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19研究と翻訳





「クライド、これ。モーリス所長がお前にって。」

「…何ですか、これは?」

「さぁ?俺に聞かれてもな…」


モーリスと出会って丁度一ヶ月になる頃。

ある日突然、バイロンがクライド宛の荷物を預かってきた。


「なんかでっかいですねぇ…開けてもいいですか?」

「人の荷物を開けようとすんなよ…」

「どうぞ。」

「いいのかよ!」


両手で抱える程の大きさのそれを、マイラが興味津々に手に取った。

バイロンがそれを諌めるが、クライドは気にしていないようで開けるよう促す。


私も箱の中身に興味が湧いて、クライドの机に飛び乗った。


(開けたら爆発する、とかないよね…?)

「では、開封しまぁす!」


モーリスに対しやや失礼なことを考えていると、早速マイラが箱を閉じていたテープを剥がした。


その勢いのまま箱を開けると、出てきたのは良くわからない配線がいくつも繋がった機械と、一通の封筒。

マイラは、“クライド君へ”と書かれた封筒を彼へ渡すと、機械を持ち上げて箱から取り出した。


「よっこいしょ…、と?わぁっ、意外と軽い…」

「…何だそれ?」

(魔力を感じる…ということは、魔道具?)


2人と一匹(私)で機械を覗き込む。

魔力は感じるがそれらしいスイッチ等は見当たらず、何の音も匂いもしない。


「なるほど。…貸してください。」


すると、手紙を読んでいたクライドがその機械を手に取った。

魔力の気配がして、機械の一部が青く点灯する。


「“魔獣の言葉を翻訳する機械”……らしいです。」

「翻訳ぅ?そんなことできるんですか??」

「さぁ?試作機だと書いていますね。」

「まー、あぁ見えてモーリス所長は天才研究者だからなぁ。」

「天才というより、“奇妙”という意味も含めての奇才ですね。…ネーミングセンスは無さそうですが。」


クライドが封筒に入っていた手紙のうちの1枚を私たちの前に置く。

そこには、“翻訳くん1号”という大きな文字と、図解付きの細かな説明書きが記されていた。


「これ、どうやって使うんですか?」

「魔力を流せば機動する、らしいですよ。先程魔力を込めてからずっとランプが点灯しているので、もう機動しているのではないですか?」

「何も起きねぇけど…」

(これ、本当に翻訳できるの…?)


そう思い、機械に近付いたときだった。


『ダイスキニャン!』

(……えっ?)


突然機械が話し出し、一歩後退る。

クライド達も驚いたように目を見開いていた。


『モット、イッショニ、イタイワン!』

『スキスキ!』

『カマッテホシイニャン!』

(あ、語尾は安定しないんだ…)


私は何も言っていないのに、機械は関係なく話し続ける。

やや引き気味の私を見て、マイラが首を傾げた。


「……なんか、天使ちゃんがそう言ってるようには見えないんですけどぉ」

「同じく。それ、壊れてるんじゃないか?」

「いえ、素晴らしい機械ですね。彼女の気持ちに間違いありません。」


クライドに抱き寄せられ、「僕ももっと一緒に居たいですよ」と顔を擦り付けられる。


(いや、今はそんなことを考えてないし、やっぱり壊れてる……というか、失敗作なのでは…?)


顔を擦り付けられながらそんなことを考える。バイロンは呆れたように「お前の天使様、目が死んでるぞ」とつっこんだが、クライドはそれを華麗にスルーした。


そうしているうちに、機械から発される内容が徐々に変化していく。


『イッショニイタイニャン』

『ソノタメニ…タショウノギセイモ、シカタナイワン』

『イッソ、トジコメルニャン…?』


「…おい、なんか機械が不穏なこと言い出したぞ?」

「え、こわ…この機械病んでません?」

(わ、私じゃないからね!?)


バイロンとマイラがこちらを向く。

ぶんぶんと首を横に振って否定したかったが、クライドに顔を擦り付けられているのでそれすらできない。


「僕と同じ気持ちでいてくれているということですね。嬉しいです。」

「いやいや…同じ気持ちってか、お前の気持ちを翻訳してるんじゃね?」

(あぁ、なるほど…?……あれ?それはそれで問題が…)

「えー?結局、不良品じゃないですかぁ」


マイラは機械を手に取ると、軽く振ったり底を確認したりしている。

やがて青く点灯するランプを見つめた彼女が、「…魔力で機動するんですよね?」と呟くと、バチッ!!と機械から嫌な音がして、ランプが消えた。


「あっ」

「おい!なんか今ヤバい音がしなかったか!?」

「気のせいじゃないですかぁ?スイッチが切れたんですよぉ、きっと!」

(明らかに嘘…!)


バイロンのツッコミもスルーし、マイラは素知らぬ顔で機械を箱に戻した。


「注意事項にあった、“魔力を複数入れないこと”とは、こういうことでしたか。」

「お前も知ってたんなら止めろよ!」

「まぁ、彼女の気持ちが聞けたのでもう良いかと。」

「よくねぇよ!」


クライドも素知らぬ顔で説明書を箱に戻すと、蓋を閉めた。既に、この機械に興味はないらしい。


クライドが箱を机から降ろそうとしたその時、はらりと1枚の紙が机から落ちた。


「ん?なんか落ちたぞ?」


バイロンは落ちた紙を拾うと、首を傾げた。


「…字母表?」

「この封筒に入っていたんですよ。」

「なるほどぉ、これで天使ちゃんと話せるかもってことですね!」

(確かに、それならクライド達と話せるかも…!)


文字が等間隔で並ぶ表を見つめるマイラとバイロン、そして私を見て、クライドが首を横に振った。


「…できませんよ。それはもう試行済みです。」

(え…?)

「そうなんですかぁ?」


私の記憶が正しければ、字母表を使ってクライドと話そうとしたことはない。

言葉を話せなくてもクライドに私の考えはほぼ伝わっていたし、特に困ったことも無かったから、試したことすらなかったのだ。


(話せるなら、それに越したことはないと思うけれど…)


バイロンが机に字母表を置く。クライドはそっと、その傍にに私を置いた。


「天使ちゃん、何か話してみてください!」


マイラにそう言われ、戸惑ってしまう。

クライドが意味のない嘘を吐くとは思えない。…ということは、文字で会話できることを知られるのはマズいということ。


(あ…)


先日のモーリスの一件を思い出し、身震いする。

現在、魔獣で人の言葉を話せるものはいない。モーリスに私が話せることがバレれば、即研究室行きだろう。

マイラやバイロンは頼めば口止め出来るだろうけれど。いつ、どこから情報が漏れるかは分からない。


(念には念を…ということ、かしら)


クライドのほうをちらりと見る。彼は私と目が合うと、その目を細め、ゆっくりと一度、瞬きをした。

どうやら、私の考えは間違っていないらしい。


(…ということは、分からないフリをしないと。…えっと、分からないフリって、どうすれば…!?)


急に、理解していることを分からないふりをしろと言われると、困ってしまう。

どうしたら良いか分からず、私は無意識にウロウロと字母表の上を彷徨った。


そうしてしばらく悩んだ結果、意を決してぽてりと字母表の上で寝そべる。


(こ、これで…どう?)


確認の意味を含めてちらりとクライドの顔を伺うと、彼は僅かに目を細め、口角を上げた。


「かっ………かんわぃい〜〜!!『撫でて』ってことですかね!??」

「そうですよ、きっと。」

「………なんか、物凄い忖度があったように感じたのは俺だけか?」


大喜びで私のふわふわな体を撫でるマイラに、満足げに頷くクライド。そして、ひとり怪しむバイロン。


(これから、適度に言葉を理解してないフリをしよう…!)


私はそう決意しながら目を閉じ、体を撫でているマイラの手に顔を擦り付けた。







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