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26.塔の頂上へ《長い階段》

 メーザンド・タワーの内部は、ひたすら階段となっていた。


 エレベーターもあるのだが、それで行けるのはあくまで『展望台』としての頂上。『魔力砲』としてのメーザンド・タワーの頂上へと登るには、この階段をひたすら上がっていくしか方法はない。


 そんな途方もなく長い階段を一段、一段と登りながら、先頭を歩く老人は口を開く。


「自己紹介がまだだったね。僕はステイフ・メーザンド。かつてこのタワーの建設に携わっていた一人さ」


「タワーの名前と同じ……。ということは、このタワーの設計を?」


「そう」


 このタワーが建てられたのは、今から三十二年前。その設計に携わったメーザンドがもうかなり年老いているのは当たり前だろう。それでも、年齢以上に元気そうで何よりだ。


 そんな彼は続けて。


「このタワーが、どんな末路を辿ったかは知っているかい?」


「……『ルナレイン計画』に失敗し、撤去も再利用も不可能な負の遺産として、その後日の目を見ることはなかった――と言った所だったか」


 このタワーについてもよく知っている、研究者――些蜜繰亜(さみつ くるあ)が答える。


「その通り。もちろん、僕は悔しかった。確かに結果は残せなかった。それでも、ハナから全否定されるようなモノを造りあげたつもりはないからね。……見た所、君も研究者だろう。この気持ち、分かってもらえると思うんだ」


「ああ、痛いほど分かるさ。われも、周りから否定されてばかりの人生を歩んできたからな」


 彼女自身、研究者として経験を積み、魔法大学へ通う過程。


 今でこそ『覚醒魔手(リベルブースター)』という二つ名で呼ばれてはいるが、そこまでに至る過程だってとてもじゃないが順風満帆に進んだとは言い難いし、そんな思いとは今でも腐れ縁だ。研究者という立場にいる以上は切っても切れない関係であることには違いない。


 だからこそ、メーザンドがこれから話そうとしている内容さえも分かってしまう。


「結局、展望台として観光スポットにまでされた。でも、今になって。僕の成果を求めてくれる人がやってきてくれた。このタワーであの空港に閉じ込められている、未来ある学生たちを助けられるのなら。この国を裏切ってでも協力したい、そう思えるんだよ」


 噓偽りのない純粋なるその言葉ほど、信用できるものもない。


「だが……われはこれから、このタワーを改造しようとしている。つまり、そなたの成果に泥を塗るような形になってしまうが……それで良いのか?」


「ああ、もちろん。僕の造ったモノがベースになっているだけでも十分さ。それが何かの役に立つというのなら、分解するなり何かを取り付けるなり、自由にしてくれて構わない」


 その言葉に彼女は心から、同じ研究者として尊敬できると思えた。自分とは真逆で、決して辿り着けない位置に立っている。


 残した成果や経歴など関係なく。こんな研究者になれば、胸を張って名乗ることができるのだろうな、と。……二つ名ではない、この両親から譲り受けたこの名前を。



 ***



「さてと、やっと頂上か……。それにしても設計者よ。何故ここまで直通のエレベーターを取り付けなかったのだろうか」


 メーザンドがそんな軽い自虐を挟みつつ、案内されたのは……いかにもこのタワーの根幹を担っているであろう、こまごまとした機材が並ぶ大部屋だった。


「ここがあの『メーザンド・タワー』の……ッ!」


「落ち着きなさい、些蜜さん。今から好きなだけ触れるんだから、子供みたいにはしゃがないのっ」


 月を穿つ為に造られ、兵器として地球に使えばパックリと割れてしまうような、極限の破壊力。そんな実用性度外視のロマン兵器が大好きな些蜜は、一発鼻血でもぶっ放してしまいそうな興奮ぶりだった。


 そんな彼女を、リーダーを任された一ノ瀬(いちのせ)が首根っこを掴んで一旦落ち着かせる。


「仕組みについて質問があれば、僕に遠慮なく聞いてくれ。あと、そこまで詳しいのなら知っているとは思うが……これは『魔力的地脈(アンダーライン)』を利用した兵器。扱い次第では塵も残さずタワーごと爆散するからくれぐれも無茶な改造は……」


「分かっておるッ! くっくっく、さて、まずは何処から……」


「……これは分かってないわね……」


「おい、私はまだこんな所で爆死したくないんだが??」


 理解しているのかしていないのかは定かではないが、ともあれ、結界を分解するための大改造は始まった。

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