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氷焔再び

「――そういえばリィナ、魔力の使い方は分かったけど、能力ってどうやったら使えるの?」


 ルーナからの帰り道。秋の穏やかな昼空の下、司はママチャリの荷台に座ったリィナに話しかけた。名古屋駅が遠くに見え、黄色く色付いた街路樹が並ぶ歩道には、サラリーマンやパンクファッションの若者が歩いている。


「んー……私の銀糸の場合はなんかこう、指先から糸に絞った魔力をビュバッ! って捻り出す感じだな。まあ能力によってやり方は違うらしいが」


「そっか……僕にもそういう力があるのかな?」


 片手をハンドルから離し、ビュバッ! とイメージしてみる司。だがそんな上手くいくはずもなく、指先に白い魔力が集まるのみ。


(ビュバッじゃないのかな……シュバ! ズビビビッ! ……違うか……むず)


 司がぶつぶつ呟きながらも通行人を華麗に避けていく。リィナは司の服に掴まりながら、「ふふふふっ」とドヤ顔を全開にした。


「そう焦るな若人よ、ヌシにはまだ早い。そもそも能力は魔力を完璧に使えるようになってから何年もの修行の果てに行き着く所業じゃ」


「もしかして修行と所業でかけてる?」


「大当たり、確変突入じゃ若人。喜びに打ち震えるがよい」


 難しい顔をしていた司の顔がほころぶ。


「…………ぷふっ、いつまで老師キャラ続けるのリィナ?」


「ふっ、そろそろ飽きたからお終い!」


 リィナは満足したように口調を変え、司の体に腕を回した。ついでに彼の背中に頬を当てると、「一緒に強くなろうね、司」と優しく呟いた。


「……うん、ありがとうリィナ」


 司の顔も自然にほころぶ。早く能力に目覚めてダークをなんとかしたいと思いながらも、背中に感じる温もりに幸せを噛みしめる。


(やっぱり僕、リィナのこと……)


 司の気持ちが揺らぐ。抑えていた想いが溢れそうになる。


「ねえリィナ……僕……」


 不意に口を突いた言葉。だがその先は、視界の先に見えた人影――『ジャンダラー』の店先にいた二人に止められることになった。


「ん? あ、司せんぱーい!」「お! 司にリィナ姫じゃないっすか!」


 バイト終わりの二人。オレンジ色のパーカーを着た勇と、黒のスキニージーンズとアニメキャラジャケットの咲希が、二人に気が付き手を振っていた。


「お疲れ様、二人とも」


 キキィーッ! とママチャリを止める司。リィナも人前ということもあり、司の背中から顔を離し「ご苦労、若人たちよ」とまた老師キャラに戻った。


「リィナ姫、どこかお出掛けしてたんですか?」


「いや、少し野暮用を済ましてた。今から帰るところだ」


 キラキラした顔の勇に、リィナが澄ました顔で答える。すると咲希が何か疑うように司とリィナを交互に見た。


「……もしかして先輩たち、デート?」


 咲希がぽつりと漏らした言葉。勇は「へ?」と驚き、司はピキッ――と固まった。


「――はっ⁉︎ いやいやいや、何言ってるの咲希! 僕とリィナは……えっと……」


 家族――そう言いかけた司が口を噤む。先ほど溢れかけた言葉と気持ちは、既に『家族』の域を超えていた。そんな司に構わず、リィナが勝ち誇ったように咲希に答える。


「ふふん。だったらどうしたんだ咲希? 羨ましいか?」


「り、リィナも何言ってるの⁉︎ ミオンさんの所に行っただけでしょ⁉︎」


「む! バラすな司! 私は咲希に話していたんだ!」


「それとこれとは話が別!」


 まるで夫婦漫才のような二人のやり取りを眺めた咲希が、リィナをキッと睨み付ける。リィナも彼女の視線に気がつくと、悠然と咲希を見つめ返した。


「……意外ですね。リィナさんもそういう冗談言うんだ」


「……冗談に聞こえたか? そう思うのは勝手だけどな」


 場の空気が凍てついていく。二人の間に火花が散り、バチバチと燃え上がっていく。


(な、何だこの空気⁉︎ どういう状況だ⁉︎)


 事態を飲み込めない司が勇に視線を移す。勇は司を呆れたように見ていた。


「司はどこまでもピュアだな。羨ましいぜちくしょう」


「何のこと勇さん⁉︎ 早く二人を止めようよ!」


「いや、女の戦いに巻き込まれるのはごめんだ。――にしても寒いな。ガチで空気が凍ってるみたいだ」


 勇が体をブルッと震わせる。


「確かに……これが女の戦い……?」


 司も釣られて自分の肩を抱く。辺りを包む冷気。とても秋とは思えない凍える風に乗り、ツンとした匂いが司の鼻を刺激した。


「あれ? この匂いって…………」


 覚えのある匂い。ザラの顔、魔力を思い出した司がハッと顔を上げると――。


「……『鍵』、見つけた」


「これで会うのは三度目ね。九条司、月下リィナ」


 人混みに紛れ、ザラとリューランが姿を現した――。



 ――黒いボンテージファッションのザラと兜を外した黒騎士姿のリューランの襲来。道行く人々は彼女たちの褐色の肌と体を包む黒い魔力に、距離を空けてスマホを構えている。


 騒つく周囲の喧騒の中、司は初めて会ったリューランに頭を下げた。


「こんにちはザラ。そっちの大きいお姉さんは……ダークの友達?」


「ええ、アンタを攫いに来たの。……悪いけど、今日は本気でイカせてもらうわ」


「……『氷結』のリューラン……よろしく」


 律儀に頭を下げ返すリューランに、司も「あ、これはご丁寧にどうも」と返す。


 司の言葉は能天気だが、その表情は固い。リィナに施された修行により、二人の魔力の濃度をハッキリ認識していた。


(……今なら分かる。ザラってこんな凄い魔力だったんだ。……それにリューランさん、ザラより強そう)


 司の認識は正しい。能力の違いにより、強さの単純な比較はできないが、リューランの魔力量はザラの上を行く。それは二人と対峙したリィナも把握済みだった。


「何度来ようが無駄だ。お前たちでは私に勝てん。私に負けたのを覚えてないのか?」


「確かにね……。だけどそれは一対一で戦った場合、でしょ?」


「……これは任務。二人でリベンジする」


 リィナの挑発を受け、ザラとリューランが同時に踏み出す。氷の粒と焔鱗が空気に混ざり、白と赤のコントラストがキラキラと風に乗り舞い上がる。


「お前たち、危ないから下がってろ。司を攫おうなど許さん……っ!」


 リィナもママチャリから降りる。初めからデストロイモード全開。握ったパチン銃に白保留が装填され、左手の甲には銀糸で紡がれた白銀の剣が伸びている。


「事情はサッパリだけど、俺もご一緒しますリィナ姫。あの時助けてもらった恩、ここで返さなきゃ男じゃねえ!」


「ちょ、斉藤先輩! 危ないから下がりますよ!」


「お、おい離せよ咲希! 俺だって戦えるんだぜ⁉︎」


 勇がパーカーの腕を捲くり前に出るが、咲希が慌てて彼のベルトを引っ張る。咲希は見た目より力があるのか、抵抗する勇がズルズルと引きずられていく。


「良い子だ咲希。勇が飛び出さないよう見張っててくれ」


「分かりましたよ。ちゃっちゃと終わらせて下さいリィナさん。――リィナさんが強いのは、私でも知ってるんですから」


 咲希にとっては恋のライバル。だが彼女は、リィナの強さをしっかり認めていた。リィナは「ふっ」と目を閉じると――隣に立った司を見上げた。


「……何してるんだ司? あいつらの目的はお前らしい。早く離れ……」


「――ヤダ、もうリィナ一人に戦わせない。それにザラたちの狙いが僕なら逃げても無駄だよ。……一緒に強くなるって言ってくれたじゃん」


 司の体を白色魔力が包んでいる。その横顔にはリィナへの信頼と愛情、確固たる決意が宿っていた。


(守られるだけじゃない。僕だってリィナを守りたい。……母さん、力を貸して)


 握ったペンダントが薄く光る。司の想いを汲み取り、母の愛が息子の魔力をさらに引き出す。司の魔力が白から青に変化した。


 そんな彼を見たリィナは――。


「………………激アツすぎ」


「へ?」


 司の行動に、頭と体が沸騰していた。まだ魔力に目覚めたばかりの司。戦わせるわけにはいかない。私が守らないと。――そんな思考も熱で溶け、頭から指先までマグマのように熱くなる。込み上げる嬉しさで胸がつかえ、卒倒しそうになる。


「…………絶対、私が守るからね、司」


 噴火しそうな熱情。大好きな彼にぶつけたい想いを魔力に変える。全ては司を守るため。目の前の敵を追い払い、彼の胸に飛び込むため、リィナは真紅――ではなく、金色の魔力の柱で秋空を貫いた。


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