14.魔法都市ボストン《戦場を駆ける》
その異国の街並みは、やはり新鮮ではあるが同時に異質でもあった。
異質さで言えば、教育機関から魔法師の所属する機関、研究機関から魔法関連の発着場、他にも魔法に関する施設を一つの特区にひとまとめにしてしまった日本の魔法特区も相当のものだろう。
だが、この街もやはり異質だ。普通に人が住んでいるであろう民家の隣に、魔法関係であろう巨大な機材があったり、普通の街に突然異物が紛れ込んだような……そんな感覚だ。
アメリカには他にもいくつか魔法都市があるらしく、日本のように一カ所に集まっていないせいかどうしても中途半端になってしまうのだろう。ここも魔法都市といえど、魔法一色に染まっているとまではいかない、そんな街。
「さっきは『人形喰い』との一戦に水を差されて暴れ足りなくてさあ。ストレス解消に付き合ってくれるかしらああ!?」
背丈の小さな茶色い短髪の彼女は、そう言いながら――建物の影から魔法を発動しようとしていた男の魔法師に、たった一瞬で距離を詰め、バチバチと雷を纏ったその右拳を叩き込む。
おそらくその男が着けているのは防護服で、胴体にパンチを喰らったところで痛くも痒くもないはずではあるが……それが普通ではない、音速に達するような速さで、触れれば感電どころじゃ済まないであろう出力の雷撃と共に叩き込まれればどうだろう。
直でそれを喰らった彼の末路は、あまり想像したくない。
「……撃て」
ある人形師の言葉をトリガーに。虹色の羽を広げた妖精の魔法人形が、身長よりも遥かに大きな緑の弓を引き、放たれた魔力の矢が数十階層にもなる高層ビルの屋上からこちらを狙うスナイパーの男をただ貫いた。
確実に息の根を止めるため、心臓部を貫くように。たった一撃でその命を奪い取る。
「はっ、こっちにも敵が――はああああああああああああああッ!!」
少し先では白銀の鎧を纏う、聖騎士のような風貌のシエラが、些蜜の魔改造によって抜くだけで光剣へと変貌するようになったそれで、同じく魔力の通った赤い剣を握る女性の魔法師と鍔迫り合い――になる前に、いとも容易く赤い剣を真っ二つにしてしまう。
そして、容赦なく一振り。そのまま横に吹き飛ばされ、コンテナのような建造物に叩きつけられる。
「やっぱり調整が難しいですねえ、これ。少し魔力を込め過ぎただけで相手が消し炭に……」
――ギュイイイイイイイイイイイイイイイイッ!! 普段込めている半分の魔力すら込めていないながらも、そこから納乃が放った水色の銃弾は、燃えたぎるような青いオーラを纏いながら標的の武装した魔法人形を吹き飛ばす。
公園であれだけの騒ぎがあったせいか。街には敵の魔法師や人形師はもちろん、それだけにとどまらず、武器防具で武装した兵士が至る所から襲い掛かってくる。
船がある港まではおよそ五キロほど。ただ走るだけならそうでもない距離だが、全方位から狙われながらともなると話は別だ。体感距離は何倍にも膨れ上がるだろう。
「本当、数だけは多いわね。――吹き飛びなさいッ!!」
彼女の代名詞とも言える、立ちふさがるもの全てを吹き飛ばす水流が一直線に放たれる。
水上の破壊姫……そう呼ばれる所以となったのが、彼女のあまりにも圧倒的な『水属性魔法』。
本質的にはただの水魔法と大きな違いはない。ただし、決して常人には真似のできない威力であり、人間にとって一番身近とも言える凶器である水は、単純、シンプルながらも圧倒的な強さを持つ。
彼女の声と共に放たれた高圧の水流が、前方に立ちふさがる魔法師三人を、有無を言わさず遥か先の倉庫らしき建物に叩きつけるように吹き飛ばす。
それだけに留まらず、あまりの威力に倉庫は無残にも崩れ、生み出された瓦礫の山に消えていく。手も足も出ない、とはまさにこのことだろう。
……これだけの戦力が集まっているのだから、ある程度の想定外が起こっても、軽々と対処できてしまいそうな雰囲気だった。
しかし、そう簡単にはいかないのが『戦場』というものだった。
「――ッ! 些蜜さん、危ないっ!!」
背後から。バチバチと燃える青い炎が、渦を巻きながら真っすぐに飛んでくる。威力を抑えて速さを優先した一撃だったのだろう。故に、圭司は魔法銃を構え、炎を魔法銃の弾で掻き消そうとしたが――間に合わない。
……はずだった。
「危ないとは何のことだ?」
狙われた些蜜は、銃口がトランペットのように開いた、特殊な形状をした銀色の銃を両手で持っていた。
それを、飛んできた炎に向けて引き金を引くと――そのまま、青い炎がバラバラに分解されていく。
分解され、粒状になった青色の魔力が、その開いた銃口へと吸い込まれていき――。
「自らの炎で焼き焦がされるがいい。……返還」
その銃口から、分解されたはずの青い炎がさらに勢いを増して放たれる。
自らの攻撃が威力を増して戻ってくることは、相手にとって予想外であったのだろう。しかし、それでも相手は魔法師。ギリギリの所で避けられてしまう。
……ただし。その避けた先には――。
ギュイイイイイイイイイイイイッ!! という唸るような音と共に、水色の魔力弾が向かっていた。避けたと思っていた先で、さらに向かってくる弾を避けることは当然不可能。
その魔法師は成す術もなく、水色の銃弾に撃ち抜かれる。
「……些蜜さん、研究者……だよね?」
「ん? 今更何を言っている?」
あの炎に対して、危なげもなく対処した瞬発力、動き。とてもじゃないが『研究者』とは思えない。並の人形師や魔法師や人形師以上に、戦い慣れている。
「われの持つ技術を自分で使えないなど、恥辱の極みだろう? 研究者たるもの、最低限の戦闘技術は身に着けて当然」
最低限という言葉の意味をいま一度、辞書で調べ直すべきだ。後ろからの奇襲攻撃を気配で察知して、その大きな銃で魔法攻撃を分解してカウンターをお見舞いできる実力があって最低限とはいったい。
油断してはならないのが戦場ではあるが、先ほどの言葉を撤回しておくことにした。……このメンバーなら、案外この敵地ど真ん中でもなんとかなってしまいそうだ。




