15.夜街に身を潜め《黒の人形師》
「ザコ共がわらわらとうっとおしい。やっと静かになったか……」
黒く小柄なドラゴンを連れ、革ジャンを着た人形師がふう……と、建物の影でため息を吐き安堵する。この街に出てきてからというもの、初めてこう落ち着けたような気さえする。
それもそのはずで、彼女はあの赤い結界によって空港が封鎖される直前、陸から離れ、島へと変貌しようとするそこを辛うじて脱出してからというもの。二時間以上もの間、街を闊歩する魔法師やら人形師やら、武装した兵士やらに追われ続けては休む間もなく返り討ちにし続けていた。
それぞれは大した実力の持ち主ではないとはいえ、数の暴力とはやはり恐ろしいものだと再認識させられるようだった。
……そもそも。
空港が陸から離れ、大規模な結界によって封鎖される直前までは、全てが順調に進んでいた。
それが、灯砥禊にとっては怖かった。だからこそ、彼女は一度も警戒を解かなかった。こうしてギリギリのところであの空港から逃げ出すことができた。
あの中がどうなっているかは分からない。が、彼女一人いなくとも大丈夫だろう。
何しろ、結界の中にはまだ学生であるとはいえ魔法師、人形師、研究者が千人以上。そして、今は講師として大学で知識、技術を伝える側であるが、かつては最前線で活躍していた業界人も揃っている。これだけの戦力が集まっていれば、わざわざ彼女が心配するまでもないはずだ。
どちらかといえば、何も考えず反射的に飛び出してきてしまった自分自身を心配するべきだ。
『だったら私は守り切ってやるッ!!』
……彼女が『魔法師』としてそう断言したからには、空港内に取り残されたみんなを救わなくてはならない。そして、彼女はあの赤い結界を破壊する算段はついていた。
当然、この辺りの戦力を一人残らず狩り尽くして、あの結界を維持している装置だか人間だかをその大元から断ち切る――なんて、誰もが思いつくが故に途方もなく無謀な方法ではなく。
少なくともそれよりは希望のある、具体的な一つの方法を。
ただ、それを一人で実行に移せるかと聞かれれば、正直自信はない。
「……ところで、向こうが騒がしいようだが……まさか」
魔法による交戦の音がこちらにまで届いてくる。その音は、少しずつ近づいてきているようにも思えた。
この辺りから敵戦力が減って、こうして少しでも体を休ませることができているのも、その影響だろうか。
少し前には、遠くで爆発音にも近い轟音が響いていた。戦闘中だったのでしっかり確認はできていない、あくまで多分の域を出ないのだが……少し離れた場所に着陸した二機の航空機。あれは日本の――それも、魔法大学が所有していたものではなかったか。
だとすれば。もし、大学から救助にやってきてくれたのならば、あの赤い結界を外から破壊するのも決して無理難題ではないのかもしれない。
灯砥禊は、ひとまずの目的地としていた魔法都市ボストンの街並みでもひときわ目立つ、観光スポットにもなっているその『展望台』から反対方向。――魔法師らが交戦しているらしい、騒ぎの中心に向かって再び歩き始めた。




