11魔石と名前
「シェリー」
クライドに抱き締められながら、名前を呼ばれる。
顔を上げると、クライドはその綺麗な顔を歪ませ、泣きそうな声で私の名前を呼んだ。
「“シェリー”、ですよね」
それは疑問系ではない。私が“シェリー”であることを確信している言い方だった。
(…そう、私は“シェリー”だったよ)
その言葉を肯定するように、一度ゆっくりと瞬きをする。それから彼の目をじっと見つめた。
本当は今すぐ話して、彼に伝えたい。そうできない魔獣の体が、もどかしくて仕方がなかった。
「これを覚えていますか?」
クライドはそう言うと、片手で胸元から球体のペンダントトップを取り出した。
彼自身がその球体に触れると、パリンと音をたてて球体が割れる。その中から現れたのは、薄茶色の魔石が付いたペンダントトップだった。
(それって、まさか…!)
覚えていない筈がない。
それは、誕生日だった彼に渡すため、私が魔力を込めて作っていたこの世でたった1つのペンダントだったから。
…それを渡す筈だった誕生日の数日前に死んでしまったため、未完成のうえ、クライドに渡すことは叶わなかったけれど。
「貴方の部屋を訪れた際に見つけたんです。それから、壊れないように魔法で保護して、肌見放さず身につけていました。」
確か、このペンダントの箱には、“クライドへ”、“誕生日おめでとう”というメッセージカードを添えていたはず。
…私が消えて部屋を訪れた彼が、これを見つけた時のことを思うと、胸が張り裂けそうになった。
目の前で小さく揺れる魔石に、私はぴとりと鼻を付けた。
(これ、未完成だったの。本当はあの調査の任務から帰ってきたら、完成させるつもりだったんだけど…)
光の魔力を魔石に送り込む。
魔石は一瞬だけ強く輝くと、先程より白く優しい、ミルクティのような色に治まった。
私はこの魔石に、“持ち主に対し緩やかに光の魔力を分け与える”ように設定を行った。
その効果は永遠ではないけれど、そこそこの期間は効果が得られるはず。
誕生日に何が欲しいか聞いた私に、「身につけられる物が欲しい」と言ったクライドへ、かなり悩んで、随分前から準備していたプレゼントだった。
(こんな形でも、渡せてよかった)
ペンダントが完成して満足しクライドを見上げると、その瞳からはポロポロと涙が零れ落ちていた。
「っ、シェリー、シェリー…!」
痛いくらいにぎゅうぎゅうと抱き締められて、息が苦しい。
でもそれ以上に、彼を抱き締め返せないことが、苦しかった。




