20.既視感の剣《軍服少女》
今は展望台として観光スポットとなっている、最強の魔力砲『メーザンド・タワー』は、元々船を手に入れるために目的地としていた空港近くの港を横目に通り過ぎて、さらに三キロほど走った場所にある。
こちら側にいた敵戦力は、ほとんど灯砥禊とそのドラゴンが殲滅してしまっていたらしく、さっきまでのようにあちこちから狙われる――ということがない分、順調に歩みを進められていた。
だが、ベースキャンプの方でかなりの実力者による襲撃を受けた、と聞いている以上、油断はできなかった。
そして、港を横目に、街の中心へと向けて大きな橋を進んでいると……案の定というか。明らかに異質な雰囲気を放つ一人の影が、この状況下であるせいか車さえ走っていない大きな橋の中央に立っていた。
「ここから先は通さないのだよ、極東の猿たちぃ?」
その酸っぱいような声の主である女性は、思ったよりも一回りも二回りも小さかった。見た目では完全に小学生にしか見えない。が、その少女がただの小学生ではないのは見た目からして明らかだ。
プラチナブロンドのツインテールに、片目を眼帯で覆い、軍のお偉いさんが着ていそうなビシッとした深紅色の軍服に身を包んでいる。というかそもそも、普通の小学生は銀色の剣なんて持っているはずがない。
「クソガキの分際で随分と舐めた口を聞きやがる。嫌いじゃないが……しかし、お前は『大人の怖さ』って物をしっかりと勉強しておくべきだ」
相手の気を立たせるような声に、灯砥禊がそう返す。やはり、この場では最年長である彼女の言葉は年季が入って重みが違う。……とか口に出すのはもちろん、思っているだけでも半殺しにされそうなのでこれ以上はやめておこう、と圭司は心の中に留めておく。
「このわたくしにクソガキ呼ばわりってとっても不愉快なんだケド、このクソ猿ども全員殺しちゃってオーケイかなあーっ?」
軍服の少女が狂気にも見える笑みを浮かべながら言うと、同時。
右手に握る銀色の剣が、まるで液体のように溶けて、うねりながらこちらに伸び、灯砥禊に向かって飛び込んでくる。
刃だったそれは、金属の鎖へと形を変えていき――。
「シエラッ!!」
「はい、圭司様っ!」
シエラが鞘から剣を抜くと、光り輝く刃でその鎖を断ち切った。
……しかし、断ち切られた鎖が灯砥禊を拘束するための動きは止まらない。
そして、止まらないことをシエラは知っていた。
二度、三度と連続で、不思議な力で浮かび上がりひとりでに動く鎖を何度も切り刻む。
まるで、この後の動きを知っているように動いた圭司とシエラを見て、疑問を浮かべた表情になっているが……やがて、なるほどといった調子で。
「コイツら……、ふふ、あはははっ!! そっかあ、もしかしてぇ、シェロンとイレーネを殺ったっていう『多重接続者』!? こりゃ面白いコトになりそうだよ」
圭司とその魔法人形である二人は知っている。シェロン・ルイス、イレーネ・アルフィスという魔法師を。
そして、あの銀色の剣は――MagiCAの魔法師、シェロン・ルイスが得意としていた魔法『メタル・オペレータ』そのものだった。
それら二つの名前が結びついた途端、それは計り知れないほどの悪寒となって襲い掛かってくる。……考えてはいけない、考えたくもない。そんな内容の文章が、脳裏へと浮かび上がってくる。
そして、軍服少女がそれをなぞるかのように告げた。
「武器にされても戦い合うなんてねぇ。もしかしてコレが……『ウンメイ』ってヤ・ツ?」
あの銀色の剣は……ただ同じ魔法を使えるだけだと信じたかった。だが、そのまさかだった。シェロン・ルイス。かつて、金属を自在に操り、圭司たちを窮地にまで追い詰めた魔法師だったもの。
敵として立ちふさがったあの時はもちろん、決着がついた今でも、彼女とは相容れないかもしれない。彼女らをここまで追い詰めた張本人であり、こんなことを思うのも自分勝手かもしれない。
……それでも。
あの魔法師によって、死してなおも道具として扱われているのを見て。これを憤らずにいられるものだろうか?
――こんな結末を招いてしまったのは、俺たちの責任でもある。だから。
「……ここは俺たちで止めます。みんなは先にあのタワーへ向かってください」
「漣くん!? 何を考えて……ここは全員で何とかする場面じゃ……」
何を言い出すんだ、とこちらに言い聞かせる一ノ瀬の言葉を遮って。黒の人形師、灯砥禊が口を開く。
「――ここはあの男に任せてやれ、一ノ瀬。……せいぜい面白い展開になる事を期待しているよ」
こちらの内情を察してくれたのか、はたまた、本当に面白がっているだけなのか。
だが、この最低な結末は、俺たちだけで片付けなくてはならない。彼女を道具として扱い、その生命を冒涜する、あの魔法師を倒すことによって。
「終わり次第、俺たちもすぐに向かいます。……これは俺たちが片付けなきゃいけない問題なので」
「くっくっく、心配などせんぞ? 何せ、汝らの武器はこのわれが『覚醒』をもたらした逸品なのだから」
「ありがとう、些蜜さん。頼もしいよ」
言い合うと、圭司たち以外の各々が、軍服少女の横を走り抜けていく。
「……まさか、オトリを残しておけば見逃してくれるとでも思っちゃったぁ?」
銀色の剣が、橋の先へ進む一団に向けて、自由自在に伸びる刃を向けようとする、が――。
「させません――解放共鳴ッ!」
シエラがその言葉を紡ぐと、夜をも塗り変える強烈な光が放たれる。元々金色の光を纏っていたシエラの剣は、さらに神々しい輝きへと昇華する。
そして、金色を纏う聖騎士がその剣を一振りすると、全てを照らす激しい光が軍服の少女に向けて飛ばされる。
光自体に殺傷能力は持ち合わせていない。が、先へ向かう仲間を狙う一人の視界を潰すくらいなら十分すぎた。
銀色の剣は、酔っぱらったかのようにフラフラと、見当違いの方向へと伸ばされていく。
「シェロンはあの時、俺たち三人を前にしても、その人数差さえ楽しむように笑っていたよ」
あまりの眩さに、未だに目を抑えている軍服少女に向けて、圭司は戦闘の始まりを告げるように言い放つ。
「見せてくれよ。……所詮は力を借りているだけに過ぎないお前じゃ、シェロンを超えるどころかあいつと肩を並べることすらできないだろうけど」




