12.作戦の舞台へ《突入》
輸送機に向かってくる……こちらで応戦の必要がある場面は、思っていたよりもずっと少なかった。
その理由の一つはまず、小夜琴音と一ノ瀬香凜が操縦する一台の魔力戦闘機が、迫りくる敵の戦闘機を次々と撃墜しているからだ。
今もムチャクチャなアクロバット飛行を披露しながら縦横無尽に飛び回り、予測不能の砲撃でこちらに敵機を寄せ付けない。
「……あれに乗るだけで俺ならギブアップだな」
「しっかりしなさい、『多重接続者』。あんたもいつ機会があるか分からないんだし、あれくらい乗れるようにならないと」
茶髪の少女にして『一撃迅雷』の名で知られる触定頼架が、その舞うような動きに圧巻される彼に向けてそう言うが……。
ジェットコースターの大回転がかわいく思えるようなそのアクロバティック飛行に乗り込んだら最後、乗り物酔いはあまりしない彼ではあるが、胃がいくつあろうが足りない気がする。
だが、いくら何でもたった一台で全てを対処しきれないのは当然で、半分くらいの敵機はその理不尽な砲撃を回避してこちらに抜けてくる。
しかし、それでも輸送機の中で今か今かと待機する『攻撃組』が動く必要はなかった。
「そういえば、『妖精王』の姿が見当たらないけど……」
人混みの中でもひと目で見つけられそうな虹色の羽を後ろに大きく広げた妖精の魔法人形と、その人形師の姿が見当たらなかった。
この第一段階が始まる前までは、確かにこの輸送機に乗っていたはずなのだが――。
そんな彼らの行方を知っている触定は、天井に向かって指を向けながら。
「――上だ、上」
「……うえ?」
圭司は言われた通り、上を向いてみるが……見えるのは当然、輸送機の中なので鉄製の屋根しか見えない。だが、その鉄を一枚隔てた先には――。
***
その頃、夜の空を飛び続ける輸送機の屋根には一人と一体の姿があった。細身で銀髪の男と、見る者すべてを魅了する虹色の羽をもつ妖精。
男の方は、その妖精の背中に触れて魔力を整えている。そして、妖精の方は自身の身体よりも大きい緑色の弓を持ち、そこから放たれる緑光の矢が向かってくる敵機、その全てを一撃で粉砕し続けている。
雪合戦で例えるなら、雪玉を作る人とそれを実際に投げる人との役割分担。二人揃っていてこそ、戦闘機をも穿つ高火力を息をするかのように放ち続けることができるのだ。
魔法人形に触れて魔力を送るまでなら、人形師としてできて当たり前のことではあるが、そこからさらに一歩踏み込んだ『魔力の加工』ともなると話は別だ。
これがサポートに優れたSランク人形師と呼ばれる所以でもある。
敵機の迎撃にもひと段落ついて、視界のずっと先にはアメリカ有数の魔法都市であるボストンが見えてくる。まさに、今回の作戦が行われる地点。
そんな彼らが立っている、輸送機の屋根からは遠くの景色がよく見えるのだ。……故に、一足先に見つけてしまった。
「……あれは……?」
あまりに目を疑うような光景だった。
***
「お疲れさま、一ノ瀬さん。これで第一段階もほぼ完了ね」
「ええ、小夜先生。でも、あれは……」
同時刻。途中で数えることもやめてしまうほどの、途方もない数の敵機を撃墜した二人は、第一段階のラストを飾る――空港の北側に位置する広い公園への着陸のために地上、陸地を眺めていた。
しかし、この上空からでも。明らかに異質なそれに目を奪われてしまう。
「島、みたいだけど……? でも、地図に島なんてなかったはず。代わりに、空港があったはずの場所が消えている? いや、まさかと思うけど……あの島が空港ってこと?」
「暗いのと、あの赤い結界が邪魔でよく見えませんが……状況的にそう考えるのが妥当ですね。それにしても、あの結界はまるで、何かを閉じ込めているような」
その何かとはわざわざ口に出して言うまでもないだろう。きっと、あの中には海外研修へ行ったきり帰れなくなってしまった二年生らが今も助けを待っているはず。
「良く言えば、探す手間が省けたけれど」
「悪く言えば、あれほどの規模の結界。どう破ればいいのか見当もつかないわ」
一進一退。しかし、予想外の状況とはいえ作戦はまだ第一段階。まずはあの地に降り立つ。考えるのはそれからだ。




