2過去と孤独
ふわふわと微睡む意識の中で、見覚えのある女性が白いもふもふの魔獣に顔を埋めて呟く。
「生まれ変わったら、そこそこお金持ちの家の魔獣になりたい。」
それが魔法使いである私、シェリーの口癖だった。
私の人生は、可もなく不可もないものだったと思う。
山に囲まれた平民の家に生まれた私は、幼少期はごく一般的な農民として育った。
森の中で魔獣が身近にいる生活をしていたにも関わらず、私は生まれながらになぜか魔獣に嫌われていた。
「おーよしよし、こわくないよ……っ痛!!」
ふわふわ、もこもこした可愛らしい魔獣が大好きなのに、近寄るだけで逃げられ、触ろうとすれば噛まれるし引っ掻かれる。
「なんで私って、魔獣に嫌われちゃうの…?」
その答えを知ったのは、7歳の誕生日で行われた魔力検査がきっかけだった。
1歳の誕生日を迎えたある日、私達家族の家は大型の魔獣に襲われたらしい。
魔法を使えない両親は、夜間の突然の襲撃に為す術もなく喰い殺され、他の村人が助けに入った頃には、泣いている私の周りだけを避けるように血溜まりが広がっていたという。
何も分からぬまま近くの村の親戚の家に引き取られた私は、その事件の悲惨さと異様さから、腫れ物に触るような扱いを受けて育った。
その後数年経ち、成長した私が魔獣に避けられていたことで、さらに親戚や村の人達からの避けられ、私は“近寄ってはいけない人間”として育てられた。
そして、7歳の誕生日。
魔力検査の日。
この国の人間の約半数は、魔法を使うことができ、その中でも高い魔力を持つ者のは1割程。
魔法を使えると言っても、戦闘や治療、建築といった魔法を使えるのは高い魔力を持つ者のみで、魔力の低いものはせいぜい一瞬ハンカチを浮かせる程度の魔法しか使えない。
その為、魔力を使える者…即ち“魔法使い”は国家間で保護され、国の為に働くことを前提に高い待遇を受けることができる。
この国では、希少な魔法使いを活用…もとい、保護するため、7歳の誕生日を迎えた者全員に魔力検査を行う習わしがあった。
「素晴らしい…!この子は、光魔法の適合者です!」
その魔力検査で高い魔力と希少な光魔法の適合者であることが判明した私は、国に保護されることが決まった。
私を手放せると知った親戚は、嬉々として私を国に渡し、私はごく少ない荷物と共に、魔法使い専用の孤児院に引き取られた。
その後は、選ばれた魔術師として、無償で生活の世話を受け、その代わりに日々魔術の訓練を行う日々。
同じような年代の子はいたものの、光魔法の適合者という理由で特別に扱われた私は、ここでも馴染むことができなかった。
「もふもふ…やはりもふもふは正義……」
そんな私を癒したのは、魔獣だった。
魔力操作ができるようになって、あの日、私だけが生き残った理由と魔獣に嫌われていた理由が分かってきた。
高い魔力が抑えきれず、身体から魔力が溢れ出していることが原因だったのだ。
高い魔力故、溢れた魔力が低級の魔獣を怯えさせ、強く賢い魔獣ほど、私には手を出さない。
魔力をコントロールできるようになると、光属性の魔力が心地良いようで、むしろ魔獣から好かれるようになり、私は魔獣や使い魔に関連する魔法が得意分野になった。
私は希少な光魔法と高い魔力を持って、幸運だった。
ただ、その力を得たことで、人間が信用出来なくなってしまった。
そんな私は、可愛らしい魔獣に囲まれ、もふもふしながら暮らすことが一番の幸せだった。