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17来客と憤怒





それは、ある日のこと。


「失礼します。あの、突然すみません。クライド様にご相談したいことがありまして…」


そう言ってクライドの執務室に入ってきたのは、若い魔法使いの女性だった。クライドににっこりと笑いかけると、机へ近付いて来る。


(あぁ、また犠牲者が…)


机に座る私には目もくれず、クライドを見るとぽっと顔を赤くする。バッチリ化粧の整った可愛らしい見た目と、あまりに分かりやすい態度に「女の子だなぁ」と謎の感心をしてしまった。


「先日保護した魔獣を診て頂きたくて…」

「どうして僕が?治療院に任せては如何ですか?」


早速、クライドの容赦ない言葉がズバッと彼女を貫く。

けれど、彼女は少し目を伏せ、上目遣いで悲しそうに彼を見た。


「それが、今は討伐隊が戻ってきたところで忙しいからできないと言われてしまいまして…。クライド様にご相談する前にバイロン団長にご報告しようかと思ったのですが、今日はたまたま、別件で外に出られているとお伺いしまして……」


そう言って目を潤ませる彼女の腕には、仔犬の魔獣が顔を覗かせ、こちらを見ながら尻尾を振っていた。


「後日にしようかと思ったのですが、今日は特に怪我が痛そうで、見ていられなくて…」

(いや、めっちゃ尻尾振ってますけど…)

「保護されたのはいつ頃ですか?」

「…6日程前です。大きな怪我では無かったので、今日まで様子をみていたんです…」


つまり彼女はたまたま、治療院が忙しくバイロン団長にも連絡できない今日に、6日も放置した魔獣の怪我を診てもらいたいらしい。

討伐隊が今日任務から帰ることは事前に予測されていた。クライドと話したくて、敢えて治療を先延ばしにしてその機会を伺っていたと考えるのが合理的だろう。


(その子が元気そうとはいえ、酷いことを…)

「………」


何も言わず冷めた目で見つめるクライドに、彼女は少し瞼を下げてか細い声で「クライド様にしか頼めなくて…」と言った。

迫力あるクライドの睨みにも挫けないその根性は褒めたい。


やがてクライドが溜め息を吐き、言葉を吐き出す前に彼女の腕の中の魔獣が暴れ出した。


「きゃあっ!」


その仔犬の魔獣はぴょんと腕の中から飛び出ると、ドサッと物音を立てながら床に不恰好に着地した。


尻尾を振りながら辺りを見回して歩いているが、その左前足は地面に付いていない。


(かわいそうに…)


私もテーブルから床に飛び降りると、ゆっくりと近付く。

仔犬の魔獣は、子特有の警戒心のなさで、私を嫌がることなくむしろ尻尾を振っていた。


(痛かったでしょう?すぐに治してあげる)


コミュニケーションは取れないと分かっているが、そう声を掛けながら光魔法を発動する。

今の私は、人間の頃に比べると半分にも満たない魔力しか無いが、この小さな魔獣を治すくらいは容易だ。


光が霧散すると、仔犬の魔獣は自分の足を不思議そうに見つめた。そして恐る恐る歩き、問題なく動くことが分かると、部屋の中を走り回り始めた。


「あぁ…僕がする前に、優しい彼女が治してしまいました。」

「えっ?」

「彼女に感謝してくださいね?」


クライドはそう言うと私へ視線を向け、戻っておいでと手招きする。


「お疲れ様でした。…こちらへ。」

(治ってよかったわ)


そう思いながらクライドの腕の中に収まろうと歩き出した時、横から突然来た衝撃に飛ばされ、ゴロゴロと床を転がった。


(どぅっ!?)

「えっ!?」


私の心の中の悲鳴と、女性の驚いた声が重なる。


私をふっ飛ばしたのは他でもない、仔犬の魔獣だった。


すぐ近くで鼻息が聞こえて目を開けると、仔犬の魔獣が私の上に乗っかって千切れんばかりに尻尾を振りまくっていた。

感謝の気持ちなのか、嬉しさが爆発したのか、ペロペロと顔を舐め回される。


「わふ、わふっ!!」

(分かった!分かったから離してえええ…!!)


仔犬の魔獣は可愛いが、仔犬といえど私よりも少し体は大きい。懐いてくれるのは非常に嬉しいけれど、この小さな体で伸し掛かられると藻掻くことしかできない。

顔を舐められながら擽ったさに身を捩っていると、突然浮遊感を感じた。


「…この魔獣は僕が然るべき所に預けます。宜しいですね?」

「はっ、はい…!」


片手で私を、もう片方の手では仔犬の魔獣を抱えたクライドは、有無を言わせぬ迫力でそう告げると女性に早急に退室するよう促した。


彼女が部屋を出ると同時に転移魔法が発動され、見覚えのある部屋へ辿り着く。そこは、私も人であった頃に何度かお世話になった、魔獣を扱う部署だった。


「この魔獣をお願いします。」

「えっ!?クライド様!!?え??」

「詳細は後程伺いますので」


目を白黒させている魔法使いに仔犬の魔獣を押し付けると、クライドは再度転移魔法を使ってその場から消える。

眩い光に思わず目を閉じて、再び目を開けるとそこはまたしても見覚えのある部屋……もとい、浴室だった。


(ここ、クライドの家の浴室…?)


そっと床に降ろされた私は、辺りを見回す。

シャワーの音と湯気を感じて振り向くと、無表情のクライドがこちらを見下ろしていた。


「体、洗いましょうね?」

(え、な、なんで…!?)

「貴方は、何処の馬の骨とも知れぬ男に伸し掛かられて、舐め回されたんですよ?」

(言い方!!!男っていうか、相手は仔犬だし…!!)

「仔犬といえども、男です。ちなみに、女でもダメです。」


時折、クライドは話せないはずの私の言葉が理解出来ているのではないかと本気で思う。


その綺麗な顔でにっこりとクライドは笑ったが、如何せん、目が全く笑っていない。

思わず後ずさると、すぐに壁までじりじりと追い詰められた。耳をペタリと下げ、尻尾も丸めて怖がる私の頭を、クライドが優しく撫でる。


「大丈夫ですよ。僕が、全身、余すことなく、綺麗にして差し上げますから…」

(ひぃいいいい!!!)


……その後、私は真っ白でふわふわになった体で、クライドと共に執務室に戻った。


ふわふわな毛をマイラに褒められても、ぐったりしていることをバイロンに心配されても、反応する余裕もなく。

その日、クライドの仕事が終わるまで、ソファで身を丸めて過ごしたのだった。






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