表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

4過去と弟子





弟子になってからのクライドは、“優秀”の一言に尽きた。

魔法のコントロールを教えれば直ぐに使いこなし、あれだけ苦しめられていた魔獣の毒も、数日後には自分で完全に解毒していた。


その後に教え始めた光魔法も、魔獣や使い魔の知識も、みるみるうちに吸収していくクライドに、私は“天才”とはこういうことを言うのだろう、と毎日が驚きの連続だった。



また、クライドに驚いていたのは私だけではなく、魔法棟の“偉い人”たちもだった。

どうやら彼は、私と出会う前までは周りを見下し、教師の教えも素直に聞かない問題児だったらしい。

私の魔法の教えを素直に聞くクライドを見て、彼に魔法を教えた先輩達は皆顎が外れる程驚いたのだとか。


「アイツ、人の心、あったんだな…」


私の直属の上司であるバイロン副団長は、彼に初めて敬語を使われて、そっと眉間を押さえてそう言った。


…そんなバイロンに、「バイロン副団長は尊敬しているから、優しく接してあげて欲しい」と私がクライドにお願いした翌日から突然態度が変わった、なんて事実は言えなかった。





そうして1年も経たないうちに、私はクライドに教えることがなくなってしまった。

丁度その頃、魔法棟の“偉い人”に呼び出され、「クライドは別の魔法使いの元で学ぶことになった」と知らされる。


魔法使いは厚い待遇を受ける代わりに王都に雇われている立場だ。基本的に、上からの命令は絶対。それに、もう私が教えられることはないどころか、水魔法に関しては教えられる立場になっている。

クライドとの日々が終わることに寂しさを覚えながらも、彼の今後のことを思うとそれが良いのだろうと、私は素直にその命令に従った。


「クライド、これからも頑張ってね」


そう、笑顔で送り出した私に、クライドはにっこりと笑って、


「はい、これからもよろしくお願いします。」


そう答えたのだった。






クライドの返事に少しの違和感を感じながら過ごして数日。私は再び“偉い人”に呼び出された。

指定された部屋へ行くと、何故か荷物を抱えたクライドが“偉い人”と共に立っていた。


「クライドは…君の元で仕事をしながら学ぶことになった……」

「ということですので、これからもよろしくお願いします、師匠。」


疲労を滲ませた様子の“偉い人”と対照的に、クライドは送り出した日と同じにっこりと笑みを浮かべていた。


なんと、彼は新しい師匠の元に付くや否や、「僕の師匠はシェリーだけです」とその辞令を拒否し、一切言うことを聞かなくなってしまったのだ。

「師匠の元へ戻れないのなら、魔法棟では働かないし師匠を連れてこの国を出ていく」…そう言って頑として態度を変えないクライドに、魔法棟の人達の心はたった3日で折れた。


そうして彼と交渉し、妥協案として“シェリーのもとで仕事をしながら、魔法を学ぶ時のみシェリーの元を離れる”ということになった…らしい。


「魔法棟で働かずこの国を出るって、私、そんなこと聞いていないのだけど…」

「言ってませんからね。」

「あ、そう…」


悪びれもなくそう言うクライドに、呆れてしまう。

けれど、私自身、また彼と過ごせるということが嬉しく、「仕方ないわね」と笑ってしまう。私の本心が漏れてしまっていたのか、クライドも綺麗な黒い瞳を蕩けさせて、ふにゃりと笑ったのだった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ