第十話 再審という名の舞台替え
大広間の空気が、ゆっくりとほどけていく。
断罪の場は、終わった。
結論が出たからではない。
前提が崩れたからだ。
宰相ヴィルヘルムが、短く指示を出す。
「再審に移行する。
本件は、王権管理下の特別調査とする」
騎士たちが動き始める。
証人は、その場に留め置かれた。
「記録の保全を優先しろ」
「神殿側の文書は、写しではなく原本を」
言葉が、具体的になっていく。
それだけで、場の緊張が変わった。
裁きではない。
調査だ。
王太子ユリウスは、深く息を吐いた。
「……ここまで来るとは思わなかった」
誰に向けた言葉でもない。
リリアナは、何も言わない。
今は、聞く側だ。
神官長が、低い声で抗議する。
「神殿の文書は、
外部の干渉を――」
「王権の管理下だ」
宰相が遮る。
「神殿の権威を疑っているのではない。
疑われない形にするだけだ」
その言葉に、反論は続かなかった。
聖女フィオナは、白い指を強く握りしめていた。
顔は俯いたまま。
だが、震えは止まっている。
――守られる側から、
調査される側へ。
立場が、静かに変わった。
「リリアナ・ド・ヴァルフォード」
宰相が、名を呼ぶ。
「再審が終わるまで、
公爵家への処分は凍結する」
それは、事実上の保護だった。
「行動制限は最小限とする。
ただし、調査への協力を求める」
「承知しました」
短く答える。
それ以上は、要らない。
王太子が、視線を向けた。
「……お前は、
最初からこれを狙っていたのか」
リリアナは、首を横に振る。
「狙ったのは、
公平な場です」
それだけだった。
宰相は、全員を見渡す。
「本日の審理は、ここまでだ」
宣言が落ちる。
人々が動き出す。
だが、先ほどまでの好奇心はない。
皆、考えている。
――もし、自分だったら。
その想像が、
この裁きの意味を変えていた。
リリアナは、静かに大広間を後にした。
廊下は冷たい。
だが、足取りは軽い。
まだ、無罪ではない。
だが、孤立でもない。
舞台は変わった。
次は、調査の場だ。
そして――
そこで、
本当に試される者が現れる。




