にゃんスケ熱が出る
ある日の夕方。
ケンタが私のスマホでドラえもんを見ている。
この一年、ケンタはドラえもんにハマっていて、学校の図書室では毎週ドラえもんの教育系の漫画本を借りてくる。学校では大人気なようでなかなか借りれないと残念がっていたので、私が市の図書館で予約して借りてもいる。
電話が鳴った。にゃんスケが通っている保育園からだった。
「にゃんスケくんがお熱を出していて、3時に測った時は37度5分だったのが先ほど38度5分に上がってしまいましたので、お迎えをお願いしたいのですが」
「わかりました!すぐ行きます」
また熱出したの?とケンタが言う。
2週間前にもにゃんスケは38度越えの熱を出して保育園に迎えに行ったのだ。その時は、1階の事務室のベッドに寝ていて、ぐったりしていた。朝は元気だったのに、どうしたんだろう。
「ケンちゃん、スイミング、一人で行ける?」
「えー、無理だよ」
「じゃあ、保育園からの帰りに送って行くから急いで支度して」
今日は二人ともスイミングに行く予定だった。にゃんスケは休みだ。
保育園に着くと、入り口にちょうど担任の先生がいた。
「コアラ組さんの部屋にいますので、お願いします」
「はい」
あれ?他の子と一緒にいて大丈夫なのかな。コアラ組に行ってみると、元気ににゃんスケが出てきた。前回のぐったりを想像していたので驚いたものの、自分で歩けるしホッとした。家に帰って熱を測ると37度6分。少し下がっていたから元気だったのか。
私がケンタのスイミングのお迎えまでに夕食の支度を急いで済ませている間、にゃんスケはテレビを見ていた。
ケンタは夜7時から剣道の練習もあるので、スイミングから帰るとすぐの夕食の時間だ。
にゃんスケは食べたくないと言ってソファに横になってテレビを見ている。やっぱり本調子ではないようだ。
夫が仕事を片付けて食卓に着く頃には、にゃんスケが熱が上がり始めたらしく、頭が痛いと騒ぎ出した。
今晩は眠れないかもしれないなと思いつつ、子供達を夫に任せて、今のうちにシャワーを浴びることにする。
前回、にゃんスケが熱を出した時はにゃんスケのそばにずっとついていたせいで私もお風呂に入れず、夜中もなかなか眠れず大変だったのだ。一度経験すると、次の改善策はすぐ出やすい。
にゃんスケからしたら、こんな辛い時にママはそばにいてくれないなんてひどいと思うかもしれないが、私まで具合が悪くなっては元も子もない。
ケンタは同じように思ったらしく、そばにいる時はせめてマスクしたほうがいいんじゃないかと言ってきたが、感染る気もしないし、発熱の原因が何かもわからないのにマスクをするのはにゃんスケを悲しませる気がしてマスクはしなかった。
お風呂から出ると、にゃんスケがさらに大騒ぎしていた。
「さあ、ママと寝ようね。その前に歯を磨こう」
「頭が痛いの!歯なんて磨けない」
「ママがささっとやっちゃうから大丈夫」
夜7時少し前、歯磨きを済ませて布団に行く頃には機嫌が治り、アニメを見たいと言うにゃんスケ。
普段は夕食の後はテレビを見ないのが我が家の決まりなのだが、私も寝る支度ができていないし、すぐに寝つかないなら調子が悪い時ぐらいは甘やかしてもいいかと思い、スマホを渡す。
夫とケンタは剣道の練習に出掛けて行った。
私はにゃんスケにアニメを見せている間、ちょっとだけ読書。昔読んでいたアメリカの推理小説を最近また読み始めている。単行本で三センチほどの厚みがあるので、隙をみて読んではいるものの、1日では読み切らないので、先が気になって仕方ない。
30分もすると、眠くなってきたようで、にゃんスケには珍しく、自分からスマホを返してきた。
熱がまた上がってきたようだ。
暑がるので、冷凍庫から小さな保冷剤を持ってきて両脇と頭に乗せると、暑さが和らいで少し楽になったらしい。目をつむって寝息を立て始めた。
私は頭の保冷剤が落ちないように腕枕をしながら片手を頭の上に乗せる。
発熱時の痛みが分かるので、どうすることもできないがせめてそばにいてあげようと思う。
部屋の電気がついたまま、にゃんスケは眠ってしまった。にゃんスケの顔を見つめる。
こんなにじっくりと見るのは赤ちゃんの頃以来だ。
ケンタ達が帰ってきた。私はずいぶん長い時間にゃんスケを見ていたようだ。
にゃんスケは夜中に目を覚ますこともなく、朝には平熱に下がっていた。
今回は熱はすぐ下がったものの、鼻がぐずぐずしているので、念の為休みを取り、耳鼻科に連れて行った。
アレルギーの舌下薬も切れるところだしちょうどいいと思ったのだが、耳鼻科に行って前日発熱したことを告げると、隔離スペースで待機させられてしまった。そんなことに気押されず、耳垢除去もお願いしてしまう自分を我ながら強くなったなと心の中で笑う。
熱の下がったにゃんスケが運動不足にならないように、病院へは歩いて行った。二人でお散歩している気分だ。
考えてみれば、二人でお散歩なんて久しぶりで、なんだか楽しい。
「きれいなお花がいっぱい咲いてるね。なんて名前かママ知ってる?」
「ママも知らないな。知らないお花がたくさんあるね」
「見て、ちょうちょが飛んでるよ」
他愛のない話をしながら、手をつないで歩く。にゃんスケの手は少し湿っていて、柔らかい。
元気になって良かった。
口が達者で、憎まれ口も毎日聞かされるけれど、ちゃんと繋がっている時は可愛いんだよね。
にゃんスケは、私が『今にいない』とすぐに怒り出すんだ。
にゃんスケは、私を今に戻してくれる存在なんだな。
ありがとう、にゃんスケ。
お彼岸中だったので、先祖の意味について考える時間もあって、自分の過去に繋がってくれている祖先と、私から先に繋がっている子供の存在のありがたさを感じる時だったようです。