25.待ち構えるもの《メーザンド・タワー》
一ノ瀬香凜が率いる、黒いドラゴンを連れた灯砥禊と、厨二病系研究者、些蜜繰亜による一団は、当初の目的だった『メーザンド・タワー』の付近に来ていた。
だが、こちらの動きが読まれてしまっていたのか。
「あれを倒さないと中には入れない、みたいね」
その視線の先には、年齢は五十代か、それ以上だろうか。白髪の老いた、しかし若かりし頃の元気を持て余しているような老人が、タワーの入口前で見張っているかのように立ち塞がっている。
とはいえ、魔法自体の実力は年齢で衰えるようなものではない。魔法師としての経験が長い分、厄介な相手である可能性のほうが高い。
「というか、コソコソする必要あるか? どっちみち、邪魔をするのならぶっ飛ばすしか選択肢はないだろうに」
「同意だ。世界最強の魔力砲を前にして、それをこの手で弄くれるというのだからわれの右手ももう我慢ならんッ」
「はあ、『妖精王』を向かわせたのは間違いだったかしら……?」
天を貫くような金色の光。それを知っている彼女が言い換えるとすれば『神の領域』とでも言い表せるだろうか――が見え、改めて不安を感じてしまったので『妖精王』を向かわせたまでは良かったのだが……。
最終的に残ったのは、冷静な思考が少々苦手な二人組になってしまった。こうなってしまえばもうヤケクソだ、と一ノ瀬は諦め気味に。
「分かったわ。敵が未知数ではあるけれど……ここで隠れていても何も進展がないのは事実だし。行きましょう」
言うと、建物の影から飛び出して、その待ち構える老人の元へと向かって三人同時に走りだす。
こちらとしても、ただの民間人に手をかける訳にはいかないので、攻撃は相手が明確に敵意を露わにしてから。関係のない一般人に攻撃をしたとなれば、それが火種となって、ただでさえ戦争が始まろうとしているこの状況がさらに過熱してしまうだろう。
敵地とはいえ民間人が暮らしている街中である以上、こういった一面には気を配らなくてはならない。
そして、相手もこちらの動きに気が付いたのだろう。しかし、その老人は戦場にあまり似つかわしくない、そんな穏やかな笑みを浮かべて。
「君たちだね。僕が昔に建て損じた、このタワーを有効活用してくれるっていう日本人っていうのは。……待っていたよ」
「……ええっ?」
その老人からは当然、敵意もなにも感じられなかった。心の底から、こちらの登場を待っていたかのような。そんな表情だった。
まさか、攻撃はされても歓迎はされないだろう。そう思っていただけに、交戦にならないという安心と共に、驚きの感情までが湧き上がってくる。




