。
「……はい。
神のお言葉は、
そのままお伝えしました」
嘘ではない。
だが、それだけでもない。
「次に」
調査官は神官を見る。
「聞き取りは、
一語一句、記録しましたか」
神官は、首を横に振る。
「要点を、
分かりやすくまとめました」
「要点を決めたのは」
「私です」
小さな声だった。
調査官は、頷く。
「次に、その要約を」
宰相を見る。
「そのまま王太子へ?」
宰相は、否定した。
「重要部分のみを抜粋し、
政治的影響を考慮した」
「つまり」
調査官が言う。
「ここで、
二度、取捨選択が行われている」
誰も否定できない。
「最後に」
王太子へ視線が移る。
「殿下は、
文書をそのまま読みましたか」
王太子は、少し沈黙してから答えた。
「……要点の説明を受けた」
それで、すべてが揃った。
調査官は、机に手を置く。
「伝言は、
誰も嘘をつかなくても歪みます」
ゆっくり、言葉を置く。
「善意でも、配慮でも、
立場でも」
「五段階を経れば、
最初の言葉とは、
別物になる」
リリアナは、黙って聞いている。
調査官は続ける。
「そして今回、
その歪みは一方向にだけ作用した」
一拍。
「リリアナ・ド・ヴァルフォードを、
罪に導く方向へ」
空気が、重く沈む。
誰も否定しない。
なぜなら、
それは“誰かの悪意”ではないからだ。
「つまり」
調査官は、結論を置く。
「この断罪は、
歪んだ伝言の積み重ねによって成立している」
その言葉で、
この再審の輪郭が、はっきりした。
聖女フィオナは、初めて顔を上げた。
驚きでも、怒りでもない。
――理解してしまった顔だった。
自分の言葉が、
自分の知らない場所で、
別の意味になっていたことを。
調査官は、最後に言う。
「次は、
この歪みが、
誰の判断で固定されたのかを確認します」
それは、
もう偶然では済まない領域だった。




