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23.夜は塗り変えられる《一瞬の油断》

 軍服少女が右手に握る、液体金属の剣を再び振るう。だが、結局は元の持ち主に及ばない。シエラの剣によって、簡単に受け止めてしまう。


 だが、問題はここからだった。


「『ミラーズ・バレット』。これも、わたくしの部下()()()()()だよ。わたくし的にはサイコーケッサクってヤツねっ?」


 空いた左手には、クリスタルのように透明感のある白い魔法銃が握られていた。


 軍服少女が引き金を引くと、そこから白い魔力弾が放たれる。圭司(けいじ)たちが使う金色の魔法銃ほどの派手さはない。だが、銀色の剣による攻撃と一緒に撃たれては十分な脅威になりえる。

 

 だが、軍服少女が『サイコーケッサク』……そう言ったからには、相応の理由があった。


 圭司は、射線を見てその白い銃弾を避ける。


 確かに、その白い銃弾は彼の横を通り過ぎていったはずだった。しかし――。


「――うぐッッ!?」


「圭司さんっ!!」


 結果、彼が金色の魔法銃を握っていた右手に命中する。あまりにも突然で、現れるはずのなかった痛みに思わず、彼の武器であるはずの魔法銃を落としてしまった。


 その銃弾の動きを、納乃(のの)はしっかりとその目で目撃していた。


「……外れたはずの銃弾が、戻っていった!?」


 圭司の横を通り過ぎた銃弾が、再び照準を再設定したように、的確に圭司の右手に向かって戻っていった。……それが、軍服少女が自信ありげにしていた理由だろう。


 だが、カラクリさえ理解してしまえば大した脅威ではない。


 納乃は、軍服少女とさらに距離を詰めていくように、魔法銃を片手に全力で走る。


 そんな彼女に向けて、ミラーズ・バレットから外れても跳ね返り戻ってくる白い銃弾がいくつも放たれる。しかし、外れてから照準を改めているせいか、納乃の走る速度には追い付けない。


 魔法銃は当然遠距離武器であり、言わずもがな距離を取った方が有利であるにもかかわらず、あえて軍服少女に近づいていった理由は簡単。


 あの赤い結界は、確かに圭司の魔法銃から放たれたレーザーを防ぎ切った。あの耐久力を張られてしまえば、もうこちらには攻撃を通す手段はない、と考えるべきだ。


 だが、あの赤い結界には致命的な欠点がある。それは、結界が展開されるまでにタイムラグが存在すること。


 彼のレーザーが放たれてから、軍服少女の元に到達するまで。その間、赤い結界が張られたようには見えなかった。たった一瞬かもしれない。だが、逆に言えば――そのたった一瞬だとしても、隙は存在する。


 圭司のレーザーを放った魔法銃と同じである以上、それと同じ威力、速さのものを撃てると仮定して。


 ギリギリ展開が間に合って防がれた、ということならば。それよりも近くから撃てば、あの結界を展開される前に相手を撃ち抜ける。


「――はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 魔法銃に自身の魔力を込めて、その引き金に指をかけた――その時だった。


「くっふふふふっ! 確かにこれじゃ、わたくしの結界は間に合わないケド、甘いんだよ。こんなに近づいちゃってぇ、そこまでして『シェロン』に殺されたいのかにゃあー?」


 液体金属の刃が、納乃を確実に捉える。……しかし、それを納乃は気にも留めていなかった。


 彼女の身体が真っ二つになろうとした、その直前。金色の影がバッ――と横切っていく。


「……甘いのは貴方です」


 そして銀色の剣は、金色の光を放つ剣によって受け止められる。納乃とシエラ、二体の魔法人形(ウィズドール)が互いに信じあっていたからこそできた、本来なら無謀でしかない動きだった。


 しかし、深紅色の軍服少女はそれさえも想定内、といったような調子で嗤いながら。


「くふっ、あははははっ!! もしかしてぇ、この動きが読めてたって? じゃあ、その先ももっちろん、読めてるんだよねええぇっ??」


 ……どろり。


 抑えていた銀色の刃にかかる力がみるみるうちに弱くなっていく。そして、刃がシエラの剣を、そして彼女の身体さえも()()()()()()()()


 大前提として、これが液体金属であること。硬度さえも自在に操れるのがシェロン・ルイスの得意魔法『メタル・オペレータ』であることまで考慮していれば、こんな初歩的な失敗はしていなかったはず。


「――シエラさ――ッ」


 納乃の声はそこで途切れる。……シエラは見てしまった。腹部を境に、真っ二つにされてしまった『納乃』を。


「あ、ああ、納乃、様? あああ、あああああああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」


 シエラの身体に宿る光が、目の前の現実を受け止めきれない感情の起伏と共に、爆発的に増大していく。まるで、あの日『魔法特区』の夜を塗りつぶしたあの時――それをも軽く凌駕するほどに。

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