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幕間 魔法人形を喰らう者

「ああ、美味しいよ。お前の魔法人形(ウィズドール)は……力が(みなぎ)ってくる、甘美な味だ」


「お前……一体、何なんだッ! 俺の人形を()()()なんて……頭おかしいんじゃ――」


 夜の闇と、彼女が纏う黒いフードによって隠され、その姿は見えないが……。発せられた声からして、性別が女性であることしか分からないその人影は、ムシャムシャと音を立てながら、横たわる人形を喰らっていた。


 地面に縫い付けられたように、うつ伏せの状態で動けない人形師の声に反応して――その人影は、無我夢中で貪り食っていた腕の一部をボトリと口から落としながら、彼の方へギロリと振り向いた。


「ひ、ひいいッ!」


「頭がおかしい……か。ああ、言われなくとも分かってるさ」


 恐怖に襲われ、今にも逃げ出したいだろう。しかし、地面に這いつくばるだけで身動きの取れない彼に向けて、その人影はくだらない事だと笑い飛ばすように、吐き捨てる。


「周りに何と思われようがアタシの知った事じゃねえ。アタシはただ『目的』の為に、人形を喰らい続ける。ただそれだけさ」


 世間からは『人形喰い』だのと揶揄されているらしいが、そんな些細な事はどうだっていい。


 彼女が言う『目的』、それさえ果たすことができるのならば。


「……『目的』だって? に、人形を食べる事が、一体、何の目的に繋がるんだ?」


 人形師は、純粋に彼女の言っている意味が分からなかった。人形を食べる事で一体、何を果たせるというのか。全く見当すらもつかなかった。


「あのさ、そんなにベラベラ喋ると思ったら大間違いだろ。話す義理もないし、正体がバレたらどうすんだっての」


 当然だ。聞かれたら何でも答える悪役なんて、この世の隅から隅まで探しても存在しないかもしれない。


 だが、彼女はにやりと、誰に見せる事のない笑みを浮かべると一言。


「ま、食事中に黙っててもつまらねえし、気分転換がてら話してやるとするか。ああ、もちろん、アタシの身元がバレない程度に、だが」


 今度は、横たわる人形の右足をぐしゃりと引きちぎると、そのまま口に運び、食べ始める。


 口の中に人形の肉片が残ったままの彼女は、その甘美な味わいを玩味(がんみ)しながら、一言だけ言い放つ。


「『復讐』さ。アタシを無能だと蔑み、いないものとさえ扱ったアイツらへの」


 彼女は、復讐するべき人々の顔を思い浮かべながら言う。それは、彼女にとっては最も近しいはずの存在で。


 ……『名前』に囚われてばかりの、家族(クソったれ)の顔を。

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