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16外出と救出





クライドは宝石商を出た後、たくさんの景色やお店を見せてくれた。


魔獣を模した小物のお店や、ちょっと怪しい魔道具のお店などなど。私が好みそうな店を的確にピックアップしており、思わずはしゃいでしまった。


私が消えてからの10年で街並みは驚くほど変わっていて、知らない街のようで。

変わらないお店や場所を見つけては、何故だか少しほっとした。


「あぁ、貴方が好きだった街外れにあった洋菓子店はあちらに移転したんですよ。中々評判が良いみたいですね。」

(懐かしい!)

「チーズケーキもリニューアルしたんですよ。」

(あら、詳しいのね)


私があの店のチーズケーキを好きなことはクライドも知っていて、人間の頃は誕生日になると必ず買ってきてくれていた。


「行きたい所は行きましたし…買って帰って食べましょうか。」

(やった!)


久々にあのケーキが食べられると喜んでいると、ふと物音がしてそちらに顔を向けた。


(………ん?)


そっと店から顔を逸らし、音のした方に顔を向ける。

私は魔獣になってから、人間の頃よりかなり耳と鼻が利くようになっていた。


「…どうかしましたか?」

(あっちから、声が…)


悲鳴を塞がれたような、くぐもった声が聞こえる。

嫌な予感がして、じっと路地裏へ続く道を見つめた。


「あちらですね?行きましょう」


路地裏に入るとクライドの肩から降り、音のする方へ走って誘導する。

角を2回ほど曲がった所で、数名の男に捕らえられ、口を塞がれた女性と子供を発見した。


(見つけた!)

「何をしているんですか?」

「クソッ!騒ぐなって言っただろうが!!」


クライドが冷たい声で問うと、いかにも悪党ですと言わんばかりの風貌の男達は、女性へ刃物を突きつけた。


「近寄るな!ぶっ殺すぞ!!」


私もクライドも近寄らず、辺りを警戒する。

聞き耳を立ててから、奴等の仲間達は外にいないことを確信し、クライドにアイコンタクトで合図を送った。


クライドも私をちらりと見て、無言で頷く。どうやら意図は伝わったようだ。


「大人しく捕まったほうが身のためですよ?」


クライドがそう言って、自身の魔力を一瞬だけ可視化する。これだけで、魔法使いとしての証明としては十分だ。

私も毛を逆立てて、男達を威嚇した。


「魔法使いか!?お、おい、どうする?」

「ビビるな!相手はコイツと雑魚一匹だけだ!!」

「………は?」


クライドから恐ろしい程に低い声がした。


「雑魚…??」

「な、なんだよ…」

「今、彼女を、貶しましたか…?」


ゆっくりと威圧するように近付いていくクライドに、男は女性へ突き付けていた刃物を彼へ向けて威嚇する。


「近寄るな」と男が言い切る前に、クライドがその刃物を素手で掴むと、刃物はバキリと嫌な音を立て、錆び折れた。


「ヒッ…」


刃物をぽいっと捨てたクライドは、その手で男の手を掴む。

男達は分が悪いと思ったのか、人質になっていた女性と子供を突き飛ばし、逃げ出そうとした。


「………」


クライドがぽそりと小さな声で呪文を唱えると、男は掴まれた腕からみるみるうちに氷付いていき、氷像と化す。

その冷気は逃げようとした男達も飲み込み、あっという間に全員を凍らせてしまった。


(すごい…)


氷の魔力も鉄を錆びさせる魔法も、実際に目にしたのは初めてだ。


理論上、水魔法と風魔法を極めた者だけが、複合魔法として氷を創り出すことができる。けれど…私が知る限り、クライドが現れるまでは、その魔法を使えるのは国内でただ1人だったはず。

鉄を錆びさせたのも、きっと複合魔法だろう。


「はぁ…仕方ありませんね。すぐに戻りますので、少しだけこちらをお願いします。」

(了解)


肯定の意味を込めてゆっくりと一度瞬きすると、クライドは氷像と化した男達を掴んで転移した。


男の子を守るようにして抱き締めていた女性は、それを呆然と眺めている。


(…あら?)


男の子を見ると、突き飛ばされた時に転んだのか、膝を軽く擦りむいていた。


怖がらせないようにそっと近付くと、治療魔法を発動する。

男の子はゆっくりと塞がっていく傷に釘付けになっていた。


「まあ!傷が…!ありがとうございます…!!」

(いえいえ、このくらい…)

「おねぇちゃん、魔法使いなの?」


どうやら女性は男の子の母親らしい。

ペコペコと私に頭を下げると、男の子に「先にお礼を言いなさい!」と叱りつけていた。


(そうよ。魔法使いなの。)

「凄いわ…魔法使い様は怪我を治せると聞いていたけれど、使い魔も治療が出来るのですね…」


感心している母親を余所に、既にこちらに興味が無いらしい男の子は、その手の中にある小さな透明の硝子を覗き込んでいる。

…どうやら、マイペースな子らしい。


よく見てみるとその手にある硝子はモノクルのようで、それを目元に近付けると硝子越しに私をじーっと見つめている。


「ねぇ、おねぇちゃん」

(ん?なあに?)

「どうしてうさぎさんみたいな格好してるの?」

(え?)


男の子の言葉に首を傾げていると、クライドが転移魔法で戻ってきた。


「お待たせしました。」

「あ…っ!あの、先程はありがとうございました!!」


クライドに気付いた母親が、頭を深々と下げる。

私も彼の傍へ駆け寄った。


「気付いたの彼女ですから、礼なら彼女へお願いします。」

(助けたのはクライドだけどね)

「はい、本当に、ありがとうございます…!なんとお礼を申し上げれば良いか…!!」


何度も頭を下げる母親の傍を離れ、男の子が私へ近寄って来る。


「これ、おねぇちゃんにあげる」

(え?)


突然、男の子の手からモノクルが差し出されるが、私の手では受け取れない。

口に咥える訳にもいかず戸惑っていると、代わりにクライドが受け取った。


「すみません、この子なりのお礼なんだと思います。その玩具、気に入っていたので…」

「…これは何処で?」

「向こうにある、まほうのおみせ。」


男の子が後ろを指差す。おそらく、先程私達も立ち寄った、ちょっと怪しい魔道具の店のことを言っているのだろう。


「この子、魔道具のお店の店主さんと馬が合うらしくて…そこで頂いたそうなんです。」

「“しんじつのめがね”だよ」

「“真実の眼鏡”…?」


クライドはそのモノクルを片手に、何かを考えて込んでいる様子だった。

あの店で貰ったのであれば、本物の魔道具の可能性もある。…あの魔道具店は、少々曰く付きの物も扱われており、変わった品揃えと変わった店主で有名なのだ。


私もクライドの肩に乗り、試しにそのモノクルを覗き込んでみたが、その硝子を通しても何も見えないし、魔力も感じない。何度見ても、その硝子が魔石だとは思えなかった。


「これ、本当に頂いても良いのですか?」

「おみせのおじさんが、“しんじつがみえるのは、いっかいだけ”って。」

「いっかいだけ…?」

「うん。だからそれ、あげる。」


私とクライドは顔を見合わせて、頷く。

男の子もこう言っていることだし、感謝の気持ちとして受け取ることにした。


「ありがとう。大切にします。…では、僕達はこれで。」

「ありがとうございました…!」

「ばいばい」


踵を返したクライドの肩に乗る私は振り向いて、手を振る男の子に尻尾を振り返した。


「お疲れ様でした。…気を取り直して、ケーキを買って帰りましょうか。」

(うん!)




その後、私達は、お目当てのケーキを帰るとすぐクライドの自宅へ戻ってお茶をした。


…本当はお店で食べて雰囲気も味わいたかったが、魔獣の私がお店で食べるわけにもいかない。


クライドは私用に小さく切り分けてくれ、「残りは僕が食べますから」と笑ってくれた。

久々に食べるチーズケーキを堪能しひと息ついていると、彼はポケットから徐ろにあの男の子からもらったモノクルを取り出した。


「そういえば、これ。恐らく、あの子の言う通り魔道具だと思います。」

(えっ?)

「微かに魔力を感じるんですよ。」

(そうなの?私は感じないけれど…)


クライドはモノクルを手に持つと、部屋の照明に透かした。私も再度、意識して魔力を感じ取ろうとするが、やはり魔力は感じない。


「あの魔道具屋の店主は、変人ですが腕は確かです。何か仕掛けがあると思うのですが…」

(変人って…)

「………“真実が見える”、ですか…」


そのまま視線を下げたクライドと、バッチリと目が合った。

そうすると、彼の黒い瞳は見開かれ、そのまま動きがピタリと止まる。

クライドは瞬きもせず、私を見つめていた。


(ど、どうしたの?)

「………し、……」


シェリー、と呼ばれて首を傾げると、クライドはモノクルを握り締め、顔を手で覆った。

そのまま前に屈み込むこと数秒。今度は声を出して笑い出した。


(だ、大丈夫!?)


クライドは笑っているけれど、その眉は顰められ、何だか泣きそうにも見える。

あまりに様子がおかしい彼に、私はおろおろすることしか出来なかった。


やがてクライドは一頻り笑うと、目に浮かんだ涙を拭い、深く息を吸った。


「シェリー、これ、僕が頂いても構いませんか?」

(別にいいけど…)

「ありがとうございます。あぁ、今日は本当に最高の日です…!」


彼はモノクルを再びポケットに戻すと、私を両手で抱き上げた。


「大切にしますね」と口付けられる。

よく分からないままだけれど、クライドがこんなに喜んでくれたなら、それでも良いと思えた。








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