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第二十話 ローズの過去

「ねぇ、ローズ?」


「何よ」


「この生活ってさ、本当に楽しい?」


「……」


 テラスにいたローズは、突然アルフからそんな風に声をかけられ、顔を上げた。


「どういう意味よ」


「いや、だってさ……本当に退屈じゃない? ここって」


 アルフが周囲を見回す。

 見えるものは、鬱蒼とした森と、今いる一軒家だけ。

 辺境に滞在し始めてから一週間以上。

 すでにアルフは、今の生活に飽きていた。

 

「ハニーと一緒にいられるからまだ耐えられるけどさ……」


「ハニーって言うな」


「こんなところに一人でいたら、いずれ気がおかしくなるよ?」


「それはあんたに根性がないだけでしょ」


「ここに滞在するためには根性が必要って認めてるじゃん」


「……」


 テーブルの下で、ローズはアルフの足を蹴る。

 彼に論破されるなんて、ローズからしたらこの上ない屈辱であった。


「いでっ! じ、事実だろ⁉︎」


「あんたはまたそうやって……」


 普段はアホでマヌケでバカなアルフだが、急に冴えたことを言う時があった。

 その無遠慮な発言は、ローズをよく困らせる。

 

「住めば都って言うけどさ……さすがに限度があると思うよ? こんな辺境の地で暮らさなくたって、静かで便利なところはあるのにさ」


「……」


 ローズはため息をつき、紅茶を飲み干す。

 

「疲れたのよ。何度も言ってるでしょ」


「嘘だね。絶対それだけじゃない」


「本当だって。……でも、いずれ戻るつもりだった」


 目を合わせないようにしながら、ローズは語り始める。


「苦手なのよ……私って存在が、手放しに尊重される空間が」


◇◆◇


 ローズは、ヴェルデシア王国の外れにあるスラム街で育った。

 当時は名前もなく、両親についての記憶も曖昧だった。

 おそらく、捨てられたのだろう。

 ローズは不気味な子供だった。

 物心つく前から無意識に魔術を使い、彼女の両親はそれを恐れたのだ。


 スラム街での生活は、決して良くはなかったが、最悪でもなかった。

 何故なら、ローズは強者だったから。

 魔術を扱えた彼女は、スラムの荒くれどもを締め上げ、自身の縄張りを作った。

 食料や服は舎弟たちが持ってきた。

 彼女は七歳という驚異的な若さで、スラムの女王になったのである。


 ローズはずっと、自分が行き場のない怒りに支配されていることを理解していた。

 気に入らない人間を薙ぎ倒し、贅沢の限りを尽くしてなお、その乾きが潤うことはなかった。

 日に日に眼のギラつきは増し、それに応じて保有する魔力量も増えていった。

 しかし、強くなればなるほど、偉くなればなるほど、自身の生きる意味を見失っていく。

 ローズは、自分のことが世界で一番嫌いだった。


「お前、見どころあんな。どうだ? オレがお前を魔術師にしてやろうか?」


 そんな彼女の前に、世界で一番強い男が現れた。

 彼の名前はエルドリウス。

 後に、ローズを世界で一番強い女に育て上げる男である。


「……だれだよ、お前」


「俺はエルドリウス、宮廷魔術師だ。国王の命令でスラム街の王とやらの様子を見にきたんだが……まさかお前みたいなガキに支配されてるとは思わなかったよ」


 宮廷魔術師――――。

 ローズはその言葉を理解できなかったが、国王という言葉は知っていた。

 自分を見下している偉そうな奴。

 目の前の男は、そんな気に食わない存在の部下。

 ローズが八つ当たりするには、十分な理由が揃っていた。


「ぶっころす……!」


「お?」


 全身から炎を吹き出しながら、ローズはエルドリウスに突進した。

 エルドリウスは一度感心した様子を見せた後、彼女の眼前から姿を消す。


「なっ……」


「馬鹿げた魔力量だな、クソガキ。魔術ってのは一の魔力で十の成果を生み出すためのもんだが、お前の場合は十の魔力で無理やり十の成果を得ているわけだ。効率は悪いが、そこらへんにいる魔術師じゃ歯が立たねぇだろ」


「うしろ……⁉」


 真後ろに炎を放つローズ。

 しかし、そこにはもうエルドリウスの姿はなかった。


「反応も悪くねぇ。ま、所詮は素人だが」


「……!」


 ローズは頭上を見る。

 アジトにしていた廃屋の天井に、何故かエルドリウスは張り付いていた。

 魔術を知らないローズは、当然その原理を知らない。

 彼女はそこで、初めて目の前の男に興味を持った。


「……お前、どれくらいつよいの?」


「あ? そうだなぁ……少なくとも、この国でオレより強い奴はいねぇな」


「まじゅつ、おしえてくれるのか?」


「おう、教えてやるよ。お前なら、きっとオレと同じところまでたどり着ける。そしたらオレが楽できるようになるからな」


「……?」


「そういえば聞いてなかったな。お前、名前は?」


「……ない」


「あ?」


「なまえなんて、ない」


「……」


 顔を伏せるローズのもとに、エルドリウスは着地する。

 そして彼女の目の前にしゃがみこみ、目線を合わせた。


「じゃあ、お前の名前は……そうだな、『ローズ』でどうだ?」


「?」


「名前の由来は、お前の赤い炎が薔薇の花びらみたいだったから……って、なんかガキを口説いてるみたいでキモいな……とにかく! お前はこれからこの名前を名乗れ。いいな?」


「……」


 ローズは、エルドリウスに向けて頷いた。

 さらに強くなることで、この苛立ちが治まることを願って――――。


 これより、彼女は正式に『ローズ』を名乗るようになる。

 やがて新たな身分を手に入れた彼女が『フレイマン』の姓を名乗ることになるのは、さらにもう少し先の話だった。

 

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