そのイチ
ねぇ、あの噂知ってる?
どの噂の事?
あれだよ、あれ とあるトイレで…
【願いを叶えるトイレ】
「おつかれー、今日はあのケーキ食べに行く?」
「ごめん、今日は疲れてるからまた今度にするね。」
「そっかー、じゃあ今度いく時のために情報収集しておくね。」
「食べすぎで太っても知らないんだからね。」
「うっさい!じゃ、また明日ねー。」
「うん、また明日。」
少女は友達との会話を終え帰路につく。
部活での疲れからかその足取りは重くいつもよりかなり遅いペースとなっている。
部活の方も成績がなかなか伸びずにスランプに陥っている状態だ。
こんな時に何か出来ることは無いかと携帯で調べるもいい答えは見つからない。
とにかく疲れを取るためにさっさと家に帰ろうと信号待ちをしている時、ふと会話が耳に入った。
「ねぇ、願い事叶えてくれるって噂知ってる?」
「あれでしょ、近くにある神社のトイレに深夜0時をまわった瞬間にノックをしてお願いごとをすると叶えてくれるってやつだよね。」
「そうそう、男性は男子トイレに女性は女子トイレで良いんだけど5分前にトイレに入って1番奥のトイレの鍵が掛かってたら願い事を叶えてくれるチャンスなんだって。後は0時まで誰も入ってこなければ良いって話見たいだけど。」
「それってホントなのかな?噂は噂って感じだけど。」
「実はそのお願い事で叶った人が何人もいるらしいよ。先輩が言ってたから。」
「ふーん、あっ信号変わってる早く行かなきゃ。」
「あっ、ちょっと待ってよー。」
少女も信号待ちをしていたのだが今の話に気を取られて渡り損ねていた。
気がついた時には赤信号になっていたので次変わるまで待つ事になる。
「願い事…か…」
少女は1人呟く、今の話は家から近くの神社で少女の今の精神状態ではどんな物にでもすがりたい気分だった。
その日の夜、少女は親の目を盗みこっそりと家から出る。
時刻は23時45分、家から神社まで徒歩5分の距離なので何事もなければ間に合う時間だ。
幼い少女がこんな時間に外出しているため補導されないよう周囲を警戒しながら神社へ向かう。
着いた時刻は23時53分。
周りに気を配りながら来たため想定より時間はかかったが問題ない範囲で辿り着いた。
「確か5分前にトイレに入るんだったよね。」
残り時間を調整しながらトイレに近づく少女。
ちょうど23時55分になった瞬間、女子トイレに入ると日中とは違う雰囲気が漂う。
そしてこんな時間であるにも関わらず1番奥のトイレには鍵がかかっていた。
「うそ…噂はホントなの?」
戸惑いを隠せない少女は0時になるまで鍵のかかったトイレの前で待つ。
噂では誰か入ってくると失敗と言う事だが、そもそもこんな時間に誰かに出くわせば警察に連れていかれたり親に連絡されたりするに違いないとドキドキしていた。
残り5分という時間がまるで1時間かのように感じるくらい時間の流れは遅く感じている。
そして0時になった瞬間、少女はノックを試みる。
しかしふと思う、ノックの回数を知らないと。
(あの時の話では特に出てなかったけどこういうのって大抵普通ではありえない回数ノックするものだよね)
少女は自分の思う回数である4回ノックをした。
トイレの中からは特になんの反応もないためこれで良かったのか分からないが少女は手を合わせ願い事を呟く。
「陸上でいい成績が残せますように。」
その後も特に反応はなかったが何時までもトイレにこもる訳にも行かないので家に戻ることにした少女は出た時と同じくらい周囲を警戒しながら部屋へと戻る。
次の日、学校の授業時間に救急車が来る騒ぎになっていたが部活の時間も迫っていたので何があったかは後で聞こうと準備をいそいだ。
部活が始まって少ししてから先生が皆に声をかけた。
「皆集まってくれ!」
「「どうしたんですか?」」
「実は…沢木が授業中に急に倒れて病院へ搬送されていたんだが…先程亡くなったと連絡が来たんだ。」
言われてみればエースの沢木さんを今日は見かけていなかった。
自分の成績でいっぱいになり周りに目を向けていられなかったのだ。
部内の誰もがエースの突然の訃報に悲しむ。
先生いわく持病も特にないし、親御さんから聞いても何か調子が悪いという話もなかったそうで何が起こったのか誰も理解出来ていなかった。
そこにあるのは同じ学校の生徒の突然の死という事実だけだった。
その日の部活は中止になり少女は早めの家路につく。
願い事の方は特に何も起こらず成績が出せないままで、知り合いが亡くなったという状況に上手く頭がまわっていなかった。
少女は眠りにつこうとウトウトしていると、遠くから救急車の音が聞こえて来た。
しかし眠気に勝てないようで気がつけば朝になっていた。
「おはよーお母さん、昨日の夜救急車が近くを通ってた見たいだけど何かあったのかな?」
「何があったのかは私も分からないわよ、ほらさっさと朝ごはん食べて学校に行きなさい。」
昨日の夜の救急車のことが気にかかりながらも学校へと向かう少女。
授業が始める前に先生が皆に告げた。
「皆さんに悲しいお知らせがあります。昨晩、木下さんが急な心臓発作により亡くなられたとの事です。昨日お昼には1組の沢木さんが亡くなられ何が起こっているのか分かりませんが皆さん体調にはお気をつけください、何か異変を感じたらすぐに誰でもいいので相談してください。」
先生の言葉に衝撃を受けた。
一昨日には一緒にケーキを食べに行こうって言ってくれてたのに、まさかもう2度と一緒に行けなくなるなんて。
仲の良かった親友の突然の訃報に感情が抑えられ部活ず少女は涙が止まらなくなった。
少女の精神状態では授業をまともに受けられないだろうと先生が考慮して保健室で休ませてくれることになった。
あまりにも泣き腫らしてしまい気がついたら寝てしまっていたようで近くで聞こえる救急車の音に目を覚ます。
また何かあったのかとベッドから飛び上がる少女に保険の先生が落ち着くように声をかける。
「とにかく落ち着いて、実はまた倒れた生徒がいたらしくて。」
「それって誰なんですか!?」
「そんなに焦らないで落ち着いて聞いてね。あなたと同じ陸上部の松田さんよ。沢木さんの時と同じように急に倒れたらしいの。あっ、ちょっと!」
また知っている人が倒れた事実を受け止めきれず少女はその場で倒れ込む。
次に気がついた時には家のベッドの上だった。
目を覚ましリビングに向かうと心配そうにしている母親がそこにはいた。
「起きたのね!良かった。あんたも同じようにこのまま目が覚めないんじゃないかと思って心配したのよ!」
「お母さん、松田さんはどうなったの?」
「…あの後連絡がまわってきて松田さんも亡くなってしまったと。」
その事実にその場に崩れ落ちる少女。
一体何が起きているのだろうか誰も理解していなかった。
その後の学校では特に何も起こらなくなり部活も普通に行われていた。
陸上部の人間が急に3人も亡くなったため警察の事情聴取もあったが怪しいことなど何も見つからなかったため、不自然ではあるがたまたま3人が心臓発作にて亡くなった事故としてこの話は扱われることとなった。
部活では少女より成績が良かった3人が亡くなったため学校の県予選代表に選ばれることとなった。
しかしタイムは伸びていないため少女から焦りが見えた。
代表になったからにはといつも以上に遅くまで残り練習するも結果に結びつくことなく少女は精神的に追い詰められていた。
先生や周りの生徒は思い詰める必要ないとフォローしてくれているがその言葉がかえって少女を追い詰めることとなっていた。
県予選当日あまりの緊張から少女は体調を崩していた。
それでも選ばれたからにはできる限りやろうと玄関のドアを開けるも意識がそこで途切れてしまう。
気がついた時にはもう夕方になっており家のベッドの上で眠っていた。
焦ってリビングに向かった少女はその場にいた母親に話を聞く。
「お母さん!今日私陸上の本番だったんだけど!」
「…もちろん知ってるわよ、あんたがこの日に向けてとっても努力してた事もね。そのうえで落ち着いて聞いてほしいことがあるの。」
「聞いて欲しいこと?」
「朝あんたが出ようとしてドアを開けた瞬間倒れてるのに気がついた私は今日は無理だとすぐに先生に連絡したわ。先生も最近のあんたの様子を見ててもしかしたら体調崩すかもと思ってたみたいでゆっくり休ませてくださいって言ってくれたわ。」
「…先生に悪いことしちゃった。」
「それでね、その後もう1回連絡が先生から来たの、それで…実は…今日あんたが出るはずだった競技の参加者が軒並み事故や事件に巻き込まれて誰も来れなかったらしいのよ。中には亡くなった人もいるって。」
「えっ…」
「皆バラバラの出来事なんだけど今日の陸上参加予定者って事で家にも事情を聞きに警察の方が来たんだけど体調崩して寝てるって言ったら何事もなく帰っていったわ。」
「…」
「こんなことありえないけれど陸上関係で色々問題が起きてるみたいだからあんたももう辞めてほしいわ。もし他の子達みたいに亡くなったらと思うと私は…」
あまりの事実を受け入れきれず泣いている母親を後にして少女は家を出る。
何か目的地がある訳ではないのだがこのまま家にいても心が落ち着かないと思い気分を変えようとしていた。
そしてとある信号に引っかかり立ち止まっていると声が聞こえてきた。
「ねぇ、あの噂ってさ本当だったのかな。叶うならやりたいな。」
「神社のトイレのやつ?結構叶っている人いるらしいけど注意しなきゃ行けないことがあるみたいだよ。」
「注意しなきゃいけないこと?」
「そう、トイレに向かってノックする時の回数なんだけど実は1回だけなんだって。多くしちゃうと願いに対する叶え方がねじ曲げられちゃうらしくて特に4回ノックしちゃうと死を介する願い事の叶え方になっちゃうらしいよ。」
「えー、そんなの怖いよ。もうやろうと思ったけど辞める。」
「そうだね噂は噂だし変なことになっても嫌だからやめといた方がいいよ、あっ信号変わっちゃう、行こう!」
「あっ待ってよー。」
その会話を聞いていた少女はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
「今のって…もしかして…今までの…わたしが…願い事で…」
焦った少女は藁にも縋る思いで神社に向かいトイレへと急ぐ。
トイレに入った時何か異変を感じた。
「そうだ、ここのトイレの個室は3つのはずなのにあの日は4つあった。」
焦ってトイレから出た少女は神社の宮司さんを見つけ声をかけた。
「あの!このトイレなんですけど!噂を聞いて!実は!」
「君は…そうですか、とにかく落ち着いてください。君はトイレの噂を聞いて願ったんですね。でも君についているのはそんな生易しいものでは無いようです。知らなかったのかどうなのか分かりませんが4回ノックしたんですね。」
「はい…それから周りで色んなことがあって…私どうすればいいか分からなくて…」
「あまりにもついている存在が強すぎて私にもどうすることもできません。出来ることとすれば願った内容から遠ざかることが一番です。」
「遠ざかる…ですか?」
「はい、君が何を願ったか分かりませんが願いに直結しない内容には影響は出ないはずです。願い事を叶える環境から遠ざかれば自然と何も無いままになるでしょう。ただしこれは完全に抑えるという訳ではありません。今後願いを叶える環境についてしまえば君についているものは願いを叶えるため容赦なく人を死におとしめるでしょう。それをお忘れなく。」
宮司の言葉を理解した少女は願い事が陸上でいい成績を残せるようにというものだった事を思い出す。
「それならわたしが出来ることは…」
その後少女は陸上をやめ陸上部があることで何か起きるかもしれないということから学校も陸上のない学校へとうつり変わった。
月日は経ち何事もないまま過ごせていた少女は大きくなり結婚し子供を授かり幸せに暮らしていた。
陸上関係からは離れるように心がけていたが、何も起きていなかったため油断していたその女性は子供の運動会に参加する事となった。
そこで親御競走という子供と親御さんがリレー形式で競走し競うという種目に参加した。
彼女は勘違いしていた。
陸上という本格的な競技でなければいいのだと。
彼女は忘れていた。
宮司から願いを叶える環境につけば周りを容赦なく死におとしめると。
彼女は全力で競争した。
それでも子供に元々あるハンデとあまりにも頑張る子供がいたため負けてしまいそうになっていた。
そして子供側のアンカーがゴールしそうになった瞬間競走に参加していた全ての子供がその場に崩れ落ちた。
その瞬間誰も何が起きたのか理解出来ていなかったが、彼女の耳にはこんな言葉が聞こえてきていた。
「シヌマデ、ネガイ、カナエテヤル」
題名変えました。
副題的な部分は後書きにのせることにします
【ノックの数】